USJ
バス移動 午後のヒーロー基礎学になって西岐はようやく目を覚ました。
一応轟は昼休み前にも声をかけたが昼食をとらず睡眠に充てていた。今もしっかりとは覚醒していないようで不安定に揺れながら黒板のほうを見ている。
相澤からの説明をまとめると『指導は相澤とオールマイトともう一人の三人体制で行うこと』、『今日行うのは人命救助訓練であること』、『各自の判断でコスチュームの着用』、『訓練場まではバスで移動する』とのことだった。
更衣室を経由してほとんどの者がコスチュームを着用し、校内バスのターミナルに集まる。
飯田の指示のもと番号順でバスに乗る。最後に乗り込んだ西岐が空いている席を探して視線を彷徨わせているのが分かった。
「西岐、こっちだ」
片手をあげて呼んでやると西岐は笑みを浮かべて足早に向かってくる。
それと同時にいくつかの視線が集まった。
「ありがとう」
「……いや」
同じ会話を繰り返しているなと思って微妙に困惑する轟の横に西岐が腰かけるとバスは動き出した。
前方の席が賑やかになりクラスメイトの意識が前へ向く。
しかし西岐は別にそれに関心を向けるでもなく無言でバスの揺れに身体を預けている。
「まだ眠いなら寝てればいい、起こしてやるから」
「え?……あ、ううん、だいじょうぶ」
不器用ながらも気遣ったつもりだが一瞬伝わらなかったらしく間が空き、ゆっくりと頭を左右に振った。自分も人にペースを合わせられないほうだと自覚しているが西岐も大概マイペースだ。
西岐の顔が轟に向いたまま微かに上下にスライドする。
「とどろきくんのコスチュームかっこいいよねぇ」
唐突に褒められてしばし止まる。
それから頬に朱が走った。
容姿を褒められることはそれなりにあった気がするがコスチュームは自分の内面にあるセンスだ。素直に嬉しい。
「こっちがわ、なんで氷なの? 氷が使えるから?」
質問にしても言葉選びがわりとストレートだ。
その毒っ気のなさとさっきの照れも相まって轟の口を軽くしていた。
「俺の個性は半冷半燃でこっちは炎が使える……けど、戦闘では使いたくないからその意思表示のためにこうしてる」
そう返すとなぜか西岐はパァッと表情を明るくした。
「え、すごいね。そしたらさ人助けに使えばいいよね、すごいね」
轟は虚を突かれて思わず目を瞠った。
理由やいきさつを説明していないとはいえ個性に対して押さえつける考えを言ったつもりだった。
こういうことを言えば大抵の人間は折角の強い個性なのにもったいないと知ったようなことを言ったり、轟の物言いに気圧されて腫物に触れたような顔をしたりするものなのに。
こんなふうに肯定的に返されるとは思ってもみなかった。
「左でお肉焼いて、右でアイス作れるね」
「……それはなんか違う」
頬を染めたまま小さく拳を作る西岐につい口元が緩む。手を当てて隠し窓の外を見ることで誤魔化した。
ちょうどいいタイミングでバスが停止して轟はほっと息を吐いた。
降りていくクラスメイトの物音や話し声で胸の中のざわざわが掻き消された気がした。
create 2017/10/08
update 2023/10/22
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