林間合宿
行方不明



 相澤は焦燥していた。
 とにかく生徒全員の安全を確保するためには手が足りない。
 二度も施設を襲撃されたのはプロの意識を縛るためと分かっていても、ブラドキング一人に場を任せなければいけない手薄さ。ヴィランはプッシーキャッツの二人が相手してくれているが、ヴィランの全人数と配置を把握しておらず、生徒の何人が会敵しているか知り得ない。
 イレイザーヘッドの名に於いて戦闘を許可する、それが今出来る最善の判断だと間違いなく思っているが、戦闘をしなければならない状況がそもそも最悪の事態だ。
 プッシーキャッツが闘っているだろう広場を避けて森に踏み込む。
 ヴィランに足止めされては生徒を救出できなくなるからだ。
 楽しみのために用意された手ごろな広さの森が、こうして危険にさらされると一転して把握するのが困難なほど広大に感じる。
 ガスによって意識不明となった生徒を担ぎ、比較的無事な生徒を施設へ誘導する。
 脅かし役として森でスタンバイしていたB組の生徒を全員運び、泡瀬が背負った八百万に簡単な応急手当を施す。
 森に入っていったA組の生徒は緑谷を含めてあと十人。
 黒煙の上がる方を目指して走る。
 施設を襲ったヴィランは炎を使っていた。あの煙の下に本体がいる可能性が高く、その場に緑谷たちもいるに違いないと見当をつけていた。
 その予想が当たり、燃え盛る炎からさほど離れていないところで緑谷が蹲り、クラスメイトがそれを囲んでいた。全員の顔には絶望が貼りついていて相澤はもしやとその場の者たちの顔ぶれを確認する。

「爆豪が……連れ去られました」

 悔し気に告げるのは轟だ。
 嫌なものが相澤の背中を走り抜ける。
 連れ去られるに至るまでの経緯を障子と轟によって説明され、それを聞きながら相澤の焦燥は増していく。

「――西岐は」

 その場にいる者、緑谷・轟・障子・常闇・蛙吹・麗日・青山、そして意識のない耳郎、合わせて八人。連れ去られた爆豪を含めると九人。西岐が足りない。
 ほとんどの者が『えっ』と小さく聞き返す。その反応に一緒には行動していなかったのかと舌打ちをするが、青山がおそるおそると口を開いた。

「ラグドールにマスクを持っていくと、中継地点に」
「……お前ら、無事な奴がケガ人を背負って早く施設に戻れ、わかったな」

 相澤は弾かれるように背を向けた。
 目的である爆豪を奪いワープゲートで去ったのなら、もうこの場にはヴィランはいないのだろうと踏んで、相澤はさらに奥に向かって走り出す。

「何であいつは一人で行動するんだ」

 緑谷たちから離れると苛立ちを吐き出した。
 こんな不安感を何度味わったことか、これから何度経験しなければならないのか。
 道の先が急に開ける。
 中継地点だ。
 その場で何が起きたのか、木々が削られ抉れ倒れている。
 暗くてよく見えないが地面を濡らしているのは血液のようだ。鼻をつく鉄の匂いに嫌な予感がざわざわと育っていく。

「――西岐! ラグドール!」

 相澤の声は暗い森の中に吸い込まれていく。
 いつもの西岐ならば瞬間移動で動き回ってみんなを助けだしているか、緑谷たちと共にヴィランと戦っているはず。それなのに今まで一切姿はなく、誰も西岐が何をしているのか知らないとは。
 怪我をして動けないのか。
 もしくは……。
 浮かんだ考えを払うように頭を振り、森の中を突き進む。


 しかし、十五分後、救急や消防と共に駆けつけた警察によって大掛かりな捜索が行われたが、森の中から西岐が見つかることはなかった。
create 2017/11/26
update 2017/11/26
ヒロ×サイtop