
10.クリスマス休暇
決闘クラブの翌朝、周囲からどんな目を向けられるのだろうと怯えていたレイラだったが、周りの態度は何も変わらなかった。レイラ達が大広間から出ていった後「ハリー・ポッターってパーセルマウスなの!?」「やっぱりポッターがスリザリンの継承者なんだよ!」「ミス・マルフォイもあんなふうに蛇を手懐けるなんて継承者の仲間なんじゃ…」とざわつく生徒達の中でドラコが咄嗟に「家で蛇を飼っていたことがあるからレイラは蛇の扱いに慣れているんだ」と嘘をついたのだ。
もちろんマルフォイ家で蛇を飼っていたことなんてないのだが、おかげでレイラは「継承者の仲間」ではなく「蛇が好きな女の子」という認識に収まったらしい。パーセルマウスは闇の魔法使いだと恐れられるのに蛇そのものはちょっと怖い生き物程度に思われるのがよくわからないが、そのおかげでレイラは疑惑の目を向けられずにすんだのだから良しとしよう。
だがレイラとは違い、ハリーの方は悲惨だった。ただでさえパーセルマウスだと知れ渡ったせいで継承者疑惑が強まっていたのに、再び次の犠牲者、ジャスティン・フィンチ-フレッチリーとほとんど首なしニックの第一発見者になってしまったのだ。おかげでほとんどの生徒達は完全にハリーがスリザリンの継承者だと思っている。
ハリーが傍を通るだけで石にされると思っているかのようにハリーを避け、怯えた目で遠巻きにひそひそ話をしている。同じパーセルマウスなのにハリーだけがそんな目で見られるのが心苦しくて、でもルシウスとの約束を破るわけにもいかない。せめて少しでもハリーが寂しくないようにと、休暇が始まるまでレイラはハリーに寄り添うように生活した。
全ての授業が終わり、明日からクリスマス休暇が始まる。休暇中家に帰る生徒は明日朝一のホグワーツ特急に乗るために簡単な荷造りでもしているのか、廊下を歩く生徒の数はいつもより少ない気がする。ドラコはいつもこれくらい人が少なければ歩きやすくていいのにと思いながら、目当ての人物を探して校内を歩き回っていた。
先程セブルスから渡された羊皮紙には『私セブルス・スネイプ教授は、クリスマス休暇中にグリフィンドール生のミス・レイラ・マルフォイがスリザリン寮へ立ち入ること及び滞在することを許可する』と書かれてあり、文末にはマクゴナガルとダンブルドアの署名まで入っている。これがあればクリスマス休暇中、家に帰れなくてもレイラとずっと一緒に過ごすことができる。
レイラが喜ぶ姿を見たくてこうして探し回っているのだが、なかなか見つからない。暖かい日なら中庭や湖の近くにいることが多いが、さすがにこの寒さでは外にはいないだろう。レイラの位置情報を教えてくれるような魔法道具か、居場所がひと目でわかるような地図でもあればいいのに。
読書好きのレイラはよく図書館を利用しているからここにいるだろうか。ここにもいなければ夕食の時に大広間で会うのを待つか……いや、でもやっぱり早く見せてあげたいなと思いながら図書館のドアを開けると、カウンターは休暇前の貸出・返却手続きでごった返していた。
ドラコはそこを素通りして適当に図書館内を歩き回る。図書館はかなり広い上に棚で仕切られているから見通しが悪い。ひとつひとつ棚の間を覗き込みながら奥の方へ歩いていくと、探していた大好きな少女の声が聞こえてきた。小さな声だから何を話しているかまではわからないが、間違いなくレイラの声だ。誰といるんだろう。ポッターやグレンジャーだったら嫌味でも言ってやろうと思いながら声の聞こえる方へ進むと、レイラと一緒にいたのはグリフィンドール生ではなく、背の高いハッフルパフ生だった。
ドラコは直接会話をしたことはないが、その相手の男子生徒のことは知っていた。ハッフルパフのシーカーで、パンジー達が「ハッフルパフにはもったいないくらいハンサムな上級生がいる」と話しているのを聞いたことがある。二人は楽しそうにクスクス笑いながら話している。そのレイラの表情はドラコがずっと見てきた笑顔のはずなのに、ドラコが知る笑顔と何かが違う気がして胸の奥がムカムカする。
「──…れは大変だね」
「うん。だからね、ネビルが……きゃっ!びっくりしたぁ。ドラコ、どうしたの?」
突然腕を引かれてレイラは目を丸くして振り返り、ドラコの姿を見て首を傾げた。その後ろでセドリックがドラコを見て柔らかい笑顔を浮かべる。
「レイラのお兄さん、だよね?」
「レイラ、いくぞ」
「えっ?」
なんだか無性に腹が立って、ドラコはレイラの手を引いて歩き出した。困惑するレイラは手を引かれながら「セドリックごめんね、また休暇明けにね」と後ろに声をかけている。それが余計にドラコの機嫌を悪くするのだが、レイラはそのことに気付けない。
「ねぇ、ドラコ、どうしたの? 怒ってるの?」
「……違う。なんであんな奴と一緒にいるんだ」
ドラコは図書館を出ても不機嫌な表情で歩き続け、空き教室のドアの前でようやく立ち止まった。言われた言葉にレイラはきょとんとする。
「あんな奴って……セドリックのこと?」
「劣等生集団のハッフルパフなんかと関わったって、何の役にも立たないだろ」
「そんな言い方よくないわ!ハッフルパフには優しくていい子が沢山いるのよ。セドリックだって、」
「うるさい!!」
大声で怒鳴られ、レイラはびくりと体を竦ませた。ハリー達といる時だってこんなきつい言い方はされたことがない。レイラの目に涙が浮かんだのに気付き、ドラコは慌てて困ったようにレイラを抱き締めた。
「いきなり怒鳴ってごめん。ちょっと……、機嫌が悪くてレイラに八つ当たりした。ごめん…」
「何か嫌なことでもあったの?」
涙をぬぐいながら心配そうに見上げてくるレイラが愛しくて、ドラコはもう一度「ごめん」と繰り返してから柔らかな頬に謝罪の口付けをした。
「ううん、大丈夫。──それより、レイラに見せたいものがあるんだ」
「見せたいもの?」
ローブのポケットから取り出した許可証を渡すと、レイラは溢れんばかりの笑顔を浮かべた。
「うわぁ!じゃあ明日からドラコとずっと一緒にいられるの!?」
「あぁ。同室の奴らにはもう話をつけてあるから、夜は僕の部屋で寝ればいい」
今回のクリスマス休暇は秘密の部屋騒ぎの影響もあって、学校に残る生徒はほとんどいない。スリザリンで残るのはドラコの他にはクラッブとゴイル、ノット。それから七年生が一人だけだ。二年生は全員同室だが、レイラをその中で寝かせるわけにはいかない。三人には無人になる部屋を使うように言ってある。
「ホグワーツでドラコと一緒に寝られるなんて夢みたい…夢じゃないよね?」
「頬をつねってみるか?」
「うん、お願い──いひゃいっ!ってことは、やっぱり夢じゃないのね!」
大はしゃぎで笑うレイラを見て、ドラコはさっきまでのムカムカした気持ちなんて忘れてしまった。
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