11.ニコラス・フラメル
クリスマス休暇の最終日、レイラとドラコは初めてホグワーツ特急に乗った時と同じメンバーでコンパートメントに乗り込んだ。
レイラはクラッブ、ゴイル、ノット、ザビニの顔を順番に眺め、頬を膨らませた。

「パンジーやダフネはどこ?」
「さあ…どうしてだ?」
「私、女の子とお喋りしたい」

彼らのことは嫌いではない。
けれど、彼らとはお気に入りの洋服ブランドの新作や雑誌に載っているメイク講座を見て盛り上がることはできない。せっかく一緒に見ようと思って持ってきたのにと、不貞腐れた顔で今朝届いたばかりの雑誌を取り出したレイラを見て、正面に座っていたザビニが笑った。

「その雑誌なら、母さんが買っているのを見たことがあるよ」
「ほんとう?」
「あぁ、母さんは美容やファッションが大好きでね。家にはそういう類いの本や雑誌が溢れているんだ」

それからホグワーツに着くまでの間、レイラはザビニと雑誌を覗き込んでヘアアレンジ特集やメイク道具談義に花を咲かせた。途中何度かドラコが口を挟んだが、的外れのことばかり言うのでその度にレイラとザビニは笑った。
クラッブとゴイルの興味は買い込んだお菓子を食べ切ることだけにあるようで、コンパートメント内の様子を見ることもしない。

まさか男の子とこんな話題で盛り上がれるとは思わなかった。雑誌に載っているヘアアレンジをザビニにしてもらいながらレイラはニコニコ笑っていた。ナルシッサの手付きとは随分違うが、ザビニは手馴れた様子でレイラの巻き髪を纏めあげていく。

ふと視線を感じて顔を上げると、斜め前の席に座るノットと目が合った。彼はクラッブとゴイルのようにお菓子に夢中になっているわけでもなく、かといってドラコやザビニのようにレイラのお喋りに加わることもない。
数秒無言で見つめ合った後、先に目を逸らしたのはノットだった。視線を車窓の外に向け、小さく息を吐き出す彼の眉間には僅かに皺が寄っている。
それを見たレイラも同じように眉を寄せた。

ザビニとノットはよく一緒に行動しているが、レイラに対する態度はまるで正反対だ。ザビニはレイラのことを可愛いと言ってお姫様扱いしてくれるし、いろんな話で盛り上がることができる。
それに比べてノットがレイラを見る目は冷ややかだった。たまに今のように目が合っても、すぐに嫌そうに逸らされてしまう。

何か彼の気を悪くするようなことをしただろうかと口を尖らせるレイラの意識は、手鏡を差し出しながら「できたよ」と言ったザビニの言葉に持っていかれてしまった。


駅からホグワーツまでは休暇が始まる時と同じように、セストラルが引く馬車に乗って向かった。入学の時より体力がついたとはいえ、やはり長旅は疲れる。大きな欠伸を噛み殺しながら城に足を踏み入れたレイラの目に、玄関ホールから上に続く階段を駆け上がるふわふわの栗色が映った。

「ドラコ、私もう行くね」
「あぁ。今日は移動で疲れただろうから早めに休まなくちゃだめだぞ。あとポッター達とは関わらな…」
「おやすみっ」

レイラはドラコの言葉を遮るように彼の頬に唇を押し付け、階段を上がっていった。ドラコのお小言を聞いていたらハーマイオニーの姿を見失ってしまう。
階段の途中で合流した二人は再会を喜び、お互いの過ごした休暇について話をした。レイラがニコラス・フラメルについて調べるのをすっかり忘れていたと白状すると、ハーマイオニーにじろりと睨まれてしまった。クリスマスに贈られた興味深い本の山を消化することに夢中になっていたせいだ。

ハーマイオニーはなんとマグルの図書館に通ってニコラス・フラメルを探したらしいが、当然見つからなかったらしい。マグルの図書館にはどんな本があるのかと目を輝かせて聞きながら談話室に入ると、暖炉前の机でハリーとロンがチェスの対戦をしていた。

「あいかわらず勝てないの?」

レイラがクスクス笑いながら隣に座ると、ハリーは不貞腐れたような顔をした。

「君たちだってロンには勝てないだろう?それにレイラは僕にも勝てないじゃないか」
「二人とも、休暇はどうだった?」

あからさまに話題を逸らしたレイラにハリーは小さく吹き出して笑った。レイラはチェスの腕が立つロンにはもちろん、ハリーやハーマイオニーにも一度も勝ったことがない。

ハリーとロンの話を聞く限りでは、ホグワーツで過ごすクリスマス休暇もなかなか楽しそうだ。
しかもハリーはクリスマスプレゼントに貰った透明マントを使って、三晩続けて深夜の校内を歩き回ったという。それを聞いてレイラは私も夜の学校を歩いてみたいと言い、ハーマイオニーはそれを使ってニコラス・フラメルについての文献を見つけられたらよかったのにと悔しがった。
二人らしい反応にロンとハリーは苦笑いを浮かべた。




新学期が始まり、四人は再び授業の間の休み時間を使って図書館に通うようになった。
けれどハリーはクィディッチの練習に忙しく、レイラも読書に没頭してばかりで、実質ハーマイオニーとロンだけで探しているようなものだった。今日もハリーはクィディッチの練習に向かい、ハーマイオニーとロンはフラメル探しのために図書館へ行っている。

「あなたも手伝いなさいな」というハーマイオニーの厳しい視線から逃げ、レイラは禁じられた森へ来ていた。
肩から下げた鞄の中には昼食の時に拝借した果物が入っている。怪我をしたユニコーンの手当てをした時から、時々こうして二頭に会うために森に来ていた。
レイラが来ることがわかるのか、森に行くと必ず二頭は森の入り口まで迎えに来てくれる。今日も木の間から覗く黒と金の姿を見つけ、レイラは目を細めて駆け寄った。

「こんにちは、あなた達また少し大きくなったわね」

擦り寄せてくる二つの頭を撫でてからレイラはユニコーンの上に横座りに乗った。二頭はゆっくり歩き出し、森の奥にある綺麗な泉のほとりまで連れていく。
森の中は昼でも薄暗いが、ここは光が射し込んで明るい。
鞄の中から取り出した林檎と梨を美味しそうに齧っていく二頭を見て、レイラは幸せそうに笑った。
あいにく彼らの言葉はわからないが、最初の出会いの時から心を許してくれていることはわかる。パーセルタングのように、ユニコーンやセストラルと話す為の言葉も存在しているのだろうか。

「あなた達とお喋りできたら、きっともっと楽しいわよね」

綺麗に梨を食べ切ったセストラルに果汁に濡れた手を舐められ、「くすぐったいわ」と笑いながら新しい果物を取り出す。

「お喋りできたら、森の中にはどんな生き物がいるのか、夜はどんな雰囲気なのかとか、いろんなことを教えてもらえるものね」

二頭の顔を見つめながら一人で呟いていたレイラは、誰かに見られているような気がして後ろを振り返った。けれどそこには大きな木があるだけで、動物も人間もいない。たしかに誰かに見られていた気がしたのだけれど…と視線を戻したレイラは、正面の木々の間からこちらを見つめる白く輝く姿に目を丸くし、すぐにその目を蕩けさせた。

「おいで」

その影は呼びかけに応えず、窺うようにこちらをじっと見つめ返す。レイラはそんな反応に笑みを浮かべたまま鞄をひっくり返し、色とりどりの果物を地面に転がした。

「好きなものを食べていいからね」

それだけ言うとレイラは果物と一緒に転げ出た魔法薬の本を開いた。満腹になったらしいセストラルとユニコーンの子供たちはレイラの膝に頭を乗せる。どうやら昼寝を始めるらしい。

二頭の昼寝の邪魔にならないように気を付けながら本を読んでいたレイラは途中で顔を上げ、目の前の光景を見て思わず笑ってしまった。いつの間にか地面に転がっていた果物はなくなり、代わりに大きな体のユニコーンとセストラルが何頭か寝転がっている。さっきまでの警戒心はどこにいったのだろう。

「今度からは持ってくる果物の量を増やさなくちゃね」

小さく肩を揺らして笑いながらそう言ったレイラの胸は幸せで満たされていた。

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