02.夏休み
「お母様ここに付けるの、お花とお星様とどっちの方がいいと思う?」
「うーん、どっちも素敵ね」
「お花の方が可愛いけど、ドラコはお星様の方が好きかしら?」
「レイラが選んだ物ならドラコはどっちでも喜んでくれると思うわ」
「んー……じゃあお花にする!」

レイラは手に持っていた銀色に輝く花の飾りを「ドラコ、がんばってね!」と書いた横断幕に貼り付けていく。ナルシッサはその様子を微笑ましそうに眺めながら杖を振り、リビングの窓に飛び回るクィディッチ選手の姿を映し出した。

今日、ルシウスとドラコはダイアゴン横丁へ新しい学用品を買いに出掛けている。いつもなら「私も行きたい!」と駄々をこねるレイラだったが、今日はにこにこ笑顔で二人を送り出した。ドラコが出掛けている間にリビングの一室を飾り付け、サプライズパーティーをしようと計画していたからだ。
毎日あんなに一生懸命練習しているのにそれでも不安になるのか、時々ドラコが「もし選手に選ばれなかったらどうしよう」と零しているから、何か励ましてあげられないかなと考えた結果のサプライズパーティーだ。

「お休みの間も魔法を使えたらいいのに…」
「ふふ、私が代わりにやるわ」
「ありがとう、お母様──あ、そろそろアップルパイ焼き上がるかな?」

横断幕を壁に貼り付けようと背伸びするレイラの頭を撫で、ナルシッサが杖を振って綺麗に貼り付けてくれる。それにお礼を言い、室内に漂ってきたアップルパイのいい匂いに頬をゆるませた。飾り付けを始める前にオーブンに入れた物が焼きあがったのだろう。
ということはそろそろドラコ達が帰ってくる頃かもしれない。そう考えた直後、タイミング良く玄関から鈴の音が響いた。

「ドラコ達帰ってきちゃった!どうしよう、まだ飾り付け終わってないのに!」
「私がやっておくから、レイラは迎えにいってあげて?」
「わかった!」

レイラはコンフェッティバルーンをナルシッサに渡し、玄関へと駆け出した。玄関ホールにはルシウスとドラコの姿があり、ドラコの手には箒が入っているであろう細長い包みが握られている。

「お父様、ドラコ、おかえりなさい!」
「ただいま」
「ねぇドラコ、それって箒?」

勢いよく抱き着いたレイラを受け止め、ルシウスは愛しそうに目を細める。外から帰ってきたばかりで少し熱の篭ったルシウスのローブに顔を填めたまま尋ねると、ドラコは頬を紅潮させて頷いた。

「父上が買って下さったんだ──ニンバス2001だ!」
「わぁ!見せて見せて!……あ!でも……えーっとね、あのね、……ちょっと待っててね!」

目を泳がせながら不自然な笑みを浮かべ、くるりと背を向けて廊下を駆けていくレイラの姿を見送ったルシウスとドラコは小さく吹き出した。サプライズ≠セからドラコには気付かれないようにしなくちゃと言っていたはずだが、どうもレイラは隠し事をするのに向いていない。
昨日の夜なんてベッドの中でドラコに向かって「あのね、あのね、……うふふ、内緒なの……ふふ」と楽しげに笑っていたのだから、いかにも何か企んでいますと言っているようなものだ。

「ドラコ、気付いていないふりをしてやりなさい」
「勿論です」

父子が肩を揺らしていると、レイラが笑顔で戻ってきた。

「もう大丈夫!ね、ドラコ。リビング行こ?」
「子供部屋じゃなくて?」
「えーっと……今日はリビングに行きたい気分なの!ね?」

少し意地悪するように聞くと、レイラは困ったように笑う。それが可愛くてドラコはくすりと笑ってレイラの手を取った。

「わかった。行こう」
「うん!あ、ドアを開けるのはドラコのお仕事よ」

ルシウスは目を細めて仲良く手を繋いで歩く子供達の後ろをついていく。リビングの扉の前に着くと、レイラはわくわくした気持ちを隠しきれていない顔でドラコの横顔を見上げた。

「それじゃあ、開けるよ?」
「うん!」

ガチャリ。扉を開けた瞬間ファンファーレの音が鳴り響き、銀色と緑色の紙吹雪が舞った。しばらくそのまま待つが、一向に紙吹雪は治まりそうにない。

「……レイラ、やっぱり量が多かったんじゃないかしら」
「いっぱいあった方が楽しいかなぁって思ったんだけど……これは多すぎたかも。前が見えないわ…」

ナルシッサとレイラが小声で話す声が聞こえてきて、ルシウスは耐えきれずに笑ってしまった。それにつられたようにドラコも笑い出し、結局紙吹雪が止むまで四人はクスクスと笑っていた。

ようやく紙吹雪が舞うのを止め、改めて飾り付けられた室内を見渡したドラコは感嘆の声を上げた。銀と緑、スリザリンカラーを基調にした飾り付けがされた室内は普段の落ち着いたリビングとは大分雰囲気が違う。
キラキラ色を変える文字で書かれた「ドラコ、がんばってね!」の言葉を見て、誇らしげな表情のレイラを抱き締めた。

「びっくりした?」
「ああ、びっくりしたよ……ありがとう、レイラ」
「私、ドラコがいっぱい頑張ってるの見てたよ。だから、心配しなくて大丈夫よ!」

レイラは顔をほころばせ、大好きな兄の背中を撫でる。

「ドラコなら絶対に代表選手になれるわよ。ね?」
「そうだな。それにお前には最新型の箒もあるんだ。怖いもの無しだろう」

ルシウスとナルシッサもドラコの背中を優しく撫でて笑う。自慢の家族からそう言ってもらって、それでもまだ不安だなんて言えない。
家族の期待に応えたくてドラコは自信たっぷりの笑顔で頷いた。

「はい!絶対にスリザリンの代表選手に選ばれてみせます!」
「さすが私の自慢の息子だわ」
「ドラコ、私お母様と一緒にアップルパイも焼いたの!食べよう?」
「レイラ、先に荷物を置かせてあげなさい」
「はーい」

こうして楽しげな笑い声が上がるマルフォイ家の穏やかな夏のひと時が過ぎていった。

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