04.ギルデロイ・ロックハート
翌朝、レイラを起こしにきてくれたハーマイオニーは相変わらず不機嫌なままだった。どうやら昨日のハリーとロンの登校方法をまだ許せていないらしい。
「汽車に乗れなかったからって車で飛んでくるなんて……それに他の皆もまるで二人を英雄みたいに!」とハーマイオニーが不満をぶちまけるのを聞きながらレイラはヨーグルトにジャムをかけた。普段朝はあまり食べないレイラだが、昨夜の歓迎会ではほとんど何も食べる事ができなかったのでさすがにお腹が空いていた。
レイラが話半分に聞き流していることに気付くと、ハーマイオニーはふん!と鼻を鳴らして鞄から取り出した『バンパイアとバッチリ船旅』を読み始めた。いくらレイラに言っても無駄だと思ったようだ。

それからしばらくしてハリーとロンがやってきた。ハーマイオニーがツンとした表情のまま「おはよう」と言うのでレイラは笑ってしまった。

「ハーマイオニーはまだちょっと怒ってるの」
「僕達だって好きで車を飛ばしたわけじゃないよ!汽車に乗り遅れて焦ってたんだ!」
「来年からは発車時刻に間に合うようにしなきゃね」

レイラがくすりと笑うとハリーは神妙な顔で首を振った。

「発車時刻には間に合ってたはずなんだ。でもなんでかわからないけど、九と四分の三番線への入口が閉じちゃったんだよ」
「入口が閉じちゃった?」
「そうなんだ。いくらカートを柵に押し付けても、うんともすんとも言わなかったんだよ。まだ発車時刻より前だったのに」

発車時刻を過ぎたからといってすぐに柵が閉じることはないだろう。九と四分の三番線には見送りに来ている保護者達も大勢いるだろうし、彼らが戻るためにもホグワーツ特急が発車してからしばらくは開いたままになっているはずだ。

「ゲートが故障しちゃったのかしら?」
「……それか、誰かの妨害か」
「妨害?誰がそんなことするの?」

驚いて目を丸くしたレイラに、ハリーが周囲を見回してから「実はね……」と小声で話し始めた。
ロンとハーマイオニーには夏休みに会った時に話したんだけど、という前置きで始まったのは、夏休み前半にハリーに降り掛かった不可解で災難な出来事についての話だった。

ハリーの誕生日の夜、突然屋敷しもべが現れて「危険な罠が仕掛けられているから、今年ホグワーツに戻ってはいけない」と警告したという。しかもその屋敷しもべはレイラ達が送った手紙をハリーが受け取れないように妨害していたらしい。(レイラはてっきり手紙の妨害をしていたのはハリーの養父達だと思っていた)

「つまり昨日ゲートを閉じてハリー達が汽車に乗れないようにしたのも、その屋敷しもべのせいだっていうの?」
「可能性は高いだろ?」
「うーん…」

マルフォイ家にも屋敷しもべはいるが、普段関わる事がないせいで彼らがどんな考え方をして行動を起こすのか、レイラには予想できない。けれど主人の命令の為に動く生き物だということは知っている。ということは、その屋敷しもべは主人の命令でハリーをホグワーツに行かせないようにしたということだろうか。

「……ねえ、レイラ。君の家に屋敷しもべ妖精っている?」
「ええ、いるわ」

あっさり頷くと、ハリーとロンは何か言いたげに顔を合わせた。隣で本を読んでいたハーマイオニーもいつの間にかこちらを見ている。

「名前は?その屋敷しもべ妖精、なんて名前?」
「名前?えっと…ダニー、じゃないわ。ドーラ?うーん…なんだったかな…」
「覚えてないの?」
「私ね、屋敷しもべってあんまり好きじゃなくて、もう何年も顔を見てないの」
「そっかぁ」

がっくりと肩を落とす二人を見て、レイラは眉根を寄せた。

「……もしかして、その屋敷しもべが私の家の子だって言いたいの?」

ハリー達は何も言わなかったが、無言は肯定と受け取ったレイラは頬を膨らませた。いくらドラコとハリー達の仲が悪いからといって、そんな酷いことは命じないはずだ。反論しようと口を開いたレイラだったが、直後ふくろう便が届いたことで有耶無耶になってしまった。ロンの家のふくろう、エロールがミルクの入った水差しに墜落してミルクと羽の飛沫を撒き散らすという騒ぎを起こしたからだ。

「大変だ……」
「まだ生きてるよ?」

気絶してテーブルの上にひっくり返ったエロールを見てロンが絶望的な声を出したので、レイラはエロールを軽くつついて答えた。けれどロンは「違う!」と悲痛な声で叫び、エロールが咥えている赤い封筒を見つめていた。

「ママが僕に『吠えメール』を送ってきた!」
「吠えメール?」

ハリー、ハーマイオニー、レイラの三人は首を傾げたが、ロンとネビルはまるで爆弾を見るような目で赤い封筒を見ているし、シェーマスは「ロンが吠えメールを貰った!」とケラケラ笑っている。
吠えメールが何かは分からないが、四隅から煙を上げ始めた封筒を見てレイラもただ事では無いと顔を引き攣らせた。

「レイラ、耳を塞いだ方がいいぞ」
「耳が使い物にならなくなっちまう」

背後から降ってきた声に顔を上げると、耳に指を突っ込んだフレッドとジョージが面白そうなものを見つけたという顔で封筒を見下ろしていた。わけがわからないままにその言葉に従って耳を塞いだ直後、封筒が爆発した。いや、正確には爆発したかと思った。それくらいの大音量で封筒から怒鳴り声が響いた。

「車を盗み出すなんてなんてこと!!退校処分になっても当たり前です!首を洗って待ってらっしゃい!!」

どうやらそれはロンの母親、ウィーズリーおばさんの怒鳴り声らしかった。レイラは耳を塞いでいても響く怒鳴り声に頭をクラクラさせながらお説教を聞いていた。
自分が怒られているわけでもないのに、怖すぎて涙が出てくる。今までの人生でこんな迫力のお説教を聞いたのは初めてだった。

赤い封筒は散々吠えた後、炎になって燃え上がり、最後は灰になって消えた。レイラがぐすぐすと涙を拭っているのを見て、呆然としていたロンが「なんで君が泣くんだよ!?」と不思議そうに叫んだ。

「レイラは赤ちゃんだから怖かったんだよなー?」

揶揄うように後ろから頭を撫でてくる双子に怒る気力もなく、レイラは双子のどちらか──おそらくフレッドだ。フレッドのお腹に顔を埋めてぐすぐす泣いた。ケラケラ笑いながらもフレッドは優しく背中を叩いてレイラを落ち着かせようとしてくれる。

「ほら、誰もレイラには怒ってないからそんなに泣くなよ」
「だって怖かったんだもん…っ」
「うちのおふくろ、怒ると怖いからなぁ」
「おふくろの第一印象最悪だな。普段はそうでもないんだぜ?」
「そうそう。怒らせると怖いだけで、普段は普通に気のいいおばちゃんだ」
「……うん」

目元を赤く染めたレイラが頷くと、いつの間に配られたのか新しい時間割を見ながら「泣き止んだなら早く行きましょう!一限目は薬草学よ」とハーマイオニーが立ち上がった。

8/47

back



ALICE+