影山総帥と俺





『動きがコピーできるとか、天野ってロボットみたいだな』

モニターから飛び込んできたその一言に影山は動きを止めた。
天野一葉。十三歳。男。
サッカー部には二か月前に入部。
父と母は教師。試験における成績は鬼道を押さえ込むほど。
また運動能力も秀でており、大抵のスポーツは人並み以上にできる。
性格は明るく温厚で、人間関係に軋轢は伺えない。
帝国学園の職員一同、彼の将来に期待を寄せている。

――『あれ』は敗者の顔だ。
天野と代表挨拶の打ち合わせで顔を合わせたとき。
影山はそう思うと同時に彼に対する興味を失った。

「あれほどの成績を取るには生半可な努力ではいかないだろう。君は何故そこまでやる?」

「え? ……ううん、そうですね……」

影山の質問に対し、天野はいくつか理由があるらしく答えあぐねていた。
影山はわずかに落胆した。
たった一つの成し遂げたいものが無い者は不要だった。
既に見切りをつけた影山は会話を終わらせるために再度天野に問いかけた。

「将来のためか?」

「それは違いないですね、選択肢は広い方がいいと思います」

普通だ、あまりにも普通すぎる。いや年齢の割に大人びているものの、大人としても普通だった。
見る者が見れば分かる稀有な肉体、そして知識量。しかしそれだけだ。

モニターの向こう側では、いかに天野のコピー能力が凄まじいかという話が続いている。
鬼道はどこか誇らしげな表情をしており、随分と情が湧いているようだった。
忠実な駒を育て上げる練習に良いと思ったがあれでは鬼道が腐ってしまう。どこかで喝がいるだろう。早めに指揮を執らせ自覚を促さねば。
そのためには将来性の無い現二年生を退場させることが必須だ、影山はいくつかの案を既に用意している。

ふと視線を天野に向けた。

「ロボットか……的を射ているな」

誤差のない正確さは素晴らしい。
だがしかし、帝国学園の圧倒的な勝利に天野は必要無い。
下級の学校ならそれなりに使えるだろうが……ふと影山は思考を止めた。
次に口元を歪めてから、携帯電話を取り出してかけ始めた。

「私だ。命令を忠実に守るロボット……『サッカーサイボーグ』を作る気は無いか」

御影専農中学のサッカー部監督、富山。電気信号の研究に明るい男。
――時間すら惜しい者どもを駆除するには丁度いいだろう。





2017.11.25

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