雄英高校
爆豪組爆誕



 爆豪は朝一番にマスコミからヘドロの件を引っ張り出されて不機嫌な顔で教室に入った。
 切島達が挨拶がてら何気なく集まってくる。

「マスコミ凄すぎじゃね?」
「俺はなんかスルーされたけどな」
「しょうゆ顔だからな薄かったんだろ色々と」

 話すことと言ったら大体が下らない。
 右から左へと聞き流していると脈絡もなく話題が切り替わる。

「そーいや、れぇちゃんからLINE返ってこないんだよな」

 いかにも残念そうに言い放つ瀬呂の言葉にポケットに突っ込んだ手がピクリと跳ねる。

「あ、俺も。てか既読にすらならねぇ」
「れぇちゃんあんまりLINEしねーのかな」

 切島もスマホを手に取ってテキストチャットの画面を見ながら言う。
 どこにどう感情を持っていってどこからどう突っ込めばいいのか。
 まず、瀬呂のその馴れ馴れしい呼び方はどうした。
 さまざまなものが喉の手前までせり上がってくるがあと一歩のところで出てこない。爆豪のこじれきった性格が邪魔する。

「つーかいつの間に交換したんだって話だからな」
「昨日お前が先生にパシられてた時に」
「チクショー、つーか呼び方な!!」

 輪に入っていないらしい上鳴が悔し気に二人へ突っ込みを入れていると、独特のふにゃふにゃした声が耳に滑り込んでくる。
 扉を振り向くと案の定、西岐の姿が。
 少しいつもよりテンションが高いのか声がよく通る。
 連れ立って歩くのは、名前は思い出せないが確か個性把握テストの最中ずっと西岐に張り付いていた"タコ野郎"。

「れぇ! おっはよ!」

 気配りのできる男・切島が目敏く見つけるや大きなアクションで声をかける。
 爆豪の中に衝撃が走った。

「えいじろうくん、おはよぉ」

 第二の衝撃。
 今度は顔に出たかもしれない。
 何事もなかったように自分の席へと腰かけた"タコ野郎"とて、ちらっと見えた顔に明らかな動揺があった。
 感情のコントロールがいまひとつの爆豪が振り回されないほうがおかしい。
 いや、待てよ、何で振り回されているんだと自問自答が浮かぶ。

「れぇちゃん俺は?」
「はんたくんもおはよぉ」
「れぇちゃーーん、俺にもLINE教えてーー!!」
「え、あ、かみなりくん、いいよー」
「やーだー電気くんて呼んでくんなきゃやーだー」
「上鳴ウゼェ」

 通り過ぎて自分の席に行きたかったであろう西岐を取り囲むように絡む三人。西岐は別に気にしたそぶりも見せず、ねだられるままスマホをポケットから出した。
 画面を見るなり小さく『わ……履歴が』と驚いたのを爆豪は見逃さなかった。

「な、グループ作ろうぜ。名前は――爆豪組」
「やっべ強そう!」
「凶悪そう!」

 切島の提案に上鳴と瀬呂がナイスアイデアと乗っかる。ネーミングセンスにも特に異論がないようで寧ろ貶しているのか褒めているのかわからない言葉で盛り上がる。

「なんで俺の名前なんだよッ」

 さすがにこればかりは無視できなかった。
 思わず身を乗り出すと瀬呂の口元ににやにやした笑みが張り付く。

「爆豪は不参加なわけだな」
「じゃあ俺らとれぇの4人ってことだな」
「クソ参加するわ! シネッ!!」
「はい! 爆豪組爆誕!」

 切島もにやにやと笑って手玉に取るようなわざとらしいセリフを交わす。
 そう言われてしまうと爆豪は弱かった。そこに自分が参加していないのはなんとなく腑に落ちない気がした。西岐が参加しているならなおさらだ。
 上鳴が謎の決めポーズをとりながら一斉に招待を送ったのだろう。ピロンピロンと通知が複数鳴り響く。

「わあ……俺、男子のグループはじめてだ」

 妙に感慨深げに声を漏らす西岐。

「女子のグループはあるってことだよな」
「うん、昨日も誘われた」
「れぇちゃんはもう女子カウントでいいんじゃね?」

 躊躇いなく答えるあたり、西岐にとってそれは別におかしなことではないようだ。女子カウントという言葉に納得してしまう。
 爆豪が参加を押し確認するとすでにこの場の全員が入っていた。早速トーク画面に瀬呂と上鳴の特に意味のない謎スタンプが羅列する。このメンバーだと通知がうるさくなりそうだ
 しかし通知オフにしないのは思うところがあるから。

「おい、根暗」

 自分のことだとわからなかったのか西岐はスマホの画面を見たままだ。
 上履きの先で軽く蹴る。

「え?」
「お前のやつ追加すんぞ」
「え、あ、うん」

 質問でも確認でもなく決定事項を告げただけに過ぎないが、爆豪にしては言えたほうだ。
 個別のトーク画面に短く追加した旨をコメントすると、『俺もしました』と丁寧に返ってきた。なぜか敬語だ。薄々感じてはいたけれど確信する。西岐は自分のことが苦手だと。
 もともと西岐のようなタイプには怖がられる。仕方のないことだ。
 そんなこと気にしたことは一度もなかった。
 なのにどうして胸がざわつくのか。

 悶々としている間も頭上で会話が飛び交う。

「昨日忙しかったん? 返事待ってたんだぜ」
「ううん、寝てた」
「それでか既読もつかなかったのは。れぇは寝るの早そう」
「早いよぉ」
「爆豪は起きてるけど返事しなそー」
「うっせーオメエら全員うっせー!!!!」

 やけにちやちやほやほやした会話に爆豪の堪忍袋の緒が切れる。
 馴れ馴れしく呼んでんじゃねーと口から怒鳴り散らしてしまいそうになるが、相澤の登場でそれをどうにか飲み込んだ。
create 2017/10/02
update 2017/10/02
ヒロ×サイtop