彼は相変わらず優しい口調で私に尋ねてきたけれど、彼の言葉に私は答えることができない。
父親のいる家には帰りたくないから。
「……帰りたく…ない…」
気が付けばそうポツリと呟いていた。
彼は私のそんな呟きに
「…え?"帰りたくない"って…家出してきたの?」
彼の問い掛けに私は無言で首を縦に振る。
「…マジかよ…」
彼はその言葉と共に脱力したようだった。
――当たり前だよね。
ナンパから助けた女の子が家出少女なんて事実を知ったら……。
私はどうすればいいのわからず俯いていると、暫しの沈黙の後に彼から問いかけの言葉が紡がれた。
「……これから行く宛はあるの?」
「……ない…です…」
「……じゃあ……俺の家に来る?」
私が "行く宛はない" と返事をすると、また暫しの間を開けて
「急に驚かせるようなこと言ってごめん。かといってここに置いて行くのは心配だし…行く処ないなら俺の家においでよ。」
「…い、いいんですか?」
「いいよ。」
彼はそう言うとニコッと微笑んだ。
彼のそんな何気ない笑顔にもドキドキする私。
今までにない胸の鼓動に私は戸惑っていた。
初めて会ったばかりの……しかも男の人の部屋にお邪魔するなんて抵抗ないと言えば嘘になる。
"何もない"とは言いきれないのだし。
だけど、私の勝手な予感なのだけれど…
彼なら大丈夫だって…信用できるって…
何故だかそう思ったんだ――。
