円誕カウントダウン企画
※Twitter企画 おめまもカウントダウン 8/5担当
「秋ちゃんたちが忙しいから、私と買い出しに行ってほしい」
部室に入る所で、そうマネージャーに手を合わせられたのが数時間前のこと。彼女の少し離れた後方には木野や雷門、音無もおり、何故か剣呑な瞳で円堂を見ている。少しばかり気圧された。
しかし、日頃から手を尽くしてくれるマネージャーたちの頼みをどうして断れるだろうか。円堂は汗まみれのユニフォームから制服に着替え、現在は彼女と二人でショッピングモールにいる。
「コールドスプレーにテーピングに冷湿布に絆創膏に」
「かご俺持つから」
買い物かごに次々商品を投げていく彼女から、かごを強引に奪う。彼女は強引さに驚いたが、円堂の仕事を任された子どものような顔を見て、「ありがとう」と微笑んだ。
さて、今はこうしてスポーツ用品店にて順調に買い物をしているが、実のところ、ここに来るまでは脱線してばかりだった。
「円堂くんあれかわいいね。どれが好き?」
「これ絶対円堂くんに似合うよ。…… こっちの方がいい? ふーんそういう、へえ」
「美味しそう! 辛いものとか苦手? 甘いのは?」
例えば雑貨屋、例えば男物の洋服店、例えば飲食店。右に行ったり左に行ったりしたと思えば、円堂に質問する。円堂自身も一直線になりがちだが、彼女の忙しない様子には心配にもなる。
だがしかし。学校でも部室でもない場所で、好きなものについて話せるのはとても嬉しかった。円堂にとって、そう思ってしまう人だった。
支払いを終え、袋を一つずつ持つ。本当は全て円堂が持とうとしたが、逆に奪われてしまったのだ。
「さっき持ってくれたから」
円堂が見栄を張ろうとしても、彼女はいつもこうだ。
さて、用事が終わった所でもう帰らなければいけない。でもあともう少しだけ、と思っていると突然彼女の足が止まった。
「花屋だ、ちょっと寄っていい?」
円堂が答えるよりも早く、彼女はバケツに差された花たちを見つめた。これが最後の脱線かなあ、と笑いながら近寄っていくと、突然顔の横に何かを寄せられた。
「わ、なんだよ」
「円堂くんってひまわりが似合うね」
顔のすぐそばにあったのは一輪のひまわりだった。ほのかに甘い香りがする。
「え、ええ〜? 俺男だから似合うなんて無いんじゃないか」
全く嫌では無かったのだが、花という可愛らしいものと並べられて気恥ずかしくなり、つい否定してしまう。
しかし彼女は特に変わらずに笑った。
「男とか、女とか、そんなのどうでもよくなるな。こんなに似合うんだから。まん丸でぱあーっと咲いている所とかそっくり」
……。
彼女のそういうところが、なんとなく好ましかった。
呆けてしまった円堂に気付かないまま彼女はひまわりを戻す。それを視線で追い、円堂もまた一輪手に取ると、真似るようにして彼女の頬へと寄せる。丸くてさらっとした頬に鮮烈な黄色がよく映えた。
「へっ……なに?」
「え、あー、いや、やり返したかっただけ!」
俺に似合う花と、お前に似合う花が、同じだったらいいのにな。
円堂はそう思うと同時に、彼女が好きだと確信した。
「もしもし秋ちゃん? ……うん順調。大体円堂くんの好みが分かった! 私が探ってること全然気付いてないよ。みんなで円堂くんが好きなものを集めて、驚かせようね」
円堂守の誕生日まであと、17日。
20180805 @tobihira_1
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