性格悪い美少女→円堂2






『次の部活無い期間いつ?』

返事は無い。

『見てるよね? 読んでるよね? 返事しないとか本当に大人げない』

しばらく待ってみるが、やはり同じだった。
仕方ないと溜息をつくと、画質の荒い写真を一枚だけ送信した。

『おいやめろ』
『いつ?』

本題を問えば、しばらく間が空いてから返事がやってきた。

『来月の頭、3日間だ』

必要な情報は手に入れた。
名字は途端に携帯電話から興味をなくし、ベッドで読み進めていた雑誌に目を落とす。
それはヘアカタログで、可愛らしい女の子たちが微笑んでいた。名字は彼女たちの写真に、自分の顔写真を重ねては外し、重ねては付箋を貼る作業を繰り返している。

「これは……だめ、こっちは悪くない……いや似合うものじゃなきゃだめだ、やっぱり無し。これは結構いいかも……」

携帯電話が何度か音を鳴らすが、風丸に違いない。おおかた、一枚だけ残っていた彼のスカート姿が効いたのだろう。彼の両親に見せられ、こっそり携帯電話で写真を撮っておいたのは正解だった。
そうはいっても一時的な効果にすぎない。一応幼馴染なのだから本当に不特定多数に広めるつもりは毛頭無いし、風丸が女装写真を笑い飛ばせるほど大人になれば全く効果なしという頼りない写真だ。
それまでは使わせてもらおうと、もう一年以上消す消さないの攻防をしているが、円堂の情報を手に入れるには同じ学校、同じ部活の彼が一番適していることを名字は知っているので決着はつかずにいる。

「やっぱりまとめ髪は似合ってない。おろそう」

大まかな傾向が決まったらしく、名字は更に絞り込むために力を入れた。


――後日、悩みに悩んで決めたヘアスタイルに髪をそろえると、早速円堂に連絡を入れた。
形が崩れないうちに円堂に見てもらいたい。その思いから何度も風丸に予定を聞き、大抵中学校での部活や勉強会に重なり実行できずにいたがついに自由な日取りを重ねることに成功したのだった。
円堂からの返事は計画通り可。しかも本日は高校よりもずっと早く帰ることができ、名字は円堂を驚かせたいがため高校まで飛んでいった。

しかし後になって思うと、失敗だったかもしれない。
驚かせることは成功したが、それに注意を持っていかれたのか、隣を歩く円堂は名字の髪型の変化に気付いていないようだった。
名字の髪型は肩よりも長いものから首筋のすっきりした短いものになり、よほどの鈍感でない限り気付く程度の変化だ。
しかし不満は口にしない。気付いてほしかったが、待つという行為は性に合わなかった。

「守くん、わたし髪の毛切ったんだよ」
「ん? ……あー!さっぱりしたなー!」
「さっき校門で髪の毛触ったのに、全然気付かないんだから」

悪く見れば人の変化に興味が無い、しかしかなりよく言えば人間を外見ではなく中身で判別しているということだ。
突拍子もない、贔屓すぎる考えの気もするが、円堂が相手だと妙に納得してしまうのだ。そのためか名字も怒りは湧いてこなかった。

「似合ってる似合ってる!」

それどころか円堂の笑顔とこの言葉ひとつで、今までの努力が報われたと天にも昇る気分になってしまうのだ。

「相当コスパがいい女だと思うんだけどな」
「なんか言ったか?」
「なにもー」

円堂限定でコストパフォーマンス最強の女、それが名字。
限定商品のため未だに売れることは、ない。

家の前に辿り着き、お別れの時間がやってきた。
円堂はこういったとき名字が家に入るのを見届けない限り帰っていかない。名字は円堂に面倒をみられているというその事実が好きで、見送られる瞬間を噛みしめるようにして扉を閉めていくのだ。最後に隙間から手を振るのを忘れずに。

振り返された手と、元気いっぱいの笑顔と別れを告げた途端、名字は雷門高校での出来事を思い出した。

「あの人もサッカー部か……特徴無いように見えるけど、中学初期から一緒なんだ……」

円堂の青春を間近で見てきたサッカー部には嫉妬の念を抱く。
名字はサッカーが下手で、悔しいことに覚えたくないものの一つだ。
だがそれでいい。
サッカーをすれば関わりが増えるだろうが、円堂の中の『サッカー仲間』という一括りに押し込められるのは困る。
サッカー仲間と同じではだめなんだ。傍にいられるだけでは足りないんだ。

サッカー以外で深まらなければ、わたしは守くんにとって唯一になれない。





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