雄英高校
兆し《セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください。繰り返します。セキュリティ――……》
自動アナウンスが繰り返し鳴り響く中、食堂にいた生徒は大きく動揺していた。
ざわざわと落ち着きがなくなったかと思うと、理解するや否や、慌てて立ち上がり我先にと廊下へ駆けていく。
入学したばかりの1年も例外ではなく雰囲気に飲まれ人ごみに流され始める。
避難しろとの指示だ。動揺とまでいかなくても切島達も出口に向かおうと立ち上がる。
爆豪もとくに異論はなくそれに続いた。
当然同じくついてくると思った西岐はまだ椅子に座ったままどこかを見ている。
「おい、根暗ボケッ。ぼーっとしてんじゃねえ」
「あ……ごめん」
声をかけると反射的に立ち上がる。
周りなど見えていなかったのだろう。後ろから走ってきた他の生徒に引っ掛けられてつんのめる。
反応速度は他の追随を許さない自負がある。
思わず、咄嗟に手が出ていた。
倒れ掛かった西岐の身体を片腕で受け止める。
そのあともぶつかる勢いで走っていく生徒から避難すべくプランターの陰に西岐を押しやり、自分の身体で壁を作って覆った。
何人かが爆豪の肩や背にぶつかって身体が微かに揺れる。
「チッ、あれでも雄英の生徒かよ」
無残なパニックぶりに怒りを通り越して呆れる。
もうあの集団の中を行く気がなくなって、人が捌けるのをそのまま待った。
プランターに置いた手にふわっとした感触が振れる。
「あ、ありがとう、ばくごうくん」
声のほうを振り向くと想像以上の至近距離に西岐がいた。
急に跳ね上がる心臓。
体温が上がった気がする。
その一方で思考の一部がやけに冷静になっていく。
西岐の頬のラインを眺めながら"ありなのかもしれないな"と納得している自分がいる。
「勝己」
何の抵抗もなく口から滑り出る。
「勝己だ。そう呼べ」
「え」
「わかったな、れぇ」
はっきり聞こえやすいように名前を呼んだ。今までの苛立ちの一端が解消された気がする。
自分以外が馴れ馴れしく名前を呼ぶのが気に食わなかった。
ただそれだけのことだ。
「えっと……わかった。かつきくんだね」
「――ふん」
しっかり西岐が言葉にするのを確認して爆豪は満足した。
西岐の前から体をどかして手近な椅子に腰かける。
「すっかり避難しそこなったな。まあ逃げるなんざ性に合わねえけど」
「うん……でも大丈夫そう」
「は?」
「侵入してきたの、マスコミみたい。警察も来たから、たぶんもう大丈夫」
「――は?」
言っている意味が分からなくて疑問符を投げるが、西岐はまだプランターの陰に佇んだままどこかを見つめている。何かを見ているようで見ていない姿は困惑させる。
見えるわけがない。爆豪たちは見える場所にいない。
どうしてそんなことが分かるのか。
「なんで分かんだよ」
「え?……あれ、なんでだろう」
「……おい」
きょとんとして不思議そうにする西岐に力が抜ける。
「でも、ね、なにか怖いことが起きるんだと思う」
西岐がそう呟いた時、どうしてか爆豪は入学初日の朝のことを思い出していた。
眠ったまま泣いていた西岐の顔を。苦しげに漏れた声を。
あれがこれから起きることの前触れな気がしていた。
create 2017/10/02
update 2017/10/02
ヒロ×サイ|top