USJ
防衛戦



 相澤を気にしていないかといえば嘘になる。一人であの数のヴィランを相手にするのは無理があるのではないか。助っ人を呼びに行こうにもあの黒いモヤの存在が邪魔をしてスムーズにいかせてくれないだろう。しかも相手は"オールマイトを倒す算段"が整っている可能性が高い。
 それでも施設内に散らされたクラスメイト達の安否が気にかかって西岐は飛び出してしまった。
 一旦、青いドーム前の塀に身を隠し施設内をぐるりと見渡す。
 大丈夫、きちんと"視"えている。視認さえできれば西岐はどこへでも行ける。
 小さく声を発すると同時に移動した。





 そこは暴風大雨ゾーン。
 姿を現すなり横殴りの雨に叩きつけられて反射的に目をつぶりそうになったがどうにか堪える。周囲に何人ものヴィランが確認できたからだ。

「――西岐!?」

 取り囲まれている円の中心、背を向けて立つ常闇が驚く。つられて振り返った口田も声を出さないものの同じく驚いたようだ。
 西岐はそれよりもこの場の状況に戸惑っていた。
 雨と風による災害を想定して作られた施設なのだろうが、自分も常闇や口田も辺り一面どころか施設中が水に浸っているような状況だ。
 西岐の抑制は自身の細胞電気を相手に伝えることで発動するもので、通電の仕方は普通の電気と何ら変わらない。つまりこんなに水に濡れていてはショートして必要以上に細胞電気を使ってしまいかねないし、意図しないところに通電して常闇たちの攻撃を阻んでしまいかねない。
 聞くところによれば口田の個性もこの環境が適していないらしい。個性が使えない分、立派な身体能力でカバーに回ってもらうことになり、実質的な攻撃手は常闇だけとなる。
 頬を伝う雨のしずくと肌に張り付く服の不快感に西岐は前髪の内側で眉を顰めた。

「あ……えっと、俺が動きとめるから、あの……」
「攻撃すればいいんだな」
「れぇチャン! アイヨ!!」

 西岐が抑制を使うと判断したらしい常闇とダークシャドウの返事。
 しかし使うのは抑制ではない。
 強い風で重たく揺れる前髪を両手で後ろに撫でつけ、できるだけ広範囲を視界に入れる。雨が目に入るが構わず目を開く。
 わずかな唇の隙間から細くゆっくりと息を吐く。
 隙間風のような口笛のようなか細い音が暴風雨に紛れる。

 ズルリ、と。
 黒いどろどろしたものが足元で蠢く。
 いくつも地面から湧き出てきてヴィランの足に纏わりつく。

「わあああ!!」
「なんだコレェ!!!」
「ひいいいっ!!」

 足から次第に全身に絡みつきそれによって身動きが取れないままヴィランは恐怖に戦慄く。

 異様な光景に常闇と口田が混乱している。二人が今のヴィランたちの状況を理解できないのも無理はない。
 あの黒いどろどろした物体は二人には見えていないのだ。ついでに言うと視界に入りきらなかった一部のヴィランにも見えていない。しかし仲間の異様な様子のせいで警戒し動きを封じられているのだから成功だろう。

 これは息を吐いている間だけ視認できる相手に幻覚を見せることができる《幻影》という西岐の能力だ。幻覚を見せる間は息を吐いて視界に入れていなければならないため、比較的短時間の発動で成功率も低く、効果に対して反動が大きく不得手なほうの能力になる。
 しかし今回に限っては成功したほうだろう。ほとんどのヴィランに効果が出ている。
 あとは常闇が攻撃をしてくれれば一掃できるのだが、混乱しすぎたのか攻撃に移る様子がない。
 呼吸はそれほど長くはもたない。

 焦ったその時、西岐の横をダークシャドウがすり抜けた。
 ダークシャドウは自発的に動けるのか。西岐の目が、ヴィランを一撃で薙ぎ倒していくダークシャドウを映して少し驚く。
 射程距離の長さと圧倒的な機動力はさすがというべきか。戦闘訓練の時にすでにその強さを間近で見て知っていたが、いざヴィランとの戦闘という場においてこれほど心強いとは。
 息が途切れきる前にその場は静かになっていた。

「ここにいるヴィランはこれだけか」

 ダークシャドウが敵に飛び掛かったあたりで我に返ったらしい常闇は倒れているヴィランを一瞥して息を吐く。
 西岐も吸えるだけ大きく息を吸っては顔の筋肉を弛緩させる。

「もしかしたら……あちこちにまだ散らばってるかも」
「それでも大分片付いた」
「クロくんのおかげだよぉ、ねー」
「ネー!」

 ドーム内にまだいくつかヴィランの気配が感じられたが先程の常闇の実力があるならば西岐の協力がなかったとしても大丈夫だったに違いない。
 一番の功労者であるダークシャドウを褒めれば嬉しそうな声が返ってくる。
 少しの時間、和やかな空気に包まれるがまだやるべきことは残っていて、西岐は気を引き締める。

「俺ね、他の人たちが大丈夫か……あの、見て回りたいんだ」
「……わかった、ここは大丈夫だ。行け」

 まだ彼らを完全に安全な状況にしたわけではない。けれどヴィランの残り具合と常闇の個性を秤にかけて任せられると判断しての言葉だった。
 言い淀む西岐の背を押すように常闇は言ってくれる。
 有難く頷き、そして次の場所へと身を移した。





  そこは水難ゾーン。
 船の舳先に足がつくと同時に船が割れた。水を使えるヴィランの凄まじい力によって破壊されたらしい。
 唐突に足場が不安定になり西岐は船の床に手を突く。
 斜めになって沈み始めた船の上で緑谷たち三人はまだ何か話し合っている様子だった。峰田が怯えて喚き散らすのが聞こえる。もしかしたら対抗手段がないのかもしれない。
 西岐は船の上から見つからないようにヴィランを見下ろす。
 ヴィランは全員水の中にいる。またしても水。西岐の能力には不利な状況だ。加えて西岐にも強力な攻撃手段がない。
 全員を連れてどこか安全な場所に瞬間移動したほうが早いかと三人のほうへ踏み出す。
 が、緑谷が勢いよく船から飛び出した。

「死ぃねぇぇぇ!!!」

 どこかで聞いたことのある掛け声とともに拳、いや中指を構えている。
 抑制するまでもなくヴィランはじっとしていて、緑谷に向かって何かを仕掛ける気はないようだった。
 このまま戦闘訓練で見た彼の力が水面にむけて炸裂するのなら吹き上げる水柱で船が吹き飛ぶだろう。
 蛙吹が峰田を抱きかかえて跳ぶのを見届けてから西岐は次へと移動することにした。





 そこは火災ゾーン。
 先程の暴風雨でずぶ濡れになったはずの服の端がチリチリと焦げている気がした。あちこちの建物で上がる炎と熱気、おびただしい量の煙に苦しくなる。
 もう少し先には尾白が身を潜めている角がある。
 後ろの通りから数人のヴィランの足音が近づいてくる。
 火で糸が焼き切れてしまう可能性があったが水場より遥かにやりやすい。広場でやったのと同じように空中に糸を撒き散らす。ふわりと落ちる糸が走ってきたヴィランの頭に降りかかり抑制がかかる。

「おじろくんっ、攻撃おねがい」

 角から顔を出した尾白は西岐の存在に驚くもすぐさまヴィランそれぞれに尻尾の一撃をお見舞いする。
 物音に気付いたヴィランの仲間たちが次々駆けつけてくる。まとまって向かってきてくれるならそのほうが西岐にとっては都合がいい。何度も少人数相手に抑制糸を駆使するより出来るだけ纏めて一度に済ませられるほうが楽なのだ。あまりに広範囲すぎると一気にキャパオーバーしてしまうからなんにせよ限度はあるが。
 束になっている先頭に糸を浴びせ動きを封じると、尾白は察して攻撃してくれる。

「西岐もここにいたの? 全然気づかなかったけど」
「ううん、広場からきたの。えっと……おじろくんはずっと一人でいたの?」
「え? そうだけどなんで?」
「……今のかんじで全員倒していこう」

 尾白の返答を聞くかぎりどうやらここが一番の難関のようだ。一人でこの数を相手にしていたのはさすがだがやはり不利だろう。
 けれど先程の暴風大雨ゾーンの時にも感じたが、生徒に充てられたヴィランはどうも相澤が広場で相手にしていた者たちよりも幾分か劣るような気がする。向こうも有象無象の類ではあったがこちらは本当に端くれといったところか。
 仲間が身動き取れなくなり、目を凝らせば見えるはずの抑制糸が張り巡らされているというのに、安易に踏み入れてはヴィランが次々と勝手に身動きを封じられている。

「これは、だいぶやりやすい。助かるよ」

 相手は微動だにしない的だ。尾白の攻撃が綺麗に決まってヴィランが吹き飛んでいく。

「あ……これでぜんぶ?」
「少なくともこの辺はもういないんじゃないかな」
「そっか、あのそれじゃ俺、他の人のとこ行ってもいい? その……無事か見て回ってるの」
「あ、そういうことか。いいよ、俺も心配だし行ってきてくれ」

 あらかた片付いたのを見ておずおずと西岐が切り出すと、尾白はなぜこの場に西岐がいるのかやっと合点がいったらしく快く頷いてくれた。
 一人でこの場に残る尾白に少し申し訳なさを感じつつ西岐は次に向かうのだった。





 そこは火災ゾーンのすぐ近くの木が密集している場所。林。
 ヴィランもいないその場所に身を潜めるようにして座り込んでいる青山を見つけた。
 西岐は近くの木の枝に降り立ちしばらく思案していた。青山がどういう意図でそこにいるのか分からなかったのもあるし、本人自ら身の安全を確保できているようなので西岐が声をかける意味が特になかったからだ。
 もしかしたら声をかけることによって彼の矜持に傷がつくかもしれない。
 そっと静かに姿を消した。





 そこは山岳ゾーン。
 降り立った岩山の真下に広がるヴィランの数。ここは特に異様に多いように見える。
 上鳴がヴィランに体当たりして電撃を食らわせている。下手に降りて糸を撒き散らすわけにはいかないなと思案する。ブレスから延びるこの糸は西岐の身体から発する細胞電気を相手に伝達するための特殊導線で、もちろん逆からの通電も出来てしまう。おそらく上鳴の放電のほうが西岐のものよりずっと強力に違いない。
 尻込みしていると視界の先で八百万の背中が異様に膨れ上がる。重たげな音を立てて舞い上がったのは絶縁体のシート。電気を駆使する能力を持つからこそ一瞬でわかる。
 岩山の上から周囲一帯に糸を降らせて彼女たちがシートに包まり電撃がくるまでの数秒、ヴィランたちの足止めをする。

「これなら俺は……クソ強え!」

 一気に放たれる電気に合わせて西岐は自分の抑制糸をブレスに仕込んであるナイフで切断する。が、少し遅かった。
 手首に痺れと衝撃が走り刃先が跳ねる。コントロールを失ったままナイフで切るというより引きちぎって通電から逃れる。糸が比較的脆くできていたのが救いだった。
 火傷と痺れが残る手首を抑える。

「……っ、でんきくん、すごいな。俺もこれくらいあればいろいろできるんだけど」

 一網打尽となったヴィランたちを見下ろし上鳴へ素直に感心を向けた。それと少しの羨望も。
 この場でできることはもうないだろうと判断して西岐は次の場所へと移動した。





  そこは土砂ゾーン。
 足を下した地面の数メートル先から氷がスーッと伸びてきて西岐は慌てて後退る。

「わ、わわ」

 咄嗟のことで瞬間移動をする余裕もなく、足場の悪い地面の上でぴょんぴょん飛び跳ねどうにか避けきる。あと少し気付くのが遅かったら凍ってしまっていたに違いない。
 ここは土砂災害を想定した施設で家屋が土に埋まっていたり土石流に流された大木が突き出していたりしている……はずなのだが、氷が張り巡らされているそこは一見すると雪山かなにかに思えてくる。
 周囲に散らばっている氷のオブジェのようなものはもしかしなくともヴィランだ。

「……西岐?」

 振り返った轟の目が驚きに見開かれる。
 こんな顔を今日は何度も見ている気がする。施設のあちこちに現れるたびに驚かれているのだから当然か。

「ほんとに……とどろきくんはすごいねぇ」
「どうしてここに」

 氷で滑らないように気を付けながら轟のもとへと向かう。
 素直に感動を伝えると轟の頬が色づく。

「えっと、みんなだいじょうぶかなって……見て回ってて」

 意図を伝えるなりじっと目を覗き込まれる。
 暴風大雨ゾーンで髪を後ろに撫でつけてから前髪はずっとそのままだったのだがそれには気がいかず、どちらかというと水と炎でよれよれになってしまった格好を気にして煤を払ってみたり裾を引っ張って皺をとろうと試みたり……。
 大抵いつものことだが西岐が気にしていることと相手が思っていることには大きなずれがあったりする。ずれ方も大概だがそもそも論点が違ったりするから空気を読んで察するのは難しい。

「西岐はすごいな」

 何故か褒められて反応速度が落ちる。

「俺はそんな風に考えたりできない、思ってもみなかったから」

 言われていることがやはりよくわからない。
 轟の言葉は時々どこか遠くの何かに話しかけているような錯覚を覚えさせる。
 西岐は言われた言葉を反芻して意味を探していて、周囲には気が回っていなかった。
 前後から、獲物を持ったヴィランが襲い掛かる。

 瞬時、氷が走る。
 前方のヴィランは足元から凍り、西岐の後方から来たヴィランは棒状の武器を掴まれて凍らされた。

「油断するな」

 一見冷たそうに見える目を間近で見て実際はそうでもないなとぼんやり考えている西岐に轟が呆れたように眉を寄せる。最初に見た時よりじわじわと表情が変化するようになってきたと思う。
 庇うように抱き寄せられ、ものすごく近くなった距離から目や表情がよく見える。
 西岐の視線に耐え切れなくなったのか轟の頬に赤みが増す。

「ふふ、ありがとぉ。助けにきたのに助けられてしまった」

 腕から解放して距離をとる轟を追いかけることはせずお礼を言った。
 攻撃に対しての反応速度や個性の瞬殺っぷりは相変わらず素晴らしく西岐の出る幕などあるはずがなかった。喜ばしいような残念なような。

「そしたらさ、俺はほかのところに行ってもいいかな。あの、まだ全部見てないから」
「……ああ」

 少し間が空いたが了承は得られた。
 さて次へ、と向かおうとして振り返って気付いた。

「あ、とおるちゃんも気を付けてね、じゃ」

 土砂に埋もれかかっている家屋の前に何気なく立っている葉隠の姿に。やもすれば見落としそうな宙に浮いている手袋に。
 小さく手を振ると振り返してくれる。
 彼女が氷漬けにならなくてよかったと思いながら西岐は次へ移動した。





 そこは倒壊ゾーン。
 ビルが斜めになっていたり、壁がなくなっていたり、瓦礫が山になっていたりする。
 土砂のところでも思ったが自分は足場の悪い場所があまり得意ではないようだ。床に足を置こうとしてコンクリートの破片を踏み危うく転びそうになった。
 よろけつつも壁に手をついて凌ぐがそのすぐ近くで爆発が起き、粉塵から顔を庇う。
 屋内戦闘、それも倒壊寸前の建物内だというのに爆豪は相変わらず遠慮なく個性を炸裂させているらしい。壁には叩きつけられたヴィランが埋め込まれている。
 窓のほうでは切島が硬化した腕や身体で相手の攻撃を受け止めては薙ぎ払っていた。
 二人がいるとわかっていた時点で助けや心配など不要なことはわかっていたがすべてを回ると決めた以上来ないわけにはいかなかった。
 できるだけ部屋の端にいて巻き込まれないように、邪魔をしないようにと気を配る。それでできれば二人が油断してしまった時などにフォローができたらなおよしなのだが。

 圧倒的な強さが西岐を油断させたのか。ヴィランは部屋の中にいるだけだという先入観もあったかもしれない。
 壁を伝ってヴィランの様子を探りつつ移動していた西岐は扉のない出入り口のそばに来ていた。
 背中に何かがぶつかったと思った時には首に腕を回されていた。

「よぉし、てめぇら動くんじゃねえ、大人しくしろよ」
「――れぇッ!!!?」

 ヴィランの腕にぶら下がって息ができないほど強く拘束されている西岐を見て爆豪と切島が激しく動揺する。まずその場にいたことに対する驚きと人質にされていることに対する衝撃だろう。
 しかし二人が"大人しく"するはずがなかった。

 西岐の首に回っているのがただの腕である以上拘束に意味はない。
 苦しさに顔を歪めながらも両手でヴィランの腕を掴み思い切り通電した。必要以上の電気量だったかもしれない。強く発したせいで長く保たず抑制が途切れる。
 それとほぼ同時にヴィランの顔面が爆破し、次いで強固な拳が叩きつけられた。
 人質作戦も空しく床に崩れ落ちるヴィランを見て、

「……痛そう」

思わず呟いてしまったのは仕方ない。

「れぇ、大丈夫か」
「あ、うん、だいじょうぶだよ」

 ヴィランの腕に絡まったまま一緒に床に転がった西岐に切島が手を差し出してくれる。手を借りて立ち上がるが強く絞められた喉に違和感が残っていた。

「……つーか、てめェなんでそんなボロボロなんだ」

 喉の違和感を払拭しようと小さく咳払いしていると爆豪の不機嫌そうな質問が飛んでくる。いつもの喚くような物言いではないが返答次第ではスイッチが切り替わりかねない。
 ちらっと表情を伺って珍しく言葉を選んでみる。

「えっと、心配で、あの、あちこち回ってて……あ、炎のとことかあって」

 選んだところで急に説明がうまくなるわけでもなく寧ろかえってまごついてしまう。
 爆豪の望んだ返答ではなかったらしく目を細める以外反応はない。
 かわりに切島が割って入った。

「回ったって、USJんなか全部? みんなどうだった、大丈夫だったか」
「あ、うん。多分ここで全部……戻ったら一周かな。散らばってたみんなはねだいじょうぶだった」
「そっか。俺らが先走ったせいでこんなことになっちまって……ホントなら俺らが助けに行くべきなのにすまなかったな」
「え、なんで、だいじょうぶだよ」

 この事態にひどく責任を感じているのだろう。切島はクラスメイト達の身を案じ、自責の念を吐き出した。
 西岐のフォローの言葉がどれだけ役に立つのか分からないがしないではいられない。
 それを聞いていたのかいないのか爆豪はいきなり切り出す。

「俺はあのワープゲートをぶっ殺す!」

 間髪入れずに切島の突っ込みが入り対策云々の会話が繰り広げられる。
 ワープゲートという単語に西岐はあの黒いモヤ状のヴィランの存在を思い出した。施設内をすべて回り切ったとはいえあのヴィランが野放しではまたいつ誰が飛ばされていたとしてもおかしくない。
 USJの出入り口付近へ目を向けるとちょうど飯田が外へと走り抜けるところだった。黒いモヤは出口より少し離れた宙に浮いていたがすぐ消え、手のひらを張り付けた死柄木と呼ばれた男のそばに現れる。

 そこから何気なく視線をずらして西岐の時間が止まった。
 あの脳みそが剥き出しの不気味な怪物が押しつぶしているのは相澤ではないのか。
 腕が、頭が地面にめり込んでいる。

「先に行く」

 短く告げて西岐はその場から姿を消した。
create 2017/10/10
update 2017/10/10
ヒロ×サイtop