USJ
病室にて 病室のドアがノックされ返事をする前にオールマイトが姿を見せた。
ベッドのリクライニングに寄り掛かって座る相澤は顔の動きだけで招き入れた。
起き上がったのはいいがギプスと包帯で両手が使えない今、できることといえば窓の外を見るくらいのことで正直退屈していたのだ。相手がオールマイトとはいえ訪問は有難かった。
「もう起きていて大丈夫なのかい」
「病院が大袈裟なんですよ、婆さんに看てもらえば一発なのに」
「そういわず安静にしていてくれ」
見舞いの品らしきカゴ盛りのフルーツをベッドサイドのテーブルに置いて、オールマイトは小さな丸椅子に腰かけた。今は雄々しいほうの姿ではなくやせ細って不健康そうなほうの姿をしている。
面持ちはどこか思い詰めていて真剣な眼差しを相澤に向けた。
「私は君に謝らねばならない。私が遅れたことで君たちに大きな傷を負わせてしまった。すまない」
深々と頭を下げられて相澤は冷めた目で返す。
「ほんとですよ」
綺麗に肯定すると下げたままの頭がより深く下がった。
教職に就いた以上、生徒たちへの指導と安全の確保がなにより本分だ。雄英の教師がプロヒーローを兼ねているとはいえ弁えなければならない。生徒たちに危険が及んだとあればなおさら責任がある。
しかし、一人で責任を負っているつもりになられては困る。
「でも俺たちもプロです。オールマイトさんに謝ってもらうことじゃない」
相澤の怪我は相澤の意志によって負ったものなのだ。一人のプロヒーローとしてそこだけは譲れないと言い張る。
するとそれを優しさと受け取ったのかオールマイトが顔を上げ少し肩の荷が下りたように笑みを浮かべる。
「ところで西岐少年のことなんだが」
新たな話題が切り出されて相澤がピクリと反応する。
「西岐が何か」
「彼はいったいどういう少年なんだい?」
「は?」
質問の意図が分からず相澤の口から疑問の声が強めに零れる。包帯の隙間から見える両目を眇めるがオールマイトは構わず続きを口にした。
「あの脳みそ丸出しヴィランは最後微動だにせず私の猛ラッシュを浴びていた。ショック吸収も超再生も消えていたように思う。そしてヤツが吹き飛んだあと赤い糸が舞っていたんだよ。おそらくあの赤は……」
「血だ……」
オールマイトの台詞を相澤が苦々しげに引き継いだ。
聞いただけで分かる、そのとき西岐が何をしていたのかが。
「糸も血も西岐が力を使うのに必要なんです」
内に沸いた苛立ちをそのまま声に乗せて説明すればオールマイトは納得したように何度か頷く。
「やはりそうか。後から聞いた話なのだが生徒たちの中にも西岐少年に助けられたという者が何人かいてね……。わかるかい、生徒たちを無事な状態で守れたのは彼の後方支援があってのことだったんだ」
褒めたたえるべきなのか、そこまでさせてしまったと悔やむべきなのか。教師として、プロヒーローとしてどう心を置くのが正解なのだろうか。
あの後、死柄木が姿を消した後、施設内に散り散りにされていた生徒たちを保護し、また残っていたヴィランを捕縛した教師たちの話によれば、大体のヴィランが戦闘不能状態であったという。
全員の無事を確認してくると言った西岐の姿を思い出す。
「……西岐はその後どうしたんです」
「警察が無事を確認してバスで教室に戻ったと。事情聴取も問題なく済ませたと聞いたが」
「じゃあ、どっかでぶっ倒れてますね」
「ど、どうしてだいっ!?」
独り言のようにつぶやくがオールマイトは激しく驚いた。
「あいつの力は諸刃なんです。使いすぎるとダウンして最悪熱を出して寝込む」
「そんなリスクが……なのに彼は私を助けてくれたというのか」
オールマイトは自分の両の手を見下ろし己の不甲斐なさを感じているのだろう。噛みしめるように両の手をゆっくり強く握りしめる。
不甲斐なく思うのは相澤とて同じだ。西岐がそうした行動をとっている間、意識を失っていたために止めてやることも助けてやることも出来なかったのだから。
「オールマイトさん、あとで西岐の無事を確かめてもらえませんか」
託す言葉の端々に滲む悔しさを感じ取ったオールマイトは了解とばかり大きく頷いた。
create 2017/10/12
update 2017/10/12
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