仮免許
的当てゲーム コスチュームに着替え移動した説明会の会場は、少々手狭に感じるほどの人で溢れ返っており、会場は全国三か所あると聞いていたが、一か所だけでこの人数なのかと西岐は圧倒されていた。
壇上では公安委員会の目良という人物が眠気と疲労の嘆きを訴えながらも、仮免許試験についての説明を長々と語って聞かせている。
そう、何か言っている。
「……ねむい」
大事な話なのだろうが、申し訳なくも長々とした話のほとんどが頭に入ってこない。
あくびが出そうになって口元を手で覆い、ギュッと目をつむる。無理やり抑えたせいで鼻の奥がツンとして涙が滲んだ。
話が終わって騒音と共に会場が展開していく。
委員会の職員によってターゲットとボールが配られカウントが始まる。
そこでようやく西岐はバチッと両目を大きく開いた。
「皆! あまり離れずひとかたまりで動こう!」
数人が散ったものの緑谷の声にクラスメイトが固まる。
緑谷曰く、先着合格なら同校での潰し合いはなく学校単位での対抗戦となり、そうなるとどこが狙われるかという話で、体育祭というイベントで個性不明のアドバンテージを放棄している雄英が劣勢にあるという。
その判断が正しいということはすぐ証明されることとなる。
一斉に群がる他校生の集団。様子見のボールが1-Aに降りかかる。
ここで圧縮訓練によって鍛え上げられた必殺技が物を言う。難なくとは言わないまでも集団からの攻撃を薙ぎ払う。一人一人のクオリティーをあげたことで集団になった1-Aは強い。
しかし、真堂の個性によって地面が大きく揺れ、大規模の地割れが発生する。
強制的に散り散りにされていくクラスメイトを見て西岐はどう動くべきかすぐに判断できず立ちすくんでしまう。
クラスメイトを助けるのが正しいのか、自分の勝ち筋だけを真っ直ぐに追うべきなのか。
「西岐」
大きな岩の塊となって傾く地面をトントンと飛び跳ねその場で堪えていると、障子がアンテナのように触手を広げて西岐を覆った。
「何やってる、これは"スピード勝負"、早く行け」
小さな石が当たるのを庇いながら放たれた言葉に西岐は唇を引き絞った。
「そうだね……俺が、雄英が一番ってこと見せつけてくる」
背中を押してもらわないと動けないとは情けない。試験の最中だというのに迷いを生んでしまった自分を恥じ、振り切るように強気な言葉を吐いてから西岐はすぐさま移動した。
与えられたボールは六つ。身体に貼りつけるターゲットは一人三つ。ルール、ターゲットを三つ当てられてしまえば脱落で、二人脱落させれば通過。
西岐にとってこれほどお誂え向きのルールもないだろう。
隙の多い者に狙いを定めて瞬間移動で背後をとり、すかさず触れて動きを抑制。三つのボールを押し当てればその者は脱落となり、もう一度同じことを繰り返せば終了だ。
『脱落者二名で一人通過!! 無駄がない!』
説明会で長々と話していた目良の声が試験会場中に通達する。
と同時に西岐が身体に貼りつけているターゲットのすべてが光り控え室への移動を促される。
未だ混戦状態の会場に視線を巡らせる。一人勝ち逃げとなってしまったことがやはり申し訳ないような気がして、クラスメイト達に向かって頑張ってと心の中で呟いた。
create 2017/12/14
update 2017/12/14
ヒロ×サイ|top