記憶と約束

*****

「……麻弥ちゃん、話って…?」

屋上に着くやいなや武斗からそう話をうながしてきたけれど、私はまずはどこから話そうか──躊躇ちゅうちょしながらも言葉を紡いだ。

「……もうやめてほしいんだよ。」
「え?」
「私を尾行するの。」
「…えっ、な、なんのこと…?」
「…私が気付いてないとでも思ってた?バレバレなんだよね…最初っから!」
「……。」

私がそう言うと武斗は黙り込んでしまった。
多分、いや、確実に武斗は私が尾行に気付いてたことまでは想定外だったに違いない。

「…後ね、知ってるんだよ。私を尾行したのもあの人からの命令だってこと。」
「…え?」

私のそんな言葉に武斗は、驚愕きょうがくの表情をしながら頓狂とんきょうな声を出した。
武斗は本当に昔からわかりやすすぎるくらいに顔に出てしまうのだ。

「…偶然聞いたんだ。武斗とあの人が電話で話してるとこ。…まああの人の声までは聞こえなかったけどさ、武斗の受け答えですぐにわかっちゃった。」

ちなみに "あの人" とは――もちろん私の父親のことである。
"お父さん" と呼びたくないわけじゃないけれど、今は父親が苦手で反発して家出までしてる身だから会いたくないし―寧ろ父親から逃げているようなもので― "お父さん" と呼ぶなんてできなかった。

「…でも、もうやめてほしい…。私、今はあの人には会いたくないし顔も見たくないんだよ…。というか私言ったよね?私のことは放っておいてって!」
「……なんで…。」
「は?」
「…なんで?おじさんは麻弥ちゃんのこと心配してるんだよ!?」

武斗がやっと言葉を発したと思ったら…。
そんな理解のできない言葉が返ってきて嘆息たんそくするしかなかった。

――あの人が………。
私の心配してる……だって?

そんなことはあるはず……ない!!


何故なら…あの人が心配しているのは――。


「…は?冗談、言わないでよね!」
「…え?」
「あの人が心配してるのは……。私自身なんかじゃない!」

昔から仕事人間だったあの人が私自身を心配してるなんて……。
そんなことあるわけがないんだから。
私には何ひとつ父親らしいことしてくれたことなんて一度だってなかったのだから。

「そ、そんなことないと思うよ。だって麻弥ちゃんのお父さんでしょ?」
「はあ?なにそれ!?…あんたは私の "キョウダイ" でもないくせに…。何もかも知ったような言い方しないでよ!!」
「……。」
「…私、あんたのそういうとこ大嫌い!」

――"大嫌い"

本当はそんな言葉……言うつもりなんてなかった……。
なのに……武斗の言葉に苛立ちを覚えて…無意識のうちに声に出してしまっていた。

だけど、気付いた時にはもう遅くて――。
武斗が哀しそうな表情で私を見据みすえていた。


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