10.クリスマス休暇
休暇が始まり、降り積もった雪と同じくらい深い静寂が城を包んだ。グリフィンドールは残る生徒がハリー、ロン、ハーマイオニー、それからウィーズリー兄弟だけらしく、談話室を好きに使えると大喜びだったがレイラが休暇中はスリザリン寮に滞在すると告げるとブーイングの嵐が起こった。
「私は今年もお家に帰ってるからホグワーツにはいないと思えばいいのよ」と言っても納得しない双子に散々構われ、結局休暇初日はいつものようにグリフィンドールの談話室で楽しく過ごしてしまった。

おかげでその日の夜に大広間で会ったドラコは不機嫌で、レイラはドラコの機嫌を直すためにいつも以上に甘えることにした。ほとんど人のいないスリザリンの談話室でべったりくっついて過ごせば、眠りにつく頃にはドラコはさっきまでの不機嫌が嘘のように笑顔に戻る。我が兄ながら単純だ。

スリザリンの談話室は細長くて天井が低い石造りの部屋で、全体的に緑を基調とした荘厳な雰囲気はマルフォイ邸に近いものがある。そのせいなのか、初めて足を踏み入れたはずなのにもう何度も来たことがあるような気持ちになる。ノットは黙々と読書に耽っているし、クラッブとゴイルはお菓子に夢中だ。ドラコとレイラの話し声だけが響く談話室はすごく落ち着く。他寮生である余所者感など感じることもなく、レイラはまったりと休暇初日の夜を過ごした。



優しく髪を撫でる指先を感じて目を覚まし、ぼんやりと微睡んでいると頬に唇を寄せられた。レイラはふにゃりと笑って大好きなグレーの瞳を見つめ返した。

「レイラ、メリークリスマス」
「ん、メリークリスマス」

マルフォイ邸の子供部屋とは違うベッドでドラコと朝の挨拶をするのはなんだか不思議な感じだ。寮のベッドは二人で眠るには少し窮屈だが、ぴったりと寄り添って眠る二人には特に問題もなかった。

「今日も寒いねぇ。お布団から出たくないわ」
「そうしたらいつまでもプレゼント開けられないぞ?」
「それはやだ……んんーっ、お布団の中に入ったまま生活できるような魔法ってないのかな」

ドラコの胸にぐりぐりと頭を押し付けるレイラを見つめ、ドラコは愛おしげに目を細める。

「じゃあ僕が布団の代わりにレイラを抱っこしていようか」
「ほんとうっ?」

冗談のつもりで言ったのだが、目を輝かせるレイラに笑ってしまう。こうなったら後には引けない。レイラはブランケットを羽織ったドラコに後ろから抱きしめられながらプレゼントの開封作業に取りかかった。

あいかわらず大半は名前も知らないような人達からのプレゼントだ。それは後回しにして、家族や友人からの物を開けていく。ルシウスとナルシッサからはレイラお気に入りの洋服ブランドの新作がぎっしり詰まった携帯クローゼット。普段は手のひらサイズだが、杖で叩くと元の大きなサイズに戻る魔法がかけられている。その中からタートルネックの白いニットワンピースを選び、さっそく着てみる。薄手のふわふわした生地だが、一枚で十分暖かい。

「どう? 可愛い?」
「可愛いけど……少し丈が短くないか?」

眉をひそめるドラコの膝の上に戻り、再び後ろから抱き締めてもらいながらワンピースの裾を軽く引っ張った。

「短くないわ。それにタイツを履いてるから寒くないのよ」
「そういう問題じゃなくて…」

まだ何か言いたげなドラコを放って別のプレゼントに手を伸ばす。ルースからは可愛らしい装丁の本。どうやら恋愛小説のようだ。アブラクサスからは綺麗な海の写真集。写真の周りに説明文のようなものが書かれているが、見たこともない文字でどんなことが書かれているのかまったくわからない。
セブルスとハーマイオニーからは手鏡とポーチのセットで、まさかこの二人のプレゼントが被るとは思わず、レイラはついつい笑ってしまった。セブルスのものは深緑とシルバーのスリザリンカラーで、ハーマイオニーのは淡い水色の可愛らしいデザインだ。どちらもレイラ好みのデザインだから、大切に使わせてもらおう。

セドリックからは可愛くてすっきりしたデザインの腕時計だった。レイラが「時計があったら便利かな」と呟いていたのを覚えていてくれたらしい。文字盤部分には色とりどりの花びらが舞っていて、しばらく眺めているとそれが雪に代わり、また花びらに戻った。

「わぁ!今年はグリフィンドールカラーのクマさんなのね!」

ドラコからのプレゼント、真っ白なリボンを結んだ真紅のテディベアを抱き締めてレイラは顔をほころばせた。去年は真っ白なリボンを結んだ深緑色のテディベアだったから、並べたらきっと可愛い。毎年恒例になったドラコからのテディベアは今年で五つ目になる。今は子供部屋に飾っているが、一年のほとんどを過ごすのはホグワーツだ。今度家から送ってもらってグリフィンドール寮の寝室に飾るのもありかもしれない。

ハリーやロン、グリフィンドール生からの物。パンジー達スリザリン生からのもの。友人からと思われる物を全て開け終わり、レイラは幸せな気持ちで微笑んだ。自分のことを考えて贈り物をしてくれる友人がいるのは、とても幸せなことだ。皆もレイラからのプレゼントを喜んでくれているだろうか。


去年クリスマス休暇を経験したハリー達からホグワーツのクリスマスは素晴らしいと聞いていたが、想像以上だった。大広間にはキラキラ輝くクリスマスツリーが何本も立ち並び、柊とヤドリギの小枝が天井を縫うように飾られている。天井からは暖かく乾いた魔法の雪が降りしきり、大広間を白く染め上げている。
レイラはアルコール抜きのエッグノッグで体を温めながら、ダンブルドアが楽しげにクリスマスキャロルに合わせて指揮する姿を見つめて体を揺らした。家族で過ごすクリスマスが一番だが、ホグワーツのクリスマスも悪くない。隣にはドラコもいてくれるし、グリフィンドールのテーブルから賑やかな笑い声が聞こえてくるのも楽しい。

クリスマスディナーを堪能した後、レイラはドラコと手を繋ぎながらスリザリンの談話室に戻った。ちなみにクラッブとゴイルはまだ食べ足りないらしく大広間に残っている。二人の胃袋を満足させるには途方もない量の食べ物が必要だ。さっさと食事を切り上げてどこかへ行ってしまったと思っていたノットは談話室で課題に取り組んでいた。レイラはクリスマスに勉強するなんてと目を剥いたが、ドラコはノットの姿を見て「僕も課題片付けなくちゃな」と呟いた。

「クリスマスの夜なのにお勉強するの?」
「課題が残ったままだと落ち着かないだろう? それに魔法薬は特に量が多いから、早く手を付けないと終わらないよ」
「……うぅ、セブルスもいじわるよね。あんなにいっぱい出すなんて」

休暇中に休むことは許さないと言わんばかりの大量の課題を思い出して憂鬱になる。魔法薬学ほどではないが、レイラが苦手な変身術もそれなりに課題が出ているし他の教科も同じだ。

「一緒にやればすぐに終わるさ。──ノット、僕らもここでやるけど構わないか?」

ノットが頷いて机のスペースを空けてくれたのでレイラも観念して課題をすることにした。ドラコの部屋から勉強用具を持ってきて、三人でひとつの机を囲む。ドラコもノットも成績優秀だからレイラが分からない問題で躓くとどちらかが助け舟を出してくれる。おかげで思ったよりスムーズに進んでいく。

「『全天八十八星座辞典』持ってるか?」
「僕は持ってない」
「私も。天文学の課題?」

ノットの手元に広げられた羊皮紙には天体図が書かれ、細かな字で書き込みがされている。レイラからすれば既に完成しているように見えるが、ノットはまだ納得がいかないらしい。腕時計で時間を確認して立ち上がった。

「図書館に行ってくる」
「あ、じゃあ私も一緒に行くわ。魔法薬の本が欲しいの」
「なら僕も行く──いや、レイラはここで待ってるといい。廊下は冷えるし、風邪を引いたらいけない」

ノットに続いてレイラも立ち上がろうとしたが、ドラコに手を引かれてしまった。あいかわらず過保護だ。

「そう? じゃあお願いしようかな」
「課題用の本だけで平気か?」
「うん。ありがとう」

二人が談話室から出ていくのを見送り、レイラは『魔法薬調合法』のページをぱらぱら捲りながら溜息をついた。せっかくの休暇なんだから勉強も休ませてくれればいいのに。

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