はじまり
そして冬 プロヒーローを目指すと決めたあの日。
それならば、超難関養成校、雄英高校ヒーロー科を卒業するべしと相澤にアドバイスされてから早数ヶ月。
特筆して頭がいいわけでもなく体力に自信があるわけでもなく、個性に至ってはリスクが大きすぎて使いこなせていない西岐には、やるべき課題が山のようにあった。
まず基礎学力・体力・筋力を鍛える。これだけで時間と気力の大半を消費してしまう。
そのあとで個性を使いこなすための特訓をする。これがとてつもなく難しい上に、やりすぎると全部台無しになるほどの疲労をため込んでしまう。
けれど西岐は弱音を吐くことなく自分で組み立てた課題を黙々とこなしていった。
そして季節は冬。
1月も終わろうとしていた。
『もうじき入試ですね』
机の下でスマホを操作する。
間髪おかずに返信を知らせて震える。
『ちゃんと授業受けろ』
相澤らしい返信に思わず笑う。が、今は授業中。手で口元を抑えて誰にも聞かれていなかったか周囲を見渡す。
変わらず授業が続けられていてホッとする。
相澤とはあれ以来会っていない。
少し離れた所に住んでいて、あの時はたまたま用事でこちらへ訪れていたのだそうだ。
イレイザーヘッドというヒーローを見たことがなかったのはそのせいかと思ったが、相澤曰く『個性がバレているとヒーロー活動に支障をきたすから、そもそもマスメディアに顔を出さない主義』らしい。
連絡先だけ別れ際に渡されて、こうしてやりとりができている。
憧れのヒーローとテキストチャットで会話しているのだ。
どうしても口元が綻ぶ。
『うっかりすると寝ちゃう』
『お前な』
即レスということはどうやら今はヒーロー活動がお休みなのかなとか考えながらスマホの画面をオフにした。
数ヶ月の努力で学力はそこそこ伸びてきたけれど、最大の課題である体力面は相変わらずだ。少しずつ筋肉はついてきているものの逞しさには程遠い。
入試を目前にして焦りは正直ある。
しかし他の入学志望者との差を知らずにいるせいなのか、持ち前のまったりのんびりな性格が優っていた。
どのみちやれるだけのことやって実力を出し切るしかない。
さて、と気を引き締めて黒板に向かうのだった。
create 2017/09/30
update 2017/09/30
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