おつかれさま
「なまえちゃん、おつかれさま!もうあがっていいよ!」
「ありがとうございます!暖簾下ろしてきますね!」
今日も1日よく働いた私。いつも以上に多かったなーと思いながら外にある暖簾を下ろす。そして残ったみたらし団子を五本貰う。まかないというやつだ。「おつかれさまです!また明日もよろしくお願いします!」と言って手を振った。「あいよー!また明日もよろしくねえ!」と店主と女将さんに言われ私は帰路につく。いつもの帰り道、週2・3回くらい会う酔っ払い、この街は夜も賑やかだ。自然と笑みが溢れる。ああ、ずっとこんな暮らしがしたい。
「あり?みょうじさんじゃねーか」
「あ、沖田さん!」
パトカーに乗って運転しているのは沖田さんだった。今日はまじめに働いてるんだ、めずらしい。
「なんか今失礼なこと考えただろィ」
「まさか〜考えてませんよ〜」
あ、きっとバレてるわ。この顔は絶対わかってる。それにしても、仕事の邪魔はしてはいけない、夜だし歌舞伎町近いし、一番忙しい時間だろう。
「じゃあ、お仕事がんばってくださいね!あ、またお団子買いに来てくださいねー!休みの時間に!」
「家近いんですかィ?」
「え?ええ、まあ、あと五分くらい歩いたところに住んでますよ」
「乗りなせえ」
「えっ?」
「パトカー。送ってってあげまさァ」
「勤務中じゃな」
「早くしな」
はい。と大人しく私はパトカーに乗った。運転手、沖田さん。後部座席にわたし。助手席に座るのもなんだか違うってなったのだ。後部座席が無難だろうし。沖田さんに道すじを軽く説明すると、頷く沖田さん、そしてパトカーが動き出した。
「勤務中にすみません、沖田さん」
「べつに。まあ、最近、変質者や痴漢も多いですからねィ」
「…心配してくれたんですか?」
「まあ、あんたは大丈夫そうですけどねィ、一応でさァ。会った後に被害にあったとかなったら後味悪いだろィ…俺が。」
「…ハハ、ソウデスネ」
少しイラッとしたのは気のせいだ。常連さんだもの、イライラしちゃだめよ。ただ少しだけ、うん、すこーしだけイラッとしたような気もする。少し喜んだ私がバカだった。そう考えている間にパトカーは家付近に着いた。
「そこの角を右に曲がったところのアパートなのでここで大丈夫です。ありがとうございました!」
ニコッと笑ってお礼を言う。理由が何であれ、有り難かった。ペコッとお辞儀をして一歩下がる。
「見送りなんていいから早く帰りなせえ」
窓を開けてそう言う沖田さんに思わず顔が綻んでしまう。不器用、な優しさ?なのだろうか。すこし、キュンっとしてしまった。
「沖田さん!今日もお仕事おつかれさまです!」
「…おつかれさん」
もう一度お辞儀をして、私はアパートに向かった。ああ、やっぱりこういう日常が続けばいいな。