
03.ホグワーツへ
夏休みはあっという間に過ぎ去り、九月一日がやってきた。結局この休暇の間ハーマイオニー達とのお泊まりや買い物の約束を果たすことはできず、レイラは一度もマルフォイ家の敷地から出ることはなかった。
ならばせめてルースの家にある部屋「月見桜」にと思ったのだが、それも叶わなかった。なぜなら月見桜に行くにはアブラクサスの暖炉を使う必要があるからだ。しかしその部屋は彼の許可がなければ入ることはできない。そしてアブラクサスは現在イギリスにはいない。よってレイラは月見桜からダイアゴン横丁の街並みを眺める事もできず、ひと夏中マルフォイ邸の中で過ごすしかなかった。
ハリーの救出劇も聞きたいし、ハーマイオニーが両親と観に行った演劇についても聞きたい。家族でフランス旅行に行ったというセドリックの話を聞くのも楽しみだ。
九と四分の三番線に降り立ったレイラは去年とは違い、心からの笑顔でルシウスとナルシッサに抱き着いた。両親との別れは寂しいが、数ヶ月もすればクリスマス休暇がくる。そう分かっているから悲しくはない。
今でも家族で過ごす時間が一番好きなことに変わりはないが、それと同じくらい友人達と過ごすホグワーツでの生活も好きだと思えるようになっていたから尚更だ。
「お父様、お母様、行ってきます!」
「いってらっしゃい」
両親が笑顔で姿くらましをしたのを見届けて、レイラとドラコは荷物を運び入れたコンパートメントへ向かった。汽車の発車時刻はまだまだ先だ。そのせいか車内にいる生徒の姿は少ない。
「みんな私達のいるコンパートメントわかるかな?」
「すぐ見つけてくれるよ──ほら。噂をすれば、だ」
ドラコがそう言ってドアの方を指さすと、ちょうどクラッブとゴイルが顔を覗かせたところだった。縦にも横にも大きな体格の二人は夏休みの間にさらに大きくなった気がする。
「クラッブ、ゴイル、二人ともお久しぶり。夏休みは楽しかった?」
二人はのろのろと頷き、ドラコとレイラの向かいの座席に腰を下ろした。
「父上がニンバス2001を買って下さったんだ。後でお前達にも見せてやる」
「シュッとしててすごくかっこいいのよ!」
「そうなんだ。デザインも勿論、この箒は──…」
ドラコのニンバス2001談義が始まってしまった。これは一度始まるとしばらく終わらない。クラッブとゴイルはドラコの言葉を理解しているのかいないのか、いつも通りの顔でうんうんと頷いている。レイラはこの夏中何度も聞かされているので、正直聞き飽きていた。元々クィディッチや箒に興味がないから余計にだ。レイラはこの話を聞く役目は自分ではないと結論づけ、今朝届いた雑誌の最新号を読むことにした。クラッブとゴイルという優秀な聞き手がいるのだ。レイラが聞いていなくても構わないだろう。
それからしばらくしてザビ二とノットが話に加わると話はさらに白熱した。話しているのは主にザビ二とドラコの二人だけだが。
(……なんだかすごくデジャブだわ)
去年の新学期、初めて乗ったホグワーツ特急も同じメンバーでクィディッチの話題で盛り上がっていた気がする。そして同じようにクラッブとゴイルはいつの間にかお菓子に夢中だったし、ノットは興味なさげにしていたし、レイラは退屈だった。
少し前に汽車は動き出した。生徒は皆車内のどこかにいるはずだ。
「私、お友達のところに遊びにいってくる」
「友達?まさか……」
「パンジーとかミリセント達、きっと一緒のコンパートメントにいると思うわ」
その言葉を聞き、一瞬歪んだドラコの顔がすぐに安心した表情に変わる。おそらくハリー達の所へ行こうとしていると思ったのだろう。パンジー達なら安心だと快く送り出してくれた。
パンジー達スリザリンの女子生徒が集まっているコンパートメントか、ハリー達グリフィンドール生が集まっているコンパートメントか。先に見つけた方にお邪魔しようと、コンパートメントを覗き込みながら廊下を歩いていく。
二つ隣の車両に移動したところでコンパートメント内に見知った顔を見つけた。セドリックだ。けれど彼と一緒にいるのはレイラの知らない顔ばかり。おそらくセドリックと同じハッフルパフの男子生徒だろう。さすがにここにお邪魔する気にはなれない。他の友人を探そうと再び廊下を歩き出したが、すぐに後ろから呼び止められた。
「レイラ?──やっぱり。今、顔が見えた気がして」
振り返ると、セドリックがコンパートメントから顔を覗かせていた。人違いではないとわかると、セドリックはそのまま廊下へ出てくる。
「セドリックまた背が伸びた?」
「そうかな?レイラは……あんまり変わってないね」
「成長期はこれからなの!」
「はは、ごめんごめん。そうだ、レイラに渡したい物があるんだ。ちょっと待ってて」
休暇前より高い位置にある顔を見上げたまま頬を膨らませると、セドリックは楽しそうに笑ってコンパートメントへ引っ込み、すぐに戻ってきた。
「これ、お土産」
「私に? 開けてもいい?」
「どうぞ」
お洒落な柄の包装紙を開けると、小ぶりな赤い薔薇とパールで造られたヘアピンが入っていた。
「わぁ!かわいい!」
「女の子が喜ぶ物が分からなくて……でも旅行先で見かけて、きっとレイラに似合うと思ったんだ」
「とっても可愛いわ!……どう?似合う?」
早速貰ったばかりのヘアピンをサイドの髪に留めて見せると、セドリックは「うん、可愛い」と笑ってヘアピンに触れた。素直に可愛いと褒められてレイラは上機嫌で微笑んだ。
「レイラ!ここにいたのね!──あ、ごめんなさい。お邪魔だったかしら?」
「ハーマイオニー!探しに行こうと思ってたの」
後ろから聞こえた声は数ヶ月ぶりに聞く友人のものだ。レイラが笑顔のまま振り返ると、そこにはハーマイオニーとネビル、それから見知らぬ赤毛の女の子が立っていた。
「それじゃ僕はこれで。レイラ、またね」
「うん、またね。これ、ありがとう!」
友人と合流したレイラに気を使ってくれたのか、セドリックは手を振ってあっさりコンパートメントへ戻っていった。
「今のってハッフルパフのディゴリーよね?あなた達知り合いだったの?」
「去年勉強教えてもらってたの。言ってなかった?」
「聞いてないわよ!でも今はそんなことより、大変なの。ハリーとロンを見ていない?」
「ハリーとロン?うーん、見てないと思うわ。私さっきまでドラコ達と一緒にいたの」
「そう……」
ハーマイオニーは眉を寄せ、残念そうに溜息を吐いた。
「何かあったの?」
「それがジニー……この子、ロンの妹のジニーよ。ジニー達と一緒に汽車に乗ったはずなんだけど、二人の姿が見当たらないの」
ネビルの隣に立っていた赤毛の女の子はくりっとした鳶色の瞳でレイラを見上げた。なるほど、たしかにウィーズリー家の兄弟に特徴が似ている。
「こんにちは。私レイラ・マルフォイ」
「ジニーよ。ロン達からよく話は聞いているわ。よろしく」
ジニーはにっこり笑って手を差し出した。レイラも笑いながらそれを握り返し、ネビルとも「久しぶり」と握手を交わした。
「私、向こうの車両も探してくるわね」
「そんなに心配しなくても、どこか……たとえばシェーマス達のコンパートメントとかにいるんじゃないの?汽車には乗ってるんでしょう?」
「…………」
「乗ってないの!?」
三人が不安そうな顔で黙り込んでしまったので、レイラは思わず悲鳴を上げた。
「まだわからないわ!それを確認する為に探してるの」
「ジニーは一緒に来たんでしょ?」
「駅までは間違いなく一緒だったわ。でも私達、駅に着いたのがギリギリで……自分の事で精一杯で他の人に気を配る余裕がなかったの。だからロン達が乗ったところは見てないのよ…」
ジニーは申し訳なさそうに目を伏せる。少しでも元気づけたくてレイラはその手をぎゅっと握って微笑みかけた。
「きっと乗れてるよ。私も一緒に探すから、ね?」
「……うん、ありがとう」
ジニーは弱々しく、それでもしっかりと笑い返してくれた。
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