14.選択
少しの間ハリーに優しく背中を撫でられ、ようやく落ち着いてきた。もしあのままひとりぼっちで記憶の中に取り残されていたらと思うと……あまりの恐ろしさにぞっとする。もう二度と記憶の中に入ったりしないと決意しながら顔を上げ、少し赤い顔をしたハリーの顔を覗き込んだ。

「今見てきたこと、どう思う? あの男の子って…」
「……うん。ハグリッド、だと思う。でも何かの間違いだよ。ハグリッドがスリザリンの継承者だなんて絶対ありえない」
「そうだよね。ハグリッドがマグル生まれを襲うようなことするはずないわ」

ハグリッドは外見こそ恐ろしいが、とても優しくて愛情深い人だと知っている。彼が故意に人を傷付けるわけがないということくらい、一年ちょっとの付き合いしかないレイラ達にも分かる。

「……でも、もしハグリッドがあの生き物が『秘密の部屋』の怪物だって知らなかったら…」

ハリーの言葉にレイラは目を丸くした。そんなことあるわけない──いや、でも…とレイラは唇に手を当てて考え込んだ。ハグリッドが生き物全てを愛していることは知っている。それがどんなに凶暴で人の手に負えないレベルの生き物だろうと関係なく、だ。去年だけでも自分の小屋でドラゴンを育てようとしたり、巨大な三頭犬をペットにしていたりと前科もある。もしハグリッドが偶然にあの怪物を見つけ、長い間閉じ込められていることを可哀想に思ったなら……ありえない話ではないかもしれない。

「リドルが言っていた通り、ハグリッドはちょっとだけあの怪物をお散歩させてあげるつもりだったのかもしれないわ」
「うん、誰かを殺そうと思ったわけじゃない。それは絶対だよ」

ハリーが強い口調で断言した。レイラもそれに同意するようにはっきりと頷く。ハグリッドは誰かに危害を加えるつもりはなかったのだろう。ただ少し、彼の悪い癖が出てしまっただけだ。

真剣な話の最中だが眠気には抗えない。レイラがふわぁとあくびをするとハリーはくすりと笑った。

「もう遅いし、眠いよね。考えるのはまた明日にして今日は寝ようか。僕達が見てきたこと、ロンとハーマイオニーにも教えてあげないと」
「うん──あ、ねぇハリー。リドルと一緒にいた女の子のことなんだけど」

眠たげに目を擦りながら頷き、立ち上がろうとしてレイラはそういえばと座り直した。

「……まだロンとハーマイオニーには言わないでほしいの」
「どうして?」
「あのね、単なる偶然で私にそっくりなだけの赤の他人ならそれでいいのよ。でももしそうじゃなかった場合…」

そうでなかった場合──自分が祖母だと思っている二人とは違う、もう一人の祖母がいた可能性が出てきてしまう。そうなると、それはもうレイラ個人の話ではなく、家族全体に関わる話になる。はっきりするまでは、例え友人だとしても軽率に広めていい話だとは思えない。
どう説明したらいいかわからなくて口ごもっていると何かを察してくれたのか、ハリーは「わかった」と頷いた。

「レイラが二人に話してもいいって思えるまで、あの女の子のことは黙ってるよ」
「ありがとう。……もしかしたらあの人、お祖母様のお姉さんとかかもしれないわ」

祖母に姉妹がいるという話は聞いた事がない。けれどレイラはハリーに心配をかけないようにわざと明るく笑って言った。
あの人は誰なんだろう。




次の日の朝、ハーマイオニーが起こしに来てもレイラはなかなか起きることができなかった。昨日あんな遅くまで起きていたのだから仕方ない。結局レイラはほとんど眠った状態でハーマイオニーに引っ張られて大広間に行き、一時間目の授業は眠って過ごした。レイラと同じように遅くまで起きていたハリーはあくびをしながらもちゃんと起きているのだから偉いと思う。午前の授業が全て終わった頃にようやく目を覚ましたレイラはハリーを尊敬の眼差しで見つめた。

昼食後、四人は空き教室に入って昨日レイラとハリーが見てきた記憶について話して聞かせた。と言ってもほとんど話していたのはハリーで、レイラはロン達が記憶の真偽やハグリッドが犯人かどうかについて話しているのを聞きながらあの少女について考えを巡らせていた。

あの少女と自分はどういう関係なのか。こうして考えているだけでは何も分からない。しかし、どうやって調べたらいいのか。ドラコはレイラと同じように何も知らない可能性が高い。ルシウスとナルシッサなら知っているだろうか。その二人より知っている可能性が高いのはアブラクサスだ。けれど当事者かもしれないアブラクサスに聞くのははばかられる。

「──…に行って、全部聞いてみたらどうかしら?」
「あっ!」

突然声を上げたレイラに三人の視線が向けられる。

「ごめんなさい、なんでもないの。ちょっと考え事をしていて…」

慌てて首を振ると呆れたような顔をされてしまった。こんな時に考え事なんてと言われている気がして、レイラはもう一度「ごめんね」と謝っておいた。
すっかり忘れていたがルースとアブラクサスは同級生だ。彼女なら何か知っているかもしれない。そう思い至ったレイラは早速次の授業中にルース宛の手紙を書くことに決めた。

レイラが考えに耽っている間に三人は「また誰かが襲われないかぎり、ハグリッドには何も言わないし聞かない」という結論を出したらしい。真実であれ冤罪であれ、五十年も昔の嫌な記憶をほじくり返されるのは嫌だろう。嫌な思いをさせずに済むならそれが一番だとレイラもその考えに同意した。

ちなみに一番情報を握っているであろうリドルは相変わらず笑顔を浮かべるだけで質問に答えてくれない。「解答欄がズレているよ」なんてどうでもいいことは教えてくれるくせに肝心なことは教えてくれないなんて。レイラは頬を膨らませながらインク消しゴムに手を伸ばした。

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