嵐の予感と想い ( 19/ 19 )


「まあ律が人の名前覚えるの苦手なのは知ってるけどさ〜。それにしてもあんな美人の名前知らないとかありえねぇわ!!」


てゆうか先程から秋斗はそればっかりだ。

俺にはあの "佐原" って女がそんなに美人なのかが…全く理解できなかったから。

秋斗とはそういう女に関してのタイプというのは合わないのだと思う。

それに俺は沙結さゆみたいな女の子がタイプになるわけだから…。

どこまでが美人でどこまでが美人でないのか─。

そういう感覚もイマイチよくわからなかった。



「……興味ねぇよ。」
「え〜〜!勿体もったいねぇ!」


もはや勿体ないの意味さえわからなかったけれど、そこは敢えて突っ込まないことにした。


「……お前、矢野がいるじゃねぇか。」
「は?麻子は関係ねぇよ。佐原は確かに美人だけど、タイプってわけじゃねぇもん。」
「……あっそ。」


俺は秋斗の言葉にやはり呆れるしかなかった。



ちなみに "矢野" というのは…。
バスケ部のマネージャーであり
秋斗の幼馴染みで "彼女" だ。


矢野は秋斗の彼女だから関わることも多くて…。

俺が沙結さゆ以外に名前と顔を一致している唯一の女友達──といったところだろうか。



そして、俺は秋斗とそんな会話をしながらも制服からユニフォームに着替えて─。


着替え終わった直後に鞄と制服を自分のロッカーに収納しロッカーの扉を閉めてから─。


「……沙結、行くぞ。」


今まで俺達の会話を黙って聞いていた沙結さゆにそう声掛けながらきびすを返して部室の出入口へと向かったのだった。


「え、あ、は、はい!」


沙結さゆはそう慌てて返事をして部室の真ん中に設置されている椅子から立ち上がり俺の後を駆け足でついて来た。


「あ、ちょっと!俺を置いてくなよ〜!!」


俺と沙結さゆが部室を出て行こうとしたものだから…。

案の定、秋斗もそんな言葉と共に慌てて椅子から立ち上がったけれど、勿論秋斗が来るまで待機してやる程優しくはない。

だから秋斗は無視して…。
部室を出る頃にはもう俺のすぐ傍に来ていた沙結さゆの手を引き部室を後にしたのだった。



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