雄英高校
放課後



 昼の騒動は警察が来たことで無事収まり、午後のHRで飯田が委員長に就任したり、その他委員が決まったりした放課後。
 荷物をまとめて帰ろうとした矢先、相澤が教室に顔を出した。

「西岐、俺のところに来いって言ったよな」
「……あ」

 すっかり忘れていた、とは言えなかったが不自然な間と漏れてしまった声で相澤にはバレバレだっただろう。
 相澤の表情が険しくなったので慌てて後を追いかける。
 人通りの少ない廊下まで来て唐突に切り出される。

「まず、電話もLINEも返事がない」
「あ……、あ、ごめんなさい」

 不機嫌な声に西岐は首を竦めた。
 そう、朝切島達からスマホの話題を出されて画面を見た時に大量の履歴があることに気付いていた。けれど返信するタイミングがなかったのもあってそのまま忘れてしまっていたのだ。
 元々、返事がマメなほうではないのだが、相澤からの連絡に返事をしないというのは滅多にないことなので彼からすれば何が起きたのかと思ったのだろう。

「で、昨夜はどこで何してた」
「え?」
「昨夜お前の家に行ったけどいなかっただろ」

 昨夜と考える。
 考えるが昨夜の記憶はない。
 あるわけがなかった。西岐は今日の朝まで気を失っていたのだから。

「あ、しょうじくんの家にいました」
「……なんで」
「えっと、あの俺、気を失っちゃって、熱あったみたいで、しょうじくんが運んでくれたみたいで」

 特に隠すつもりはなく正直に答えたのだが、相澤の表情は険しさが増す一方だ。いつ抹消が発動してもおかしくないほど眼光は鋭い。
 だが瞬きのついでに視線が外される。
 はあっと相澤のため息。

「どうせ戦闘訓練で個性を使いすぎたんだろ。あきらかにキャパオーバーだもんな。あのコスチュームの装備どうなってるかしらねぇけど辺り一帯に抑制かけたんだよな」
「……はい、壁と天井……うまく糸を散らせなくて天井にほとんど集中してたけど」

 VTRを見ただけでそこまで的確に見抜くとはさすが雄英の教師だ。
 ズバズバと指摘されて西岐の声はどんどん消え入りそうに小さくしぼんでいく。

「お前もいい加減個性の使い方覚えろ。毎度そこまで負担かかってちゃ使い物にならないよ」
「はい」

 もうここまで来ると半分くらい泣きそうになる。
 戦闘訓練での自分の無能さ加減はよく自覚していたし、このままじゃ通用しないことも訓練の中で突き付けられた。ライバルたちがどれくらいの高みにいるのかも。
 昨日駆け巡った悔しさが蘇ってグッとこらえる。

「それと――」

 相澤が距離を詰めた。
 西岐の顎に指をひっかけて上を向かせた。

「やばい時は俺に連絡しろ」
「あ……」
「何かあったなら必ず俺に言え、俺を頼れ」

 合わせた視線の先、相澤の目は怒ってはいなかった。
 優しい目で西岐を見ていた。
 今まで家に帰らないことや連絡をしないことで怒ってくれる人なんていなかった。心配してくれる人もいなかった。こんなことは初めてだった。
 嬉しい。
 ……嬉しい。
 西岐は声も出ないまま何度も頷いていた。





「で、障子とは何もなかったのか」

 その後相澤からの謎の質問攻めがしつこかったのはまた別の話。
create 2017/10/02
update 2017/10/02
ヒロ×サイtop