疑惑と真実

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啓人ひろとと暮らし始めて数日が経った。
あれから啓人ひろととも特に変わった様子もなく過ごしている。
啓人ひろとは私には相変わらず優しいままだった。
あの時、"Diamond"で見た啓人ひろととはまるで違っていた。
もしかしたら私といる時の啓人ひろとが本当の啓人なのかもしれない。
――そう思いつつもまだミナトさんの言葉が引っ掛かっていた。
啓人ひろとの言葉を信じていないわけじゃない。
だけど、どこかでまだ全部を信じれていない自分がいた。
そして、そんなことを考えているといつしか眠れなくなっていた。

――ガチャッ。

玄関の方でドアが開く音がして私は思わず身体を戦慄わななかせてしまった。

「…麻弥?」

リビングのソファーで座っていた私に気付いた啓人ひろと驚愕きょうがくの表情で呼び掛けてきた。

「…啓人ひろと、お帰りなさい」
「ただいま。それよりお前こんな時間に何してんの?」

啓人ひろとがそう聞くのも無理はないかもしれない。
なぜならただいまの時間は午前4時でいつもなら私は寝ている時間だから。

「あ、ちょっと…寝れなくて…。」
「ふーん。でも、明日も学校だろ?さっさと寝ろよ。」

啓人ひろとはそれだけ言うと寝室に入ろうとしたけれど私はそれを慌てて呼び止めた。

「ま、待って!」
「…何だよ。」

今なら聞けるチャンスだと…思った。
私がずっと数日悩んでいたことを聞けるチャンスだと――。
今聞かなきゃ今度はいつ聞けるかなんてさだかじゃない。

啓人ひろとは…私に嘘…なんて言ってないよね?」

勇気を出したはずなのに…口から出た言葉はそれだけで精一杯だった。

「…は?何言ってんの?」

啓人ひろとは私の言葉の意味を理解できなかったのか…そう聞き返してきた。

「…だ、だからね!こないだ言ってたことは全部真実なんだよね?」
「は?…何だよ、お前…俺の言ったこと疑ってんの?」
「そ、そういうわけじゃないんだけど…。」

啓人ひろとに "疑ってんのか" と聞かれて私は慌てて否定した。

「じゃあ、何だよ。」

再びそう問い掛けられて私は言葉に詰まりそうになってしまう。
だけど、このまま引っ掛かったままでは嫌だったから再び勇気を振り絞って口を開いた。

「…き、聞いたの…!」
「は?」
「…ミナトさんにっ!…啓人ひろとは…ご両親いなくて苦労してるんだって…。」

私がそう言うと少しの間を明けて啓人ひろとが息を吐いたのが聞こえた。

「…馬鹿じゃねぇの。ミナトの言うことなんて信じてんじゃねぇよ。そんなの仕事上での話に決まってんだろ。」
「え?じゃあ…。」
「言っただろ?俺は大学中退して家出してるんだよ。…それ以来、親父から見離されてんだよ。」
「そっか。よかったー!うそじゃなくて…。」

啓人ひろとの言葉に偽りがないことを確認して私は安堵していた。

「俺は最初から麻弥には嘘なんて言ってねぇんだけど。」
「うん、疑ってごめんなさい…啓人ひろとのこと信じるから。」
「あぁ。話はそれだけなら俺は寝るぞ。お前も早く寝ろよ。」

啓人ひろとはそれだけ言うと寝室に入って行った。
因みにあれから数日経って啓人ひろとが空き部屋を一つ私の部屋にしてくれた。
ベッドやカーテン、机……。
必要な物は啓人ひろとが全部用意してくれた。

今更ながらこんなに私の為に何でもしてくれている啓人ひろとを何故少しでも疑ってしまったんだろう…と後悔していた。


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