――数日後。
「…あ、ヒロさん。おはようございます!」
「…あぁ。」
いつものように職場に来て更衣室に入ると真っ先に声を掛けてきたのはミナトだった。
そんなミナトの挨拶にも俺は適当に返してスーツに身を包む。
すると、またしてもミナトが俺に声を掛けて来た。
「ヒロさん!」
「…あ?」
「…麻弥ちゃん、元気にしてますか?」
「………。」
ミナトの言葉に俺は呆れるしかなかった。
ミナトの口から "麻弥"の言葉が出るのはもう数えきれない程だ。
俺と二人っきりの時は必ずと言っていい程、麻弥のことを聞いてくる。
――一度だけ、麻弥はこの店にやって来た。
勿論、俺は麻弥が心配でキツイ言葉を言いつつも追い出したのだけれど。
そう。あの日以来―ミナトは麻弥のことを俺に聞いてくるようになったんだ。
「……お前、そればっかだよな…」
暫しの沈黙の後、俺は呟くようにミナトにそう言葉を返した。
「そうですか?まあ確かに麻弥ちゃんのこと気にはなってますね!今までの客とは違いましたし。」
ミナトのそんな言葉が妙に引っ掛かった。
ホストなんて女を騙してナンボの世界―。
株を上げる為にはどんなことだってする。
それがホストの世界である。
俺だって今まで何人もの女に貢がせて "No.1" という地位を手に入れた。
だけど、麻弥は…俺の客じゃないしましてやミナトの客でもない。
それに麻弥はまだ高校生で今の俺にとっては特別な存在で――。
そんな麻弥をミナトにもう一度会わすなんて―。
「…お前にもう麻弥を会わす気はないから。」
「え?何でですか?」
「…麻弥は客じゃない。だからもう店には来させねぇ。…それに俺の特別な存在だし。」
「え?それって…」
「わかったらもう麻弥の話は金輪際すんな!」
俺はそれだけをミナトに告げると更衣室を出てフロアへと向かった。