「…好きな人って……誰?」
「武斗の知らない人だから。」
「……そうなんだ。」
武斗はまたその言葉の後に哀しそうな表情をしたけれど、私にはもうどうすることもできなくて―。
「……じゃあね。」
それだけ口に出すと武斗を置いて屋上を後にした。
*******
――プルルル。
――プルルル。
――プルルル。
一時間目の授業が終わってすぐに亜季には "ちょっと電話してくる" って伝えてから二階の渡り廊下でスマホを取り出して電話を掛けていた。
――プルルル
――プルルル
“…もしもし、麻弥?“
五コール目でやっと繋がった電話――。
久しぶりに聞いた相手の声に何だか
「…お母さん。」
“麻弥、久しぶりね。元気にしてるの?“
「うん、元気だよ。」
母親には
勿論父親には内緒という条件付きで――。
“昼間はあの人もいないんだし帰って来ればいいのに。“
「…それはそうなんだけど、なんか帰りづらくて…」
“そうね。まあ麻弥が元気なら問題ないわ。“
「うん。……それより、お母さん。話があるんだけど…。」
“…あら。話ってなにかしら。“
母親は昔から私の味方だった。
今回の家出もすべて "あの人" に "原因がある" と理解してくれているから何も言わないのだ。
それにいつも "あの人" に関することは母親に伝えておけば、もう "あの人" も "尾行" なんて変な思考にはいきつかないはずなんだ。
「……あのね。あの人のことなんだけど…。」
“…だろうと思ってたわ。あの人また何かしたのね?“
「うん……。武斗に私を "尾行" させた。」
“…あらあら。やるわねあの人も。…わかったわ。それをやめさせればいいのね?“
さすがは母親だと私は感心してしまった。
私の "尾行させた" の言葉だけでそこまで理解してくれたようだ。
「うん。お願い。私、"あの人" にはまだ何も知られたくない。」
“大丈夫よ。任せなさい。私はいつでも麻弥の味方だからね。“
「うん、ありがとう。お母さん。」
“どういたしまして。…あ、たまには電話かメッセージしてきてよ。何もなくてもね。心配だから。“
「うん、わかった。またメッセージか電話する。またね。」
母親に受話器越しにそれだけを伝えると私は通話を終了させた。
――これでまたしばらくは何もなく平和に過ごせるはず。
"あの人" のことだからまだまだ安心はできないけれど、もう "尾行" なんて考えはしないはずだから。
――
私はそんなことを考えながら
