
17.一年の終わり
部屋に戻ったレイラは少しだけ仮眠を取り、夜にはハリーと一緒に学年度末パーティーに向かった。二人が大広間に入ると、賑やかな話し声が途切れて数え切れないくらいの目がこちらに向けられた。
少し前、グリフィンドールが一晩で百五十点も失うという大失態をしてしまった日の翌朝に似ている。けれどあの時と違い、向けられるのは好意的な視線ばかりだ。
「レイラッ!!」
この一年で聞き慣れた友人の声が聞こえたかと思うと、そのまま強く抱き締められた。バランスを崩して後ろに倒れそうになるレイラを、ハリーの手が支えてくれてなんとか踏みとどまる。
「レイラ、もう大丈夫なの?怪我してない?何があったの?あなたが最後の部屋に居たってハリーが……!」
「私はもう大丈夫。……でも、詳しい話はまた後でね。ハーマイオニー、座ろう?」
レイラはふわふわ揺れる栗色を撫でながら小さく笑った。こんな大勢の目の前で、秘密の冒険譚を話す気にはなれない。
「後でちゃんと聞かせてもらいますからね」と頷いたハーマイオニーと手を繋いでグリフィンドールのテーブルへ向かう。その途中でスリザリンのテーブルに座るドラコやザビニ達と目が合い、にっこり笑って手を振ると皆呆れたように笑い返してくれた。
大広間はグリーンとシルバーのスリザリンカラーで彩られていた。教職員用テーブルの後ろには、スリザリンの蛇が描かれた巨大な横断幕まで飾られている。それらは寮対抗杯でスリザリンが勝ったお祝いの飾り付けらしい。
レイラが大広間内の飾りを見ていると、再び大広間が静寂に包まれた。静かになった大広間を見渡し、ダンブルドアがゆっくりと口を開く。
「また一年が過ぎた!一同、ご馳走にかぶりつく前に老いぼれのたわ言をお聞き願おう。なんという一年だったろう。君たちの頭も以前に比べて少し何かが詰まっていればよいのじゃが……新学年を迎える前に、君たちの頭が綺麗さっぱり空っぽになる夏休みがやってくる」
一年前と比べてレイラの頭は沢山のもので満たされたと、自信を持って言える。勉強だけじゃない。
嬉しいことも、幸せなことも、悲しいことも。
本当に沢山のものが自分の中に詰め込まれた一年だった。
「それではここで寮対抗杯の表彰を行おうかの。点数は次の通りじゃ。四位グリフィンドール、三一二点。三位ハッフルパフ、四百二点。二位レイブンクロー、四七六点。そしてスリザリン、五二二点」
スリザリンのテーブルから嵐のような歓声が上がった。
ドラコ達も大はしゃぎしているのが見えて、レイラは微笑ましい気持ちで彼らに拍手を送った。
「よし、よし、スリザリン、よくやった。しかし、つい最近の出来事も勘定に入れなくてはなるまいて」
ダンブルドアが続けた言葉に、スリザリンの笑いが止んだ。
「駆け込みの点数をいくつか与えよう。まず最初は、ロナルド・ウィーズリー君」
最高のチェスゲームを見せてくれたと言ってロンに五十点が与えられた。続いて、火に囲まれながら冷静な論理を用いて対処したとハーマイオニーに五十点が与えられる。
この短時間で一気に百点も増えた。グリフィンドールのテーブルは狂喜の声で騒がしい。
「次に、レイラ・マルフォイ嬢。恐怖に屈することなく、悪しき者の誘惑を跳ね除けたことを称え、グリフィンドールに五十点を与える」
再び大広間に歓声が上がる。レイラは顔を真っ赤にしてハーマイオニーに抱きついた。
「三番目はハリー・ポッター君……その完璧な精神力と、並外れた勇気を称え、グリフィンドールに六十点を与える」
耳が痛くなるくらいに大広間が沸き立った。少し離れた席から誰かの「スリザリンと点数が並んだぞ!」という声が聞こえ、思わずレイラもハーマイオニーと顔を合わせて叫んでしまった。ハリーも同じように喜びの声を上げ、ロンは興奮のままにテーブルを叩いている。
ダンブルドアが手を挙げると、大広間が少しずつ静かになった。
「勇気にも色々ある。敵に立ち向かっていくのにも大いなる勇気がいる。しかし、味方の友人に立ち向かうのにも同じくらい勇気が必要じゃ。そこでわしは、ネビル・ロングボトムに十点を与えたい」
まるで爆発のような大歓声が響いた。
グリフィンドールが首位に立った!
レイラは座っていることができず、立ち上がってハーマイオニーと抱き合ったままぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだ。ネビルは自分が点を稼いだことが信じられないようで、真っ青な顔で呆然としていたが、あっという間に揉みくちゃにされて姿が見えなくなった。
正直どうしてネビルが出てきたのかわからなかったが、こんな騒音の中で答えを聞くことはできないだろう。後で教えてもらおうと思いながら、レイラはハーマイオニーだけでなくラベンダーやフレッドにジョージ、それから名前も知らない生徒まで、沢山のグリフィンドール生達と抱き合って喜びを分かち合った。
「したがって、飾り付けをちょいと変えねばならんのう」
ダンブルドアが手を叩くと、スリザリンカラーの垂れ幕がグリフィンドールカラーに変わる。寮対抗杯なんて興味がなかったし、大広間がスリザリンカラーに飾られていても悲しくはなかった。けれどグリフィンドールが首位に立ち、レイラの心は落ち着きをなくして弾んでいる。
寮生達と喜びを分かち合えるのがこんなに幸せなことだなんて知らなかった。皆が寮対抗杯に一喜一憂する気持ちがようやく理解出来た気がする。
すっかり忘れていたというか、むしろこのまま一生忘れていたかったくらいなのだが、そうもいかない。
学年末試験の結果が発表された。顔面蒼白で結果の記された紙を開いたレイラは、思ったより悪くない結果が並んでいるのを見て驚いてしまった。
実技試験でヘマをしてしまった変身術と呪文学は、そこまで悲惨な点数ではなかった。変身術は筆記も実技も微妙な点数だったが、呪文学は満点とは言わないまでもどちらも好成績だ。魔法史が満点以上の成績だったおかげで変身術の失態はカバーできているし、魔法薬も満点近くを取れている。
その他の科目もそれなりに良い点数で、全体的な成績は悪くない。上の中といったところだ。
ハリーとロンはレイラと似たような結果だったし、ハーマイオニー、ノット、ドラコは学年上位に名前を連ねている。
「さすがドラコね!」
「あぁ、でもあの穢れた血に負けたと父上が知ったら………ああ!違うんだレイラ!!今のは…!!」
悔しそうに唇を噛み締めていたドラコだったが、自分の失言に気付くと顔を真っ青にさせた。そんなドラコを見て、レイラはくすくすと笑う。
「ふふ、ドラコがハーマイオニー達の悪口を言うの、聞き慣れちゃった。だからそんなに気にしないで」
「いい、のか……?」
「良くはないけど。でも、そうね。私に同意を求めてきたり、ハーマイオニー達といるのをやめさせようとしなければいいの」
「レイラは大人だなぁ。これじゃあどっちが兄か姉かわかんないな。──あれ? ドラコの方が弟だっけ?」
「うるさいぞザビニ!!」
「っていうかドラコとレイラは双子なんだから、どっちが上とかないでしょ」
ザビニが揶揄うように口を挟んできて、ドラコは顔を真っ赤にしながら声を荒らげる。それにパンジーも加わり、さらに賑やかになる。
レイラがそれを見て笑っていると、隣から小さな溜め息が降ってきた。ちらりとそちらを見ると、ノットがいつもの涼しい横顔で立っていた。けれどレイラの見間違いでなければ、その口元は薄らと弧を描いている。
「あいつらはもう少し静かにすることを覚えるべきだ。煩くてかなわない」
「ふふ、でも仲良しなのはいいことよ。あなたも混ざればいいのに」
「冗談はやめてくれ」
ノットが心底嫌そうに顔を歪めるものだから余計におかしくなって、レイラはまたくすくすと笑った。
「お?成績優秀者のセオドール・ノット様は恋愛でも皆より一歩先をいくっていうのか? でもレイラを口説くなら、先に口煩いドラコをなんとかしないと後が怖いぞ」
「あら、私を口説くのにドラコの許可はいらないわ」
「レイラ!?」
「違う、そんなんじゃ…ああもうややこしいからあんたは黙っててくれ」
楽しそうに茶々を入れるザビニにレイラが悪ノリすると、ドラコが悲鳴を上げてノットを睨みつける。それを煩わしそうに否定して溜め息を吐くノットの姿は、いつもの少し離れた場所から傍観している姿より好ましく思える。
「ドラコはもう少し妹離れをするべきね。シスコン過ぎるのはかっこよくないわよ」
「パーキンソンまで!別に僕はシスコンなわけじゃない!レイラに変な虫が付かないようにと……!!」
味方をしてくれるだろうと思っていたパンジーにまで裏切られ、途方に暮れるドラコを見て全員が吹き出した。誰一人落第することなく無事に進級出来ることが決まり、いつも以上に浮かれた空気が漂っている。それはレイラも例外ではなく、何気ない話題で盛り上がり、笑い転げた。寮が違ってもこうして一緒に笑ってくれるスリザリンの友人も、レイラがこの一年で手に入れた大切な宝物だった。
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