雄英高校
No.1ヒーロー「広いなあ」
オールマイトは手元の地図と広すぎる校舎を交互に見比べて、困ったように独り言ちた。
就任したばかりの校舎は広すぎてどこに何があるのか未だに把握しきれず、絶賛迷子中なのである。恥をかく前にたどり着きたいと必死に地図を見るがすでに今いる場所を見失っていた。
静まり返った校舎で一人分の足音がペタペタと近づいてくる。
登校時間にはまだだいぶ早い。
職員かとおもむろに振り向いて、オレンジ色の髪の少年と目が合った。
正確には彼の目は前髪で隠されていて見えないのだが、オールマイトには目が合ったように感じられたのだ。
「あ、の」
少年から控えめな声がかかる。
「む?」
「オールマイトさんですか」
「ホワッッッッッ!!!?!!?」
口から血が噴出した。
血どころか心臓が飛び出していくかと思った。
「どどどどうしてそう思ったんだい」
「え、あ、なんとなく……?」
明確な根拠はないのだろうか。首を傾げて答える少年の声色には悪意や冷やかしは受け取れなかった。
だがトゥルーフォームを見て正体を暴かれたのだ。驚くなというほうが無理だ。
身体に障りそうなほどフルスロットルで加速していく心臓に手を当てる。
そんなオールマイトを気にするでもなく少年は手元の地図を覗き込んでくる。
「俺も、職員室探してて」
「へ?」
「えっと、地図だと……んと、こっちかなぁ」
彼が指さすほうを見て、ああ確かにそっちな気がするなと暢気な思考に飲まれるのだから恐ろしい少年だ。
「君は新入生かな」
「え? はい、そうです。西岐れぇっていいます」
頭を下げる仕草が小動物を彷彿させてキュンと胸が鳴る。
いやいや待て待て、彼は入学したばかりの少年だ、なぜキュンとするのだ、落ち着くんだ私と自分に言い聞かせる。
「西岐少年、もしかしてヒーロー科かな」
「1-Aでした」
本当に嬉しいのだろう。頬を染めて答えた。
それがまた心臓にダメージを送る。
口の端から垂れた血を手で拭いながら頭を冷やすために西岐を冷静に分析しようと試みる。
背は高くない。他人のことは言えないがやたら細い。ヒーローを目指すには心許ないくらい細い。猫背が余計少年を小さく見せる。髪で隠れていて眼光を伺うことができないがふにゃふにゃとした話し方や仕草が、どちらかといえば庇護欲を掻き立ててくる。
「そうだ、君。よく私がオールマイトだと気づいたね」
「……かっこよかったんで」
「なんとっ!!!!」
思い切り撃ち抜かれた。
飲み込まれまいと抵抗しているオールマイトの心境などお構いなしの一言が持つ破壊力のすさまじさと言ったらもう……。
「こ、この姿の私がオールマイトだということはここの教師以外には秘密にしていてね、他言無用で頼むよ」
「あ……ないしょですね」
「うむ」
口の前に指を立てて小さくシーという西岐にもうダメかもしれないと思ったその時、
「なにしてるんです、オールマイトさん」
鼻から抜ける特徴的な声が背後から響く。
「……と、西岐」
振り向いた先にいた相澤は普段の三割増しの不機嫌な目をオールマイトに向けていた。
髪が垂れ下がっているのに抹消を発動させているのかと錯覚させるほどの眼光にオールマイトはたじろいだ。
create 2017/10/02
update 2017/10/02
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