05.飛行訓練
ロンと一緒に談話室で変身術の宿題を片付けていたハリーは肖像画の穴から戻ってきたレイラの姿を見つけ、声をかけようと立ち上がりかけた──が、それは腕を掴んだロンによって阻まれた。
「おい、ハリー!またあいつのとこにいくつもり?」
「そのつもりだけど……なんで?嫌なの?」
「嫌なの?って、そりゃあ嫌に決まってるさ!よーく考えてみろよ、あいつの兄は誰だ?スリザリンの嫌味で最低なドラコ・マルフォイだぞ!?」

ロンがひそひそ声で捲し立てると、ハリーは怪訝そうに眉をひそめた。このやり取りはハグリッドの小屋から帰る道中でも繰り返したものだ。

「だから?──あの子の兄弟が誰だって、あの子自身が嫌な奴ってことにはならないよ」
「だけど、」
「それにこの一週間見てたけど、僕はレイラが嫌な奴だとは思わなかった。むしろマルフォイの妹なのが信じられないくらいだよ」
「……それは、………そうだけど…」

ハリーの言葉に反論出来ず、ロンは顔を顰めて黙り込んだ。
ロンの家は魔法族で、父親のアーサー・ウィーズリーがルシウス・マルフォイと同じ職場で働いていることもあり昔からマルフォイ家についてはよく聞いていた。
純血を重んじ、混血やマグル生まれを蔑む考え方をする。それだけでもいい感情は持たないが、さらにマルフォイ家は『例のあの人』の陣営に着いていたらしい。そんな人間達と仲良くするなんてごめんだ。

けれど──ロンは談話室の向こう側にいるレイラに目を向けた。泣きそうな顔で謝るネビルに笑いながら何か言っている。おそらく今日の魔法薬学での出来事について話しているのだろう。嫌な性格のドラコだったらきっと酷いことを言うのだろうが、ネビルが安心したような笑顔を浮かべたのを見るとレイラは違うようだ。

二人が話しているところにフレッドとジョージが押しかけてその一角は途端に賑やかになった。双子のどちらかがレイラの頭に花冠を乗せ、楽しそうに笑っている。
組分け儀式の直後からあの二人はとても好意的にレイラに接していた。最初こそ信じられない思いで見ていたが、フレッドとジョージは嫌な人間相手にあんな構い方をするようなことはないし、レイラがドラコとは違って嫌味なことを言ったり人の事をバカにしたりもしていないことは知っている。
それこそ本当に同じ家で育ったのか不思議に思うくらいだ。

闇の陣営に加担していた純血主義の家の子。そこからイメージする姿との違いにどうしたらいいのかわからなくなる。
悪い子だとは思わない──それでもやっぱり素直に仲良くすることはできなくて、あからさまに嫌そうな態度をとってしまう。

ハリーは談話室の一角を見つめたまま百面相をしている親友の姿を視界の端に捉え、安心したように小さく笑った。これならきっと、そう遠くないうちに打ち解けられそうだ。




双子達から解放されたレイラはハリーとロンの姿を見つけて近付いた。二人が囲う机には何枚かの羊皮紙が広げられている。

「何してるの?──変身術?」
「変身術の宿題だよ。レイラはもう終わった?」
「うん。あ、でも防衛術がまだなの」
「あ!防衛術も宿題出てたんだ!」

レイラの問いに勿論と頷いたハリーの後ろで、ロンが「しまった!」と頭を抱えた。

「私もここで一緒にやってもいい?」
「……んんん…」
「変身術でわからないところがあればお手伝いできると思うし、逆に防衛術のアドバイスしてくれたら助かるんだけどなぁ」

唸りながら顔を顰めたロンに首を傾げ、そんなロンを見て笑っているハリーを上目遣いに見上げる。すると、ハリーは「役に立てるかわからないけど…」と照れくさそうに笑って広げていた羊皮紙や教科書を片付け、レイラの羊皮紙が広げられるように場所を作った。

「ロンはどこまでやってるの?」
「……まだこれだけ」

数行しか書かれていない羊皮紙を見てレイラは笑って、早く終わらせちゃいましょう!とにっこり頷いた。
三人はお互いの完成したレポートを参考にしながら、なんとか消灯時間が来る前に宿題を完成させることができた。ロンは大きく伸びをしながらソファーの背もたれに体を預ける。

「終わったー!!」
「疲れたぁ…でも無事に終わらせられてよかった。ハリーもロンも、一緒にやってくれてありがとう」
「どういたしまして」

レイラが羊皮紙をくるくる丸めながらお礼を言うと、笑顔になったハリーが肘でロンをつついた。

「いや……その、…うん、君に言われなかったら僕もすっかり防衛術のこと忘れてたし、その………えーっと、…ありがとう」

眉間に皺を寄せながら言う彼の耳は赤く染まっている。
それがなんだかおかしくて、嬉しくて。レイラはにっこり笑った。





談話室の掲示板に飛行訓練のお知らせが貼り出されると、一年生の話題は飛行の事ばかりになった。

──────

飛行訓練は木曜日に始まります。
グリフィンドールとスリザリンの合同授業です。

───────────


今までスリザリンとの合同授業は魔法薬しかなかったが、これからはもっとドラコと授業を受ける時間が増えるとレイラは喜んだ。けれど他のグリフィンドール生はスリザリンとの合同授業だと知ると露骨に嫌そうな顔をした。
だが、飛行訓練自体が楽しみな気持ちは変わらないようで暇さえあれば皆、自分が箒に乗って空を飛び回っていた話をしている。
幼い頃からドラコが飛行の話をするのを聞き流していたレイラは、ロンやシェーマス・フィネガンが隣でそんな話をするのを慣れた様子で聞き流していた。

「レイラは箒に乗ったことある?」
「うーん、一応あるけど……」

ドラコの箒に乗せてもらって家の上空を散歩するのは好きだ。けれどレイラが一人で箒に乗ると、何故か地面すれすれを超低空飛行するだけで全然高く飛んでくれない。何本も箒を取り替えてチャレンジしてみたが結果は変わらなかった。
きっと授業も散々なことになるだろうことが容易に想像できるから憂鬱だ。

「私ちゃんと飛べるかしら?参考になりそうな本は片っ端から読んだけど、実際に飛ぶのは初めてだから……失敗したらどうしよう!」
「落ち着いて、ハーマイオニー」

『飛行技術-入門編-』のページを捲りながらヒステリックに叫ぶハーマイオニーを見たが、レイラの声は届いていないみたいだ。ふぅ、と息を吐いてレイラも『クィディッチ今昔』に目を戻した。


そうして迎えた飛行訓練当日。ハーマイオニーの不安と緊張はピークに達したようだ。起きた直後から大広間に向かう間も、朝食を前にしても、狂ったように『クィディッチ今昔』を読み上げている。
その隣に座るレイラは昨日の真夜中に天文学の授業があったせいで眠くてたまらない。座っているのがやっとのレイラはハーマイオニーが読み上げる声を子守唄にしながらうつらうつらと船をこいでいた。

しばらくすると大広間に何百羽ものふくろうが郵便をぶら下げて現れた。ふくろう便の時間だ。
レイラはいつも通り両親からの郵便を受け取り、ふくろうの口にベーコンの切れ端を差し出した。届いた小包の中はお菓子だろう。今は開ける元気もなくてレイラは再び目を閉じた。


「返せよマルフォイ!」

突然聞こえた怒鳴り声にレイラがビクッも目を開けると、レイラの向かいに座るネビルの後ろにドラコが立っていた。その手には赤いモヤが入った玉が握られている。あれはなんだろう?と首を傾げていると、マクゴナガルが厳しい顔でやって来た。

「どうしたんですか?」
「先生、マルフォイが僕の『思い出し玉』を取ったんです」
「見てただけですよ」

ドラコが顔をしかめて思い出し玉をテーブルの上に置くと、ネビルはホッと息を吐いて思い出し玉を元通りに包みに戻した。どうやらいつもの喧嘩のようだ。再び目を閉じようとしたレイラは「ミス・マルフォイ、そのままだとシリアルに顔を突っ込みますよ」という呆れたようなマクゴナガルの言葉に眠るのを諦めることにした。


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