09.決闘クラブ
ザビ二は筆記は苦手だが実技が得意で、スリザリンの呪文学や変身術の授業で一番に呪文を成功させるのはザビ二が多いと以前ドラコ達が話していたのを覚えている。きっとセブルスはハリーが公衆の面前で無様に武装解除されるのを笑いものにしたくてザビ二を相手に選んだのだろう。

「ミスター・ザビ二、分かっているだろうが…」
「分かっていますよ。ポッターに恥をかかせてやればいいんですよね?」

ニヤリと意地悪い笑みを浮かべたザビ二にセブルスは満足そうに頷いた。

「武装解除をするのよ? いじわるしちゃだめよ?」
「レイラ、楽しみに見てな」
「そうじゃなくて……あぁ、もうっ」

ザビ二はくるりと背を向けてしまった。ハリーの方はロックハートからアドバイスを受けているのかと思ったが、ロックハートはくねくねと不思議な踊りの後に杖を放り投げている。アドバイスではなく、励ましに一発芸でも披露しただけなのかもしれない。

「構えて。一、二、三──それ!」
「サーペンソーティア!」

ザビ二が素早く杖を振り上げて大声で叫ぶと、彼の杖先から真っ黒な蛇が飛び出した。蛇は二人の間に落ち、鎌首をもたげて攻撃態勢を取った。突然呼び出されて怒っているのかもしれない。
生徒が悲鳴を上げて後ずさる中、セブルスが悠然と進み出た。

「動くな、ポッター。私が追い払ってやろう…」
「私におまかせあれ!」

ロックハートが嬉々として杖を振り回すと、バーンッと大きな爆発音と共に蛇が二、三メートルも宙を飛んだ。元々不機嫌だった蛇はこの攻撃で怒り狂い、牙を剥き出して攻撃の構えを取った。一番近くにいたジャスティンに襲いかかろうとしている。

『だ──』
『手を出すな。去れ』

思わずレイラが口を開いた直後、ハリーが強い口調で叫んだ。途端に蛇はしょんぼりと落ち込んだように大人しく床に丸まってハリーを見上げた。その姿が可愛くて、レイラはくすりと笑いながら蛇に近付きしゃがみ込んだ。

『……ごめんなさい。でも、痛かったしびっくりしたんだ…』

しゅんとして俯く蛇の頭を撫でてやると、蛇は甘えるようにレイラの腕にするりと絡みつく。こっちこそ突然攻撃してごめんね、と言ってあげたいが、こんなに人目がある場でパーセルタングを話すわけにはいかない。──そこまで考えたところでようやくレイラはハッとして顔を青ざめさせた。

ハリーはレイラと蛇を見て呑気ににっこり笑っていたが、ジャスティンは恐怖と怒りが綯い交ぜになった顔でレイラとハリーを見ていた。ジャスティンだけではなく、周囲にいる生徒は皆似たような表情を浮かべている。

ジャスティンが背を向けて大広間から出ていった後、セブルスが杖を振り上げたのが見え、レイラは慌てて蛇が巻き付いた腕を後ろに回した。きっとセブルスは蛇を消そうとしたのだろう。勝手に呼び出して、攻撃して、最後は消すなんて、そんなの酷すぎる。

「……元の場所へ送り返すだけだ」
「…………」
『ぼく、もう少し君と一緒がいいなぁ』

そんなことを言われたら、差し出せない。レイラは無言のまま首を振り、セブルスに背を向けてハリーに駆け寄った。蛇を腕に巻き付けたレイラを避けるように生徒達が距離を取る。

「ハリー、行こう?」
「え?」
「さあ、来て。ハリーも……レイラも、とにかく行こう」
「ここから離れましょう」

ロンとハーマイオニーがレイラの腕に巻き付いた蛇を気にしながら二人を大広間から連れ出した。ハリーは何が何だかわからないといったように顔を顰めているが、ロンとハーマイオニーはグリフィンドールの談話室に着くまで無言のままだった。ほとんどの生徒が決闘クラブに参加していたせいか、談話室には誰もいない。ハリーとレイラが肘掛け椅子に座るとようやくロンは口を開いた。

「色々言いたいことはあるんだけど、その前に……その蛇、僕たちのこと襲わない?」
「そんなことしないよ」

黒蛇はレイラの首に巻き付いてうとうとしている。人肌の温もりが心地良いのかもれない。レイラは微笑みながら頷いたが、それでもロンは心配そうにちらちらと蛇に視線を向ける。ハーマイオニーも蛇から距離を取るように、レイラの隣ではなく少し離れた所に座った。

「うーん……まぁ、うん。それより、ハリー!君はパーセルマウスなんだ!どうして僕たちに話してくれなかったの?」
「僕がなんだって?」
「パーセルマウス。ハリーは蛇とお喋りができるのね」

「そうだよ」と事も無げに頷いたハリーにロンとハーマイオニーは絶句している。ハリーは自分が魔法使いだと知る前に動物園の大ニシキヘビと話したことがあるらしい。

「それがどうしたの? ここにはそんなことできる人、掃いて捨てるほどいるだろう?」
「それが、いないんだ。そんな能力はざらには持っていない。ハリー、まずいよ…」
「何がまずいの? 考えてもみてよ。もし僕がジャスティンを襲うなってその蛇に言わなかったら、」
「へぇ、君はそう言ったの?」
「君たちあの場にいたし、僕の言うことを聞いたじゃないか」

ハリーは苛立ったようにロンを睨みつけ、ロンは弱ったように首を振った。

「僕が聞いたのはパーセルタング、つまり蛇語だよ。君がなにを話したのか、他の人にはわかりゃしないんだよ。ジャスティンがあんなに怒ったのも分かるな……君ったらまるで蛇を唆してる感じだった」

それを聞いたハリーは目を丸くして、自分が違う言葉を喋ったことに気付かなかったと呟いている。レイラもパーセルマウスだから分かるが、意識的にパーセルタングを使うことは難しい。蛇に向かって話しかけると自然とそれがパーセルタングになってしまうのだ。きっとハリーも同じなのだろう。

「でも、僕が蛇を止めたおかげでジャスティンは助かったんだよ? どういうやり方で止めたかなんて、問題になるの?」
「問題になるのよ」

大広間を出てから一度も喋らなかったハーマイオニーがようやく口を開いた。

「どうしてかというと、サラザール・スリザリンは蛇と話ができることで有名だったからなの。だからスリザリン寮のシンボルが蛇なのよ」
「きっと学校中が君のことをスリザリンの曾々々々孫だとかなんとか言い出すだろうな」
「パーセルマウスだからってサラザール・スリザリンと血が繋がっているわけじゃないよ」

レイラは談話室をもう一度見回して、自分達の他には誰もいないことを確認してから口を開いた。

「私もパーセルマウスなの。でも、マルフォイ家はサラザール・スリザリンと血の繋がりはないわ」
「え!?」

三人の声が重なった。

「それ本当? 君も喋れるの?」
「うん。スリザリンの血縁者じゃなくても、突然変異とかでそういう人もいるみたいよ?」
「……今、喋ってみせてくれる?」

困惑したようなロンに頷き、レイラは首元に巻き付いた蛇を見つめて口を開いた。

『あなたのお名前は?』

けれどその言葉を理解出来たのはハリーだけで、ロンとハーマイオニーにはシュウシュウという奇妙な音にしか聞こえなかった。本当にレイラもパーセルマウスだということに二人は衝撃を受けているようだったが、ハリーは自分だけがおかしいわけじゃない、それにスリザリンの曾々々々孫かもしれないという不安が消えたことで安心して胸をなでおろした。

「あのね、パーセルマウスだって人には言っちゃだめよってお父様達に言われてるの。だから他の人には内緒にしててくれる?」
「僕はあんな大勢の前で喋っちゃったのに…」

ハリーは少し不満そうだったが頷いてくれた。

「ハリーはスリザリンの末裔だって噂されるかも…レイラも何か言われるかもしれないわ」
「僕はスリザリンの曾々々々孫なんかじゃないし、レイラも違うよ!」
「それは証明しにくいことね。スリザリンは千年も前に生きていた人だもの」
「私は違うって言えるよ。マルフォイ家には立派な家系図があるの。そこにサラザール・スリザリンのお名前は載ってないわ」

ハリーの目が「裏切り者」と言っている気がしてレイラは肩を竦めた。事実がどうであれ、周囲から向けられる視線は変わらないだろう。レイラはハリーのようにパーセルタングを使わなかったが、蛇を手なずける姿がどう思われるのかは想像がつく。
スリザリンの継承者が事件を起こしている中でサラザール・スリザリンとの血縁を疑われるようなことをしたのだ。きっとハリーとレイラはスリザリンの継承者とその仲間とでも思われるのだろう。
レイラが疑われるということは、ドラコにも迷惑がかかるかもしれない。明日の朝一で謝らなくちゃ。レイラは深い溜息を吐いた。

24/47

back



ALICE+