記憶と約束

だけど、一度出てしまった言葉は訂正なんてできる訳もなく弁解の言葉も見つからなかった。

「…とにかく私のことはもう放って置いて。尾行もしないで!」
「で、でも、それは、おじさんが……」
「あの人の命令なんて聞かなくていい。」
「…で、でも!」
「あんたがあの人に逆らえないのは知ってる。だからといって "尾行" なんてしていいものじゃない。だからもう二度としないで!」
「……わかった。ごめんなさい。」

武斗はあの人に逆らえないのは昔からだけど、私の言葉にもちゃんと行動で示してくれるのだ。
――まあ武斗はただ、"目上めうえの人に逆らえない。" ってだけで一度はちゃんと断りの言葉を入れているんだけど。

とりあえずこれで武斗は心配ないはずだから…。
あとは……武斗に "尾行しろ" という命令をくだしたあの人に言っておかなきゃいけない。

「じゃあ話はそれだけだから。」

私はその言葉とともにきびすを返して武斗の横を通り過ぎた直後のことだった。

「麻弥ちゃん!」

武斗に呼び止められて私は足を止めた。

「…僕、麻弥ちゃんが好きだよ。ずっと麻弥ちゃんだけを見てたんだ。だから麻弥ちゃんの為ならなんでもするよ。」

それは突然の告白だった。
武斗の気持ちはずっと前から気付いてはいたけれど、突然すぎて何も言葉が見つからなかった。
そんな私とは裏腹に武斗は再度言葉をつむいだ。

「僕が七瀬社長に逆らえないのは…否定しない。でも、"麻弥ちゃんの力になりたい。" って気持ちもあるんだ。」

武斗の気持ちが嫌なわけじゃないけれど、私にとってはずっと "幼馴染み" だった。
それ以下でもそれ以上でもない幼馴染み。
それは昔も今も変わらない。
だけど、それ以上に私は武斗の気持ちには答えられない理由ができてしまった。

「…ありがとう。でも、私…武斗の気持ちには答えてあげられない。」
「え?どうして?」


もしかしたら初恋になるのかもしれない。
ずっと小さい頃から異性に恋心を抱いたことがなかったから――。

決して興味がなかったわけでもないけれど、心から "好き" だと思える人に出会ったことがなかったから――。


「…好きな人がいるんだ。だからごめんね。」



私は………。
啓人ひろとが好き――。


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