はじまり
アクシデント



 『中3から始める未来設計――まだ迷っている君に伝えたい大事なこと――』
 『ターニングポイント――未来を見据えるとき――』

 本屋から出てきた西岐は今買ったばかりのその2冊の本を袋の上から眺める。
 ついにこういう啓発本を求めるまでになってしまった。進路希望がそこまで縋りたい気持ちにさせているのだろうか。
 だが、明日までには何かしらの答えを出さなきゃいけないのだ。
 ぐっと袋を抱きしめて家までの道を辿る。

 駅までの道は時間帯が遅くなったこともあって人通りが多く、いつもの癖で裏路地の近道へと入る。ビルとビルの間のすれ違うのがやっとという細い道。
 西岐以外歩いている人をめったに見かけないその道でバタバタと騒々しい足音が複数響いてきた。と思うなり、激しく誰かとぶつかった。
 反動で壁に背中をぶつける。

「――っ!!」

 痛みに息をのむ。
 逞しさのかけらもない身体。もともと身体を動かすのは得意なほうではなく、鍛えるなんてしたことがない。もちろん反射神経だって鈍いわけで、咄嗟に避けることも受け身をとることも出来ず強かに打ちつけた。
 少しは身体を動かしたほうがいいかな……なんて暢気なことを考えながら相手を見た。
 大きなボストンバッグを抱えた大男。顔につけていたのであろうマスクが取れかかっている。異形型なのか頭から太いホースのような管が何本も垂れ下がっていてそれが彼にとっての頭髪なのだろうか。
 西岐と目が合うなり彼の表情に驚き・焦りが一気に広がり、ホース状の髪が西岐に向かって伸びてきた。

「何してんだ!」
「顔見られちまった」
「連れていくのかよ。まあいいや、早く乗せろ。」
「急げ!」

 車に乗り込みかけていた仲間《手が拳銃になっている男》が声を荒げる。慌てふためきながら西岐を拘束して車まで運ぶ《変な髪の男》と、ハンドルを握って指示をする《耳がアンテナになっている男》。拳銃男が再び声を荒げると車は急発進した。
 西岐は口と上半身をグルグルにされ後部座席に転がされる。拘束している男の髪はゴムでできているらしく解けそうにもない。
 しかも髪の束の一部がナイフを握って西岐に突きつけている。

「なんでこんなガキ連れてきたんだよっ」
「顔を見られちまったから」
「こんなお荷物連れてけねえっての」
「まあ、いい、ひとまず行くぞ。いざとなったら人質にでもするさ」

 車の中で思い思いに話す男達の会話によるとどうやら彼らは強盗をして逃げている最中らしい。そこに出くわした上に運悪く顔を見てしまったようだ。
 そういえばこのグルグル巻きの状態に覚えがある。
 これから廃工場に連れていかれるのだろうと観念して西岐は目を閉じた。
create 2017/09/22
update 2019/07/14
ヒロ×サイtop