雄英高校
学級委員長



「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させてもらった」

 いの一番に相澤から出た言葉がこれだ。
 まず爆豪が真っ先に名指しで苦言を呈される。そのことに関してはとっくに自覚済みだ。だからこそ改めて言われると耳に痛い。自分を見つめなおすのもそうたやすくない。
 だが目指すもののためなら自尊心が砕けようが己を鼓舞できる。
 投げられた苦言を噛みしめるように低く、小さく返事の言葉を口にする。

 緑谷にも同様、個性についての一言二言。
 叱るけど認めもするのが相澤のスタンスなのだろう、緑谷は簡単にやる気を上昇させた。

 戦闘訓練に関しては以上かと思いきや相澤の目はさらに後ろの席へと滑る。
 相澤の視線は先の二人に対するものよりずっと鋭い。

「それと西岐、言いたいことはわかるよな。後で俺のところへ来い」
「? はい」

 西岐の返事の直前の疑問符に何人かは気付いたかもしれない。爆豪は気付いた。絶対相澤の言いたいことなど分かっていないに違いない。
 しばらく相澤も西岐に呆れた目を向けていたがまあいいとクラスに意識を戻した。

 今日のHRは学級委員長を決める、ということでクラスが一気に沸き立つ。
 ほとんどの生徒が我先にと手を上げる。もちろん爆豪もだ。
 だが、ちらっと後ろを伺うと西岐は手を上げないどころか興味なさそうに手元の何かを見ている。
 爆豪には彼がどうしてヒーロー志望なのか全く理解できなかった。自ら前に出るでもなく力を見せつけるでもなく、むしろ庇護対象者のような雰囲気さえ感じさせる。それを言えば緑谷も同じようなものだがしかし緑谷は誰より"ヒーローでいようとする"。前へ前へと出る気持ちがある。爆豪はそのことをよく知っていた。それだけに西岐のことがよくわからないのだ。

 飯田の発案で委員長決めは投票で行うことになった。
 そして開票。
 結果は緑谷3票、八百万2票、西岐2票、以下1票が多数。
 意外な結果に緑谷が慄いているが、爆豪も冷静でいられなかった。よりにもよって緑谷に出し抜かれるとは……。

「やおももとれぇちゃん同票だけどどうすんの?」
「じゃんけん?」

 2人が同票になってしまったことでクラスが少々困惑する。
 発案者も想定していなかったのか、0票だったダメージで考えられないのか解決策の提示はない。
 するとここで西岐の手が上がった。

「あ、俺は副委員長とかいいです、あの……ももちゃんがいいと思います」

 まさかの辞退宣言。
 驚きで爆豪の顔が強張る。本気で西岐の考えていることが分からないと思った。
 自発でなくても他者から推されて上に立つことだってあるだろう。それがヒーローのカリスマ性というものの一つだ。それすらも要らないというなら西岐の目指すヒーロー像とはどんなものなのか。襟首を掴んで問いただしたい気持ちに駆られる。

 けれど他のクラスメイト達は簡単に了承してしまった。
 本人が言うならそれでいいということか。

 釈然としない気持ちのままHRを終えた。
create 2017/10/02
update 2017/10/02
ヒロ×サイtop