No.1な彼

「ヒロさん…本当にクールな人だなぁ。…ところで麻弥ちゃんはヒロさんと知り合いなの?」
「え?あ、別に…そういうわけじゃ…。」
「ふーん。その割には随分仲良さげだったけど…。」

ミナトさんのそんな言葉には何度目かわからないくらいにまた驚愕きょうがくしてしまった。

――この人…意外と鋭いかも。
それとも会話聞かれてたかな?

私は咄嗟とっさにそんなことを思ってしまった。
だからといって別に困るような会話はしていないけれど、ただ啓人ひろとと一緒に住んでるなんて話はしたくなかった。

「本当になんでもないですよ。…こないだナンパから助けていただいたんでお礼を述べてただけです。」
「そうなの?まあそれならいいけど。…でも、ヒロさんは普通じゃなかったよね。急に麻弥ちゃん達を帰らせろ…なんて。」
「し、心配してくれたんですよ!」

慌ててそんな言葉を投げたけれど、苦しい言い訳だったかもしれない。
何故ならこのミナトって人の疑い深さに私はどう対応すればいいのかわからなくなってしまっていたから。

この人…本当に恐ろしいほどに核心をついてくるのだ。

「…そうなんだ。まあいいや。それより本当に帰っちゃうの?」

ミナトさんは私の苦しい言い訳にも詳しくは追求して来なくて安堵あんどした。
もし詳しく追求されてしまったら…私は間違いなく動揺していたと思うし上手く誤魔化せなかったと思う。

「あ、はい!帰ります!」

私はミナトさんの "本当に帰るの?" の言葉に迷いもなく即答した。
それに啓人ひろとをあれ以上怒らせたくなかったし私以外の女性に笑顔を向けている姿なんて見ていたくなかった。

「そっか。残念だなー。オレはもうちょっと麻弥ちゃんと話していたかったのになぁ…。」

ミナトさんはそう言葉にすると淋しそうな表情で私を見つめてきた。
もしかしたらこういう仕草がここに来ている女性にはちてしまうのかもしれない。
けれど、私はミナトさんの淋しそうな表情を見ても何とも思わなかった。
まあ元々啓人ひろとに会いたが為に来たようなものだから余計かもしれないけれど。

「ごめんなさい。私あまり遅くなってしまうと怒られるの。」

えて "誰に" という言葉は出さずに私はそう告げた。

「…家、厳しいんだ?なら仕方ないね。」

ミナトさんは納得してくれたのかそう言うと亜季とマサさんのいる席の方へと歩き出した。


***********

亜季と "Diamound" を出て2人で家路を向かって歩いていた。

「亜季、ごめんね。楽しんでたみたいなのに…。」
「全然いいよ。啓人ひろとさんに言われちゃったなら仕方ないしね。」
「うん、本当にごめん。」
「もういいってば!…てゆうか啓人ひろとさんって…結構過保護なんだね!」
「え?」

亜季の言葉に驚きを隠せなかった。

「だって麻弥と知り合って…一日しか経ってないのに…麻弥のこと心配してくれたわけでしょ?凄く優しい人だよね!」

亜季にそう言われて私も納得してしまった。
確かに啓人ひろとは最初から私には凄く優しかった。
あの怒ったような―突き放したような口調も私を心配してくれてたんだ。

そう思うと何だか嬉しくてたまらなくなってしまった。

「麻弥、啓人ひろとさんは凄く優しい人だよ!だから啓人ひろとさんのこと信じてみたら?」
「…うん、啓人ひろとのこと信じてみるよ!」

本当はまだミナトさんの言葉が引っ掛かっていたけれど、啓人ひろとのことを信じたいという気持ちは変えることはできなくて啓人ひろとの言葉は全部嘘じゃない――。
そう自分に言い聞かせることにした。


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