同居人は甘えた幼馴染 (5/10)






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[Side: 湊]


―――それは今朝方のこと。


朝から講義をとっていたから早起きし自室を出て1階を降りてリビングに入ると。


「…あら、湊、おはよう!早いのね!?」


俺に気付いた母親がそう挨拶をしてきた。

リビングの食卓テーブルには新聞を読みながら朝食をる父親もいた。


「おはよー。朝から講義あるんだ。」
「そう。今、朝食の準備するから待っててね!」
「うん。」


母親の言葉にそう返事をしながら俺は父親の向かい側の食卓テーブルの椅子に腰掛けた。

すると、俺の存在にやっと気付いたかのように一瞬俺の方に視線を向けるもすぐに目を逸らしてから父親は口を開いた。


「…就職先はもう決めてあるのか?」


父親から発せられた言葉に理解できなかった。


「…は?」


確かにもう来年には就活に入る時期ではあるけれど、俺が何の仕事にきたいかなんて親父には関係ないはずだ。



父親は成績優秀で大学も有名なエリート大卒で仕事もIT企業に務めている。



だけど、俺は…。
まあそこまで頭悪いほうではないけれど、父親とは違い偏差値もそこそこの大学に通学しているし就職先もIT企業にきたいとか思っているわけじゃない。


「…大卒できるんだから就職先も好況こうきょうの良い場所見つけておけ。」
「……わかってるよ。」
「どうせならお前もIT関連に就職したらどうだ?湊も私と同じで頭は良いんだし。」
「…そんなこと…。勝手に決めようとしてんじゃねぇよ。」


今はまだ親父に就職のことで口出しされるだけでも腹立たしいのにそんな言葉まで追加されると更に苛立ちを隠せなくなってしまって…。

暫くはもう親父と会話はおろか同じ屋根の下に居たくないとさえ思い、俺はそんな荒々しい言葉を吐きながら椅子から勢いよく立ち上がって今度は母親に言葉をつむいだ。


「…母さん、俺やっぱ朝食いらない!」
「え?いらないって…もう準備できるのよ?」
「いらないものはいらない!もう準備して大学行くわ!それと暫くここには帰るつもりないから!」
「え?帰らないって……どこ泊まるつもりなの?…ちょっと、待ちなさいよ、湊?!」


母親からはそんな言葉が聞こえてきたけれど、それには返事をせずに俺は自室に戻り…大学に必要な物と着替え数着をボストンバッグに押し込めてから再度自室から出ると、1階へ降りてそのまま真っ直ぐ玄関に向かった。

靴を履いていると物音に気付いたのか母親がリビングから出てきて口を開いた。


「湊!話は最後まで聞きなさい!」
「…ごめん!でも、親父に俺の就職のことでとやかく言われたら腹立つんだよ!本当に頭堅いよねあの人はっ!!」
「…確かに頭堅いけど、湊が就職先で失敗しないか心配はしてるのよ?!」
「…わかってる。でも、まだ就職先のことで親父とは何も話したくねぇよ!」
「そう。まあゆっくり考えたらいいわ。…ところで暫く帰らないってどういうこと?」
「そのままの意味だよ。」
「…どこに泊まるつもりなのよ?!」
「………たぶん美和ちゃんところかな。美和ちゃんがダメって言ったら他にアテ探してみる!」


俺が口に出した名前に母親は驚愕きょうがくしていた。


「美和ちゃんって…鹿嶋かしまさんのところの?」
「他に誰がいるんだよ。」
「…あんた美和ちゃんに甘えすぎじゃないの?」
「……いいんだよ。俺、美和ちゃんにしか甘えられないから!」
「…もう〜〜。あんたは…本当に昔から美和ちゃんばっかりね!…わかった!迷惑かけないようにね、美和ちゃんに!」
「わかってるよ。じゃあ行ってきます!」
「はいはい、行ってらっしゃい!」


母親の言葉を聞き流しながら俺は母親に了承を貰ってのちょっと変わった家出をしたのだった。




でも、母親に "暫く帰らない!"
と告げたのは事実で──。


"どこに泊まるの?" と聞かれ

"美和ちゃんところ" と告げたのも事実だ─。



母親の俺が昔から "美和ちゃんに甘えすぎ" って言っていたのも本当の話なんだ。


美和ちゃんは俺が大好きな幼馴染み。

6歳年上だけど、俺が唯一甘えられる女の人。


高校に入学してからは彼女と呼べる存在は何人か作ったけど、本気で甘えられる人はいなかったし本気で好きにもなれなかった。


だから彼女をつくったことはあっても自分から告白したことなんて一度もない。


けれど、告白されて恋愛経験はそれなりにあったほうがいいかなって思って何人かと付き合ったことはある。

相手のことを嫌いではなかったけれど、付き合っても暫くしてから重大なことに気付くのだ。


──好きだけど、本気で好きにはなれない相手なのだ、と。

だから毎回付き合ったことに後悔して自分から別れを告げることが多かった。


因みに美和ちゃんは気付いてないけれど、俺が抱擁ほうようしながら "大好き" と告げているのは美和ちゃんにだけ。

美和ちゃん以外の女には一度も "好き" の言葉も、ましてや自分から抱擁ほうようなんてしたこともない。

昔から本気で好きな相手は美和ちゃんだけ。


所謂いわゆる 、"初恋" とも呼べる存在かもしれない。

美和ちゃんにはいつも冷たくあしらわれているけれど、それでも構わない。

美和ちゃんにどんなに冷たくされても──

それが美和ちゃんと俺の関係だから。


それに俺が美和ちゃんを好きな気持ちはずっと変わらないから。






──美和ちゃん、俺が "暫く泊まらせて" って言ったらどんな反応するかな。



俺はそんなことを考えながら大学までの道程を歩いたのだった。




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