屯所
「お、おじゃましまーす」
「いいのいいの!もう今日から此処はなまえちゃんの家なんだから!ね!」
ハイ、強制的にですね。と心の中で呟きながら、私は靴を脱いだ。奥の部屋へ向かうと、中に人の気配。近藤さんがニコニコしながら襖を開けると顔見知りが2人。
「よォ」
「遅かったですねィ、みょうじさん」
「いつもお買い上げありがとうございます…」
事の原因である沖田さんを少し睨みながら日頃のお礼を言う。今日は仕方ないよね、怒っていいよね私。近藤さんが土方さんと沖田さんの隣に並び、自然と私は三人の目の前に座る。なんか、緊張する。
「みょうじ、急にすまねぇな。悪いがこっちも切羽詰まってんだ。」
「…がんばります。」
「まあ、する事は掃除洗濯と飯作りだ。細かな事は花咲さんに聞けばいい。おい総悟、連れて行ってやれ」
「土方に言われなくても分かってまさァ」
「んだと「ほら、早く立ちなせぇ。行きやすよ」
「じゃあ、近藤さん、土方さん失礼します」
「よろしく頼むよ!じゃあトシ、俺もお妙さんのとこに行ってくるからよろしくな!」
「えっ?ちょっ、近藤さんんん?」
叫んでいる土方さんを無視して沖田さんに付いていく。いつもなら付き合ってあげるけど今日は私も多少機嫌が悪いからね、ごめんね土方さん。廊下を歩いていると、ふと沖田さんが立ち止まった。
「そういや今日から此処に住むんでしたねィ」
「はい、強制的に」
「怒ってやす?」
「…多少」
沖田さんはふっと笑ったかと思ったら、こっちに近付いてきた。そしてぽんっと頭に手を置いた。
「ざまあ」
私は初めて沖田さんの頬を殴った。平手打ちとか可愛いものじゃない。グーだ。襖に向かって倒れて行ったが知らない、なんか本性はこっちなんだろうな沖田さんよ。
「いてててて」
「あらら〜大袈裟ですよ〜」
「まるでチャイナみたいなパンチの重さでィ」
チャイナの文字にすこしビクッとなったが、知らないふりをした。だめだ、だめだ。服についたゴミを取りながらこちらに向かってくる沖田さんにすこし睨みを効かせた。
「先に部屋、案内しまさァ」
「…ありがとうございます」
真っ直ぐ歩くと、ある部屋の前で止まった。沖田さんが襖を開けると、そこを指差した。
「此処がみょうじさんの部屋」
「ほんとにある…」
1人には十分な部屋に箪笥や机、化粧台まで用意されている。箪笥を開けると紺色の着物に赤色の帯が入っていた。「これは?」と沖田さんの方を向くと、「あんたの仕事着」と言われた。ちょっとウキウキしてきた。
「気に入りやした?」
「はい!」
まだ花咲さんのところに連れて行ってもらう所だったので、また戻ってきてからじっくり見ようと思いながら笑顔で沖田さんの元へ向かった。
「ああ、ちなみに俺の部屋、右の部屋だから」
「…えっ?」
「左は物置だけど夜に音がするって幽霊の噂立ってるけど怖いからって俺の部屋来るなよ」
待て、色々と突っ込みたい。まず年頃の娘の寝る部屋を男の部屋の隣にする?しないよね、普通はしないよね。幽霊はこの際少し置いとこう。あれ、そっか、普通じゃ無いんだ。
「なに変な顔してるんでィ。ブスな顔がもっとブスになりやすよ」
私はもう一度沖田さんを殴った。でも次は避けられてドヤ顔された。腹が立った。
「はやく花咲さんとこ行きやすよ」
絶対にギャフンと言わせてやろうと心の底から思いました。