09.クリスマス休暇
十二月に入るとホグワーツの寒さは更に厳しさを増した。隙間風が吹き込み、校舎内でもマフラーや耳当てをしなければ出歩く気になれないほどだ。
談話室の暖炉の前から動きたくないと駄々をこねるレイラを無理矢理引きずっていくハーマイオニーの姿が、いつしかグリフィンドール塔では毎朝恒例の景色になっていた。

ハグリッドがうっかり漏らしてしまったニコラス・フラメル≠ニいう人物について調べる為、四人は授業以外の時間のほとんどを図書館で過ごしていた。フラメルが何をした人なのかわかれば三頭犬が守っているものが何なのかわかるだろうと考えたのだ。図書館は暖かく快適で、レイラも喜んで通っている。

「せめてニコラス・フラメルが何をした人なのかわかればなぁ」
「それを知る為に探してるんでしょ」

ロンが読み終わった本を横に積み上げながらぼやくと、ハーマイオニーがピシャリと正論を言う。
ホグワーツには何千、何万冊もの蔵書があるので、一冊くらいはニコラス・フラメルのことが書かれた本もあるはずだ。しかし誰もフラメルについての知識がないせいで、どのジャンルの本を見ればいいのかわからない。片っ端から本を読んで探すしかなかった。

「僕どっかでフラメルの名前を見たと思うんだけどなぁ」
「どこで見たか思い出せなくちゃ意味ないのよ」

ページを捲りながら呟くハリーに、レイラは『幻想的な魔法生物達』という本から目を離さずに笑って言った。レイラは興味を引かれる本に出会う度にフラメル探しを中断して読書に耽っていた。

「レイラ、個人的な読書は後にして今はフラメルを探してちょうだい!」

ハーマイオニーに本を取り上げられてしまい、レイラは頬を膨らませた。




毎日図書館でフラメルを探していると、あっという間にクリスマス休暇がやってきた。トランクに荷物を押し込み、ハーマイオニーと共に玄関ホールへ向かった。
ハリーとロンは家に帰らずホグワーツに残るらしいが、ほとんどの生徒は家に帰るので玄関ホールは人でごった返している。

「レイラ、こっちだ」

プラチナブロンドの頭を探していると、少し離れた場所でドラコが手を上げた。ドラコよりも彼の後ろにいるクラッブとゴイルの方が目立つかもしれない。普段はかさばるだけの大きな体もこういう時は役に立つ。

「それじゃあ、休暇明けに会いましょう。ハッピークリスマス!」
「えぇ、ハッピークリスマス。休暇中もフラメルのことを探すの忘れないでね」

レイラはハーマイオニーと別れてドラコの元に向かった。人混みをかき分けていかなければならなかったので、辿り着いた時には疲れてしまった。そんなレイラを見てドラコは優しく笑う。

「キングズ・クロス駅に迎えの車が来ているって」
「お父様とお母様も来てるかしら?」

レイラは大好きな両親を想って頬を弛めた。


入学の日はボートに乗って城まで行ったが、今回城から駅へは上級生達と同じように馬車に乗って行くらしい。馬車に乗る列に並んでいる間、レイラは馬車を引くセストラルを興味津々で眺めていた。この間森で会ったセストラルより大きい。やはりあれは子供だったみたいだ。

あの後レイラは図鑑でセストラルについて調べた。
この生き物は死を見たことのある人間にしか見ることはできないと書かれていた通り、周囲にいるほとんどの生徒達は馬車を引くセストラルに気付かない。ドラコも見えていないようで、レイラは首を傾げた。

記憶にある限りではレイラは人の死というものを見たことがない──祖母が幼い頃に亡くなっているが、幼すぎて当時の記憶はない。
けれどそれならレイラに見えてドラコに見えないというのはどういうことなんだろう。幼い頃の二人は四六時中一緒に過ごしていた。そんな二人のどちらかだけが死を見て、片方は見ていないなんてことがあるのだろうか。
レイラが不思議に思っている間に馬車は駅に到着し、ホグワーツ特急に乗り込んだ。




今まで不足していた家族との時間を埋めるように休暇の間レイラはドラコと両親にべったりくっついて過ごした。大好きなドラコの腕に抱かれて眠り、彼の優しい声で目を覚ます。四人揃って朝食をとり、ナルシッサと作ったお菓子を食べ、ルシウスの膝の上で読書を楽しむ。ホグワーツに入る前は当たり前に過ごしていたそんな日常がとても大切で愛おしく思える。
学校生活は楽しいが、やっぱり家族で過ごす時間が一番好きだ。
入学してから度々魘されていた悪夢がぱったり途絶えたこともレイラの気持ちを軽くしていた。慣れない集団での生活に、思った以上にストレスを感じていたのかもしれない。

「……わかんない!読めない!」

レイラは羊皮紙を放り投げ、隣に座るドラコにもたれ掛かった。ミミズののたくったような文字が並ぶ羊皮紙は、どれだけ真剣に見つめてもなんと書いてあるのかさっぱりわからない。

「相変わらず天文学の授業は起きてられないのかい?」
「夜は寝る時間だもの。あんな時間に授業をするのが間違いなのよ」

入学してからもう随分経つというのに、レイラは未だに真夜中に行われる天文学の授業で起きていることができなかった。ハーマイオニーは「居眠りするあなたが悪いんです」と言ってノートを写させてくれないし、ハリーとロンは真面目にノートをとっていないから見せてもらうことができない。セドリックとの勉強会がなかったら、完全にお手上げ状態になっていただろう。
ぷっくりと膨らんだレイラの頬をドラコの冷たい手が優しく撫でた。

「でもノートを取ろうと努力するだけ偉いじゃないか」

それはノートを取らなければハーマイオニーにグチグチ言われるからなのだが、ハーマイオニーの名前を出したらまたドラコのお小言が始まりそうなので黙っておく。
レイラが唸りながら解読不能の羊皮紙を睨み付けていると、コンコンとドアを叩く音がしてナルシッサが顔を覗かせた。

「レイラ、この前話していたカタログが届いたわよ」
「ありがとう。まだ間に合うかしら?」
「届けたい前日の夜までに注文すれば間に合うようだから、まだ平気よ。欲しいものにチェックを入れたら私のところへ持ってきてね」
「はーい」

ナルシッサから受け取った分厚い本を手に戻ってきたレイラにドラコが「それは?」と問いかける。
これはクリスマス用のカタログ。チェックシートに必要事項を記入するだけで相手の元へプレゼントを届けてくれる優れものだ。レイラはドラコのように外に買いに行く事ができないから、友人達への贈り物はここから選ばなくてはいけない。

「スリザリンの連中には僕の分と一緒に連名で手配してあるから、買わなくていいからな」
「ありがと、ドラコ」

勉強を続けるドラコの隣で長々とカタログを見つめ、数時間後ようやく全員分のプレゼントを決めることができた。セブルスへは最近発表されたばかりの新薬の論文をまとめた本を選び、ハーマイオニーにはレイラお気に入りのシリーズ小説の新刊『バンパイアとバッチリ船旅』を、ハリーとロンには悪戯専門店の品を買った。

セドリックには贈ってもいいのか悩んだ。
クリスマスプレゼントを贈り合うほど親しいというわけではない。けれど毎週の勉強会には随分助けられている。しばらく考えた後、感謝の気持ちを込めて羽根ペンと虹色インクのセットを贈ることにした。

「これで全部ね」

ひと仕事終えたレイラは清々しい気持ちでチェックシートをナルシッサに渡しに向かった。

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