雄英高校
戦闘訓練 演習用ビルC。
核が鎮座する一室。
瀬呂が核の周囲をテープで覆う。
「あんなん見せられたらふざけた結果は出せないぜ」
「そりゃそうだ」
腕を硬化させながら切島が呟くと瀬呂も頷く。
対する《ヒーロー》は常闇と蛙吹。予測不能な動きと侮れない機動力、加えて死角がほとんどないだけに核のそばで待ち伏せして死守するよりほかない。
開始の合図を待ちながら戦闘のシミュレーションを頭に描く。
「西岐の瞬間移動でいきなり背後ってわけにはいかねえよな」
「あ……うん、見えないところには行けない……」
切島の問いかけに西岐の反応が少し遅れた。
モニタールームにいた時からそうだが少しぼんやりしている気がする。もともとがのんびりした感じだったから明確にどこがどうとは言えないが。
今は左右の手首についているブレスを確認している。
「なあ、れぇって呼んでいいか?」
「……え?」
「俺のことも鋭児郎って呼べよ」
「あ、俺も。れぇちゃんて呼びたい。俺のことは範太くんでいいよ」
「え……あ、え?」
唐突に思える会話だが一応切島なりの緊張をほぐそうとする試みだった。
瀬呂はその考えに乗っかったのが半分、本気で呼ばれたくて便乗したのが半分ってところだろう。
不意を突かれて面食う西岐に向けてニカッと歯を見せて笑ってやる。やっとこっちを見たなと言わんばかりに。
「うん、えっと、えいじろうくんと、はんたくん」
「れぇはフォローに回ってくれ。背後は任せた」
「……わかった」
扉に向かって構えたタイミングで開始の声が小型無線から聞こえる。
「ちくしょう、思ってた通りあいつら無音だぜ」
「いつくるかわかんねえな」
攻撃を待ち構える側というのがこれほどピリピリした時間を長く感じているものなのか。
ちらりと背後を伺えば、西岐はなにやら天井や壁を気にしている。ブレスと合わせて何かするのかもしれない。
「きた……かも」
西岐が言うが早いか、扉が吹き飛ぶ。
吹き飛ばしたのは常闇の個性ダークシャドウ。伸縮自在なうえに攻撃力も優れた万能型だ。
すぐさま切島が対応する。
前に出て刃状の腕で影に切りかかる。
だが中距離攻撃の常闇相手では分が悪い。完全近距離に特化した切島はダークシャドウの動きに翻弄されて扉に隙間を作ってしまう。
そこから蛙吹がするりと入り込み核目指して壁を突き進む。蛙吹を捉えようと瀬呂がテープを投げるが何度も躱される。
「瀬呂、天井に追い込め」
「あいよ!」
切島はわずかに立ち位置を引いて常闇を招き入れながら瀬呂に指示を飛ばす。
すぐさま瀬呂のテープが蛙吹を天井に向かわせるのに合わせて切島も常闇を壁際に追い詰める。
照明が点滅した。
と同時に常闇と蛙吹の動きが停止した。
「う……捕縛をお願い」
佇んだままの西岐が少し息を乱す。
西岐の体の筋肉が緊張していて表情もどこか険しい。
その一方で不自然に停止したまま微動だにしない蛙吹と常闇。彼が何かしているのは明白だった。
これが西岐の個性かと理解するや慌てて確保テープを常闇に巻き付ける。蛙吹には瀬呂のテープごと巻きつけた。
「ヴィランチーム、ウィイイイイイイン!!!!」
オールマイトの声が響く。
西岐が大きくゆっくり息を吸い込み、塊を押し出すように息を吐いた。
体の力が弛緩したのが分かる。個性を解いたのだろう。
常闇と蛙吹の身体が自然な形で揺れる。
「えいじろうくん、ありがとぉ。よくわかったね」
「天井見てたから何かと思ってさ、そしたらあれが見えて」
頬に汗を浮かべながらも笑みを浮かべる西岐に、切島は天井からぶら下がる照明を指さした。
よく見ると照明に照らされて光っている糸が見える。それが分かってさらによく見ると天井と壁に張り巡らされた糸が照明に向かって集中していた。
「床だと無意味になるから……助かっちゃった」
「切島ほんとよく気付いたよね」
「いやいや、れぇが一番すげえだろ、こんなんできるなんて知らなかったぜ」
「とんだ隠し芸だよな」
西岐が披露したのは相手の身動きを封じる個性で、それは体内の細胞電気を特殊な制御で相手に伝えることで発動するようだ。ブレスから延びる糸は特殊導線でできていて離れた相手に通電させられるらしい。
ただ、ゴム素材でできている靴底がネックで天井と壁に張り巡らしたのだそうだ。
恐ろしい個性に慄きながら蛙吹と常闇の拘束を解いてやる。二人とも悔しそうにしつつも西岐の実力に感心していた。
create 2017/10/02
update 2017/10/02
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