USJ
平和の象徴「待ったよヒーロー、社会のごみめ」
額に触れた指が死柄木の意識と共に剥がれる。
大本命であるオールマイトの登場で死柄木の中の何かが歪むのを感じた。
吐き出す一つ一つがいびつで不快を纏う。
抱きかかえる西岐の腕の中で蛙吹が舌を伸ばし緑谷の身体に巻き付ける。西岐も緑谷の腕をしっかり握る。今ならばここから抜け出せるだろうか。
敵味方を含めてほぼすべての意識がオールマイトへと向かっていた。
存在感の大きさを改めて思い知らされる。
オールマイトは広場でどよめく有象無象のヴィランたちを薙ぎ倒しながら瞬く間に相澤のもとへと移動した。あまりの速さに何が起きたかわからぬままヴィランたちが崩れていく。
抱えあげられた相澤は力なくだらりと腕をぶら下げている。
怒りの目がこちらに向く。
死柄木の背後で眼差しを受けた西岐は思わず身を縮めてしまった。
そして次の瞬間にはもうオールマイトの腕に抱きかかえられて死柄木たちのそばを離れていた。ある程度の距離をとって相澤と共に降ろされる。
「みんな入口へ、相澤くんを頼んだ。意識がない、早く!!」
オールマイトの指示に弾かれるように返事した緑谷が相澤を背負って、引きずってしまう足を峰田が持ち上げる。
意識のない相澤は触れたら崩れてしまうのではないかと思うほどボロボロに見えて西岐は手を出すことができなかった。
感情が凪いでいく。頭の奥がキンと冷たい。
相澤の身を案じながらも相澤を運ぶ三人にはついていかず、西岐は一人その場から姿を消した。
移動したのは青いドームの上。
膝をついてフウと大きく肩で息をする。ここに至るまでだいぶ力を使ってしまっていた。大多数を相手にぽんぽん景気よく糸を繰り出していたが身体への負担がないわけがない。けれど戦闘という空気に飲まれ脳から何らかの物質が出ているのだろう。疲労はさほど感じなかった。
ただ手首に痺れがあった。上鳴から受けた火傷もそうだが先程の水場での無理のせいでブレスの接触面が痛い。
オールマイトによる攻撃の余波がビリビリと伝わってくる。
脳みそヴィランを地面にたたきつけたらしい。しかし黒いモヤのヴィランによって邪魔され、それどころかワープゲートで背後から現れた脳みそヴィランにわき腹を抉られている。
たまらず緑谷がオールマイトの元へと駆け出す。
黒モヤヴィランが緑谷の行く手に広がる。
「どっけ、邪魔だ!!」
横からの爆撃。突然すぎる一撃が油断した黒モヤヴィランのモヤを吹き飛ばし、アーマーのようなものが顕わになるとすかさず爆豪が押さえ込んだ。
それと同時に脳みそヴィランの身体が凍り付き、切島の手刀が死柄木の隙を狙う。
飛ばされた場所から爆豪・切島・轟が駆け付けたのだ。
彼らの出現によりオールマイトの身が自由になりヴィランの動きが止められる。
形勢が逆転したように見えたかもしれない。けれど西岐には死柄木の言葉がなにより白々しく聞こえた。
そのことはすぐ証明される。
脳みそヴィランは死柄木に言われるまま身体を割りながら起き上がる。崩れた身体の半分は恐ろしいまでの速度で元の状態まで戻っていく。
体が修復されるや否や爆豪目掛けて走り拳を振りかぶった。
あまりの速さに目で追うことはできなかった。ヴィランの拳が上に上がったのが見えた時にはもう爆豪の身体が緑谷たちのそばにあり、オールマイトの身体が塀に叩きつけられていた。
西岐はただじっと見ていた。
自分にできること、できる瞬間を探していた。
死柄木がめちゃくちゃな持論をまくしたてているさまを見て今かもしれないと行動に移す。
棒立ち状態のヴィランの背後、できるだけ近くへとそっと瞬間移動する。ブレスから出来るだけ細く長く糸を伸ばしてヴィランの足に何重にも巻き付ける。気付かれないように緩く、それでもしっかりと。
そして気付かれぬうちに噴水のそばまで離れ身を潜める。
ぞっとするほどのオールマイトの気迫に西岐は目をすがめた。浮かんだ感情はできるだけ心の奥底に押し込んだ。
力と力が正面からぶつかり合う。オールマイトの全力以上が込められた拳が何発も何発も炸裂する。
西岐はそれを横目にしながら痛む両手に力を込めた。
糸に通電する。
本日何度目になるかわからない抑制を放つ。
これで強烈な攻撃による振動はあれ、ヴィランからの自発の行動は決してできない。
そして――。
《封印》
呟いた。
手首から少なくはない量の血が流れヴィランへと繋がる糸を赤く染めている。
直接触れることはできなかった。だから糸に自分の血を纏わせてそれをヴィランの足に巻き付けておいたのだ。
これで脳みそヴィランの"ショック吸収"と"超再生"は完全に封じた。たとえ糸が切れてもヴィランについた血が消えない限り封印は有効なのだ。
強烈なラッシュが続き、そしてさらなる一撃がヴィランを施設の外まで吹き飛ばしてしまった。
個性を消しているとはいえそもそもが超パワーのヴィランなのだが、すべてをねじ伏せて吹き飛ばせてしまえるのが平和の象徴たるゆえんなのかもしれない。
さすがに切れてしまった糸が太陽の光を受けて鮮やかに赤く輝いた。
create 2017/10/11
update 2017/10/11
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