雄英高校
負荷 爆豪がとっとと帰り、緑谷もいなくなり次第になんとなく帰宅する雰囲気になってきて、一人また一人と教室を後にしていく。
そんな中、西岐はひどくのんびりと自分の席に戻って今頃帰り支度を始める。
15分間の戦闘訓練のなかでたったあれだけしか能力を使っていないのに想像していたよりもはるかに疲労してしまっていた。みんながいる間は気を張っていたから大丈夫だった。ただの疲労だから時間が経てば消えるだろうと思っていたが違った。
導線を天井と壁全体に広げてすべてに通電するのは今の西岐にはとてつもない負担だったようだ。
それを感じ取った瞬間、悔しい気持ちが胸に広がる。他のクラスメイト達が、爆豪が、緑谷が、轟があれだけのことをしているのに自分はそこまでに及ばない。みんなが褒めてくれているがそれはたまたま運が良かっただけ、切島達が合わせてくれただけに過ぎない。
悔しい。
カバンに荷物を詰めていた手を止めて頭を埋める。
頭を揺らしたことでグラッと眩暈がした。
「西岐」
名前を呼ばれて顔を傾ける。流れた髪の間から相手を見上げる。
クラス一長身の男が西岐の上に影を落とす。
「具合が悪いのか? それとも落ち込んでるだけか?」
「……両方」
優しく問いかけられてポロリと本音が零れる。
なんとか体を起こして、顔を強めに撫でつける。
「ありがと、そろそろ帰るね」
気力をひねり出して立ち上がる。なんにせよ帰らねば休められないのだ。
しかし、次の瞬間フッと足の力が抜けてしまう。
気持ちと体がリンクしない。
だが西岐の身体が倒れることはなかった。
障子の腕が西岐をしっかりと支えてくれていた。
ハアとため息が聞こえる。珍しくマスクの下の口が動いた。
「西岐、なにかあるなら頼れ、見ててハラハラする」
「う……うん」
心配してくれているのが伝わってきて心に染み渡る。そういえばモニタールームで大丈夫かと気遣ってくれたのは障子の声だった気がする。
障子の腕が西岐の身体をひょいと持ち上げる。
空いた手に自分と西岐のカバンを重ねて持って歩きだす。
「俺が家まで連れて行ってやる。文句は聞かない」
勝手にやるというスタンスでいてくれようとしているのが分かって胸が温かくなる。
西岐は言葉で返す代わりに障子にしがみつくことでお願いしますと伝えた。
逞しい腕に支えられる安心感に西岐はそっと目を閉じたのだった。
create 2017/10/02
update 2017/10/02
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