体育祭
閉会



 花火が打ちあがる。
 マイクとスピーカーをオフにした放送席でプレゼントマイクと相澤はもうすっかり役目を終えた満足感に浸っていた。
 競技場の真ん中では、家の都合により早退した飯田以外の三人がミッドナイトに促され表彰台に乗る。
 一番高い台に乗る西岐を見て相澤は感慨深く思っていた。

「まさか優勝しちまうとはな、れぇちゃんスゲー」
「……そうだな、俺も正直こうなるとは思ってなかった」

 上を目指せとは言ったがそれは精神的な話で、西岐があの連中を押しのけてあの位置に立つなど現実的ではないと思っていたのだ。
 焚きつけておきながら薄情な話だと開会前の自分に苦笑を漏らす。

「最後のほうの戦い方がさ、なんかお前に似てたよな」

 プレゼントマイクは対爆豪戦、対轟戦のことを言っているのだろう。軽快な動きと相手の隙を突くやりかた、思い返すと確かに似てなくはない。USJで見せた"イレイザーヘッド"もまた同じように頭部をメインに打撃を与えていた。
 入学以来、ヒーロー基礎学でも身体を積極的に動かすタイプではなく、優れない身体能力の代わりに個性に頼りきるやつだと思っていたが、なんだ、随分動けるではないか。
 日々鍛えている身体能力をベースに、相澤を模倣した動きを乗せたのか。

「まあ……俺に憧れてるからな、どうしても似てくるのは仕方ない」
「得意げにすんな、なんっかハラタツ」

 憧れられ目指される立場というのも悪くない、そう思っているのがあからさまに態度に出る。するとレスポンスのいいプレゼントマイクがすかさず嫌そうに表情を歪めながら、尻で椅子を引っ張り相澤のほうへ身を寄せる。

「で、約束はちゃんと守ってやんだろうなァ? あんだけ頑張ったんだぜ、破ったらかわいそうよ?」

 約束というのはつまりあれだ、二週間前に西岐と交わした一位になったら面倒を見させてやるという、よく考えたら可笑しいことこの上ない仄暗い契約のことだ。

「いや……それはまあ、な? 当然だ」

 相澤にしては歯切れ悪く口の中でもごもごと答えていると、オールマイトがいろんな意味で注目を浴びながら登場する。何をさせてもいちいち派手な人だ。ミッドナイトに台詞をかぶせられてキメきらないが、それもまた愛嬌なのか観衆は喜んでいる。
 オールマイトは一人一人に言葉をかけ、メダルを渡し、抱擁していくことになっている。
 3位の爆豪からそんなものは要らないと突っぱねられ散々ゴネられながらも強引にメダルをひっかけ力任せの抱擁をかまし、2位の轟には今後の彼の内面での成長に期待をはせながらメダルと抱擁を与える。
 そして優勝者の西岐。

「西岐少年! 君は本当に素晴らしかったね! 他に言いようがない! おめでとう!!」

 メダルが授与され、そして逞しい筋肉に包まれる。
 放送席で鈍い音がした。

「落ち着け、アレは儀式だオシゴト、分かるか?」
「何言ってんだ、俺は落ち着いてる。決勝後の轟との抱擁の時だって冷静だったじゃないか」
「ギプスを砕く音が聞こえましたけどね! さっきも今もベキベキーミシミシーって! 怖いからやめて、それかせめてトイレ行ってやって」

 プレゼントマイクの突っ込みがとにかくうるさい。そういう個性だという以前にまず存在からしてうるさい。
 さっき寄ってこられた分を逃げるように横にスライドして再び距離を空けながら、目だけは未だ抱擁しているオールマイトに向けている。相澤の個人的感情がそう見せているのか他の二人に比べて随分長い気がする。
 しかしその不機嫌は解放された西岐がこちらを向いたことで掻き消えてしまった。遠目でも分かるほど嬉しそうにメダルと手を相澤に向かって振っている。
 仕草が、表情が撃ち抜いてくる。

「おいイレイザー、道だけは踏み外すなよ」
「……自信がねぇな」

 相澤の複雑な呟きと共に、若き英雄の卵たちの闘いの一日が幕を閉じたのだった。
create 2017/10/30
update 2017/10/30
ヒロ×サイtop