USJ
もどかしい 面会時間ギリギリになってプレゼントマイクが顔を見せた。
「オールマイトからの伝言な。『西岐少年は案の定40度の熱があり一人にしておける状況ではないのでこのまま看病を続ける』だとよ」
人に任せたのが間違いだった。
不合理の極みだ。
伝言を受け取るなり相澤は退院の手続きをとった。少々医師や看護師と揉めたが雄英のリカバリーガールに治療を任せることを告げるとあっさり許可が下りた。
タクシーでマンションへと向かう。
以前東京で見たのと似たような建物に入り、エントランスのフロント係に部屋へのインターホンを繋げてもらう。するとそれに応答したのは西岐ではなくオールマイトの声だった。瞬間的にイラっとするが態度には出さず、部屋へ向かう承諾をもらい、フロント係の案内で部屋前まで向かった。
部屋の前でもう一度インターホンを鳴らす。
ドアが開いてオールマイトが出迎える。
「退院してきてしまって大丈夫なのかい?」
「西岐は?」
投げかけられた質問にかぶせるように問いかける。
返事を聞く前に玄関へ押し入り、ずかずかと上がり込む。リビングには調理された食べ物の匂いが漂い、テーブルには飲み物のペットボトルや未開封の薬の箱などが置かれている。
開きっぱなしのドアを覗くとベッドに西岐の姿があった。眠っているようで相澤に気付かず目を閉じている。
近くのテーブルに液体で満たされたカップがあった。
「オールマイトさんがすべてこれを?」
「いや、緑谷くんだ。私だけでは心許なくてね。しかし明日は学校があるし遅くなる前に帰ってもらったよ」
「……そうですか」
到底オールマイトだけではできないだろう完璧な対応だったが話を聞いて納得する。
小さな明かりだけ灯された部屋に入りそっとベッドに近づく。
掛け布団の上に置かれた両手を見て眉を寄せた。
「……その手はなんですか」
相澤が示すのは両手に巻かれた包帯だ。
「両手首に火傷、右手首には大きな切り傷もあった。彼は相当頑固なのだな。熱があるとわかって我々が寝かしつけて世話をしている間も怪我のことは全く言わなくてね、彼が眠っている最中に私が気付いた。できれば早いうちにリカバリーガールに治してもらったほうがいい、これは残るよ」
オールマイトの言葉が耳に入ってくるたびにガンガンと頭痛が増していった。何に対してなのかわからない怒りが行き所を見つけられないまま腹の中で暴れまわる。
もどかしい。ギプスで固めた手では西岐の手を取ることもできない。
来たところで何もできないことはわかっていたが、本当にできることはなく、ひどい無力感に襲われる。
相澤たちの気配に気付いたのか西岐が身じろぎし薄く目を開く。
ぼんやりとした目が前髪の隙間から相澤を見てゆっくりと見開かれる。そこからボロボロと涙が零れ落ちる。よく見ると目の周りはすでに真っ赤だ。
「あ、いざわせん……」
「……泣くな」
「――手ぇっ、顔っ、あ……」
体を起こしふらつきながら立ち上がる。オールマイトが止めようと手を差し出すが構わず相澤のほうへと向かってくる。
手のギプス、顔の包帯と順に見て悲痛に歪む顔。
「俺……俺が、せんせい助けなかったから」
絶望にも似た、今にも崩れそうな泣き顔に相澤は堪らない気持ちになる。
「なんで、お前のせいじゃない」
「でもっせんせいがやられたのに、何もできなくて」
「何もしてなくはないだろ、だからそんなにボロボロなんじゃないか」
「ちがう、こういうんじゃない」
「……西岐」
そこでやっと西岐の言いたいことが分かった。
分かって眩暈がしそうになる。
「俺はお前が無鉄砲に殴り掛かるところなんて見たくない」
反撃されるところなんてもっと見たくない。
今、西岐の両手に包帯が巻かれているだけでこんなにも胸が騒いでいるのに、戦闘に特化した個性でもない西岐が細い腕を振り上げてヴィランに殴り掛かっていくなど考えたくもない。
ましてやあの超パワーを持ったヴィランが相手の話だ。とんでもない。
「でも……デクくんは」
「あれを見習うんじゃない」
やはり緑谷か。思わずオールマイトを睨むと彼も思うところがあったのか渋い顔で頷く。
「そもそもお前と緑谷じゃパワーが違う。出来ることも違う」
「でも、でも、せんせいの手が」
「あー……だめだなこれは」
ゆっくり言葉を選んで諭してやるが西岐の耳に入っていかない。
高熱のせいか同じところをぐるぐる回っているようだ。
「だから……泣くなって」
塊のような不自由な手で西岐を引き寄せる。うまく動かない手では撫でてやれない。ただ引き寄せて西岐の髪に顔を寄せる。
そんなことでは何の効果もなくて西岐は胸にすがって泣き続けている。
「……オールマイトさん、頼んでいいですか。こいつ寝かせてやってください」
西岐の身体を放しオールマイトに頼んだ。
気遣うような空気が漂ったが悔しいが今してあげられることはない。
泣き続ける西岐をオールマイトが抱き上げベッドへと再び横たえさせる。布団をかぶせ落ち着かせるように髪を撫でているのを見ている間怪我を早く治してしまいたいとそればかり考えていた。
create 2017/10/13
update 2017/10/13
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