体育祭
騎馬戦



 本戦となる第二種目、騎馬戦。
 どう個性を組み合わせるか、どう戦略を練るか、チームに引き入れる為の交渉如何、様々なものが試されるであろう僅か15分の交渉タイム。
 心操にとっては大した問題ではなかった。誰を選ぶかに少し悩んだ程度で数分後にはもう二人ほど人員を揃えていた。
 けれどあと一人というところで悩んでいた。
 馬にさえなれば何でもいいといえば何でもいいのだが。
 とある一点、予選通過した1-Aの連中がこぞって気にしつつもなぜか互いに牽制して近寄らず、結局誰も声をかけないのかチームを組めてない者が一人。

「西岐、あぶれてるなら俺の所に入れてやろうか」

 素直じゃない言葉が口をついて出た。個性が個性なだけに長年かけて拗れに拗れ捻くれ、こういうのがもう癖になっているのだ。
 それでも当の本人はパッと表情を明るくした。

「ほんと! わぁ、助かったぁ」

 こんなふうに邪気のない物言いで喜んでくれるのならもっと早くに声をかければよかった、そう思うのだが、1-Aの生徒であり2位通過の彼に普通科の自分が話しかけるのは躊躇われてしまったのだ。
 しかし話に聞いていた瞬間移動の凄さは想像以上。仲間に引き入れない手はない。

「なんであんたがあぶれちまうのか分かんねえな、1-Aって腑抜けばっかなのか」
「……ん? んー、さあ?」

 むしろ争奪戦になって心操の出る幕はないと想定していたのだが、現実はわからないものである。
 どうでもいいと思っているわけでも侮っているわけでもないのは心操に向けられた棘のような視線でわかるのだが。つまり2位通過の者に対する対抗意識と個性の強さによる躊躇い、お互い掛け合う牽制で動けないというところか。なんにせよ声をかけてこない以上取った者勝ちだ。

「俺さ、こういうグループ作りなさいっていうの、だめ」
「それはいいんだか悪いんだか……。あんまチヤホヤされてても困るし」
「しんそうくんのチームの人は?」
「人の話聞かないタイプかよ、こっち来い」

 本人の自覚のなさに呆れて苦笑しつつ、油揚げを掻っ攫われた奴らが目の色を変えぬうちにチームの他の二人と引き合わせる。
 西岐以外のメンバーは第一種目の段階である程度見繕い、そこそこ機動力のある者を選んでおいた。その二人は目の焦点が合わず心ここに在らずな状態で佇んでいる。
 どうやらクラスメイトだったらしく西岐が尾白のほうに声をかけようとして、心操はその手を掴んだ。軽く肩を叩いた程度では解けはしないが万が一ということもある。返事が返されることで発動する個性としては二度目はあまり期待できない。
 心操の表情と掴まれた手で二人が洗脳状態だと察した西岐が困惑を浮かべる。
 そんなやり方でチームを組んだことに批判でも出てくるのかと身構えた心操の耳に意外な言葉が滑り込む。

「……えっと、俺は洗脳しないの?」

 その言い方はまるで自分も洗脳するべきと言いたげで面食らう。

「煩いな、ほら早く馬を作れよ、始まっちまう」

 半分は西岐の問いかけを散らす為、半分は洗脳した二人を動かすために指示を出す。
 西岐の細い腕を見て上に乗ることに少々躊躇うがそもそも初めから他と激しくやりあう気はない。心操が馬になっていては西岐の瞬間移動に対応しきれないだろう。最初の予定通り心操が騎手であるほうが好都合だ。
 全員の合計ポイントが表示されたハチマキをしめる。
 カウントダウン。
 ――スタート。

 ほとんどの騎馬が一斉に1000万ポイントを持つ1位通過者の緑谷へと襲い掛かる。
 追っ手を振り払って宙に逃げる緑谷。耳郎のイヤホンが死角から追撃するがそれを常闇のダークシャドウが払いのける。
 1000万の争奪に重きを置いていない心操チームは上位争いの混戦を傍観していた。

「おおぉ……クロくんすごい」

 西岐の口から恐らくダークシャドウに向けての誉め言葉が零れた。心操とて感心してなかったわけではないがその言葉を聞いて少しムッとする。
 万能で戦闘向きな個性に対する嫉妬は根強い。
 そのせいで後方からの攻撃に気付くのが僅かに遅れた。
 バカでかい手のひらが心操の頭をかすめる。と、思った時にはもう違う景色の場所にいた。
 手のひらの主、拳藤が宙を空振りして驚いたあと悔しげに辺りを見回すのがフィールドの対角線上に見えた。

「――すげえ……これが瞬間移動かよ」
「ふふ、行きたいところどこにでも連れて行くよ」
「今はまだいい、奪われそうになった時だけとにかく逃げろ」

 指示をすると西岐は騎馬のいない場所へとチームを移動させ他の動きを眺める。
 あっという間に半分の時間が経過。
 途中経過が発表される直前に爆豪のポイントが物間へと移動し、挑発に乗って爆豪は物間へと標的を変える。その一方で、緑谷を狙う多数の騎馬が電撃と凍結で動きを封じられ、仕掛けた轟は緑谷と一騎打ち状態となっている。
 時間をどんどん消耗していく。
 残り1分を切る。

「西岐、動け。騎馬走れ」

 そう言うなり目的の騎馬の前に移動していた。
 心操の視界に鉄哲の姿。正面から向かっているにもかかわらず突然現れた心操たちに反応できていない。
 素早くハチマキに手を伸ばす。走り抜けながら首に巻かれていた二本のハチマキをしっかりと握る。
 そしてタイムアップとなった。

『早速上位4チーム見てみよか!!』

 プレゼントマイクの声を聞きながら騎馬を崩し心操は地面に降り立った。

『1位轟チーム!! 2位爆ご……アレェ!? 鉄哲でもなくって心操チーム!!?』

 周囲の注目が一気に集まる。
 最初のポイントも死守して鉄哲から奪ったポイントが加算された結果、爆豪が物間から奪い返した得点を上回ったらしい。
 4位以内に入れれば上々と思っていたのだがさすが瞬間移動の個性がついていただけのことはある。
 これで最終種目に進出となった。
 騎馬の二人の洗脳を解き、西岐を振り返る。

「……西岐、ありがとうな、ほんとに」
「え?」

 存外素直に感謝の言葉が出ていた。
 一人だけでも洗脳をしていない者がチームにいてくれたことは、普通に誘って力になってもらうという選択肢を放棄していた心操にとって気持ちが軽くなることだった。
 お礼の言葉がよくわかってない様子の西岐に心操の眉が下がる。

「ほんとさ、本気でさ1-Aに編入したくなったよ俺」
「うん、待ってる」

 西岐を誘った時に向けられた視線を忘れていない。それだけ西岐に惹かれている者が周りにいるわけでうかうかしていられない。
 トーナメント出場決定と実力を見てもらえる可能性を得て、決意を新たにするのだった。
create 2017/10/24
update 2017/10/24
ヒロ×サイtop