
「さ、私たちも帰りましょ」
店の扉を施錠する音と共に、ティファが笑顔で振り返る。
帰る…と言っても、帰る場所のないあたしだけど、ティファの提案でとりあえず彼女のアパートに向かうことになった。
クラウドも同じアパートの隣の部屋に住んでいるらしい。
…クラウド…結局戻ってこなかったな…
ふとそんなことを考えながら、ティファと並んで歩く。
すっかり夜も深まり、人も疎らになったスラムは昼間とはまた違った様相を見せていた。
何だか…少し怖い。
「ティファ、いつもこんな夜遅くまで店で働いているの?」
「そうね、今色々とお金が必要で…」
「そうなんだ…」
「実は家にも寝に帰るくらいで、ほとんど店にいるの。どっちが家なのか分からないくらい」
そう言って、ふふっと笑うティファ。
笑顔で簡単なことのように言ってのける彼女だけど、それほどまでに多忙なのか…と少し驚いた。
「あたし、これからも出来ることはお手伝いさせてもらっていい?」
「それはものすごく助かるけど…いいの?」
「うん、あたしにも仕事が出来るのは嬉しいし」
正直、この何も知らない世界で自分の居場所のようなものが出来ることは、ものすごく嬉しかった。
じゃあ、これからもよろしくね、と言われて、すぐに頷いたあたしの顔も思わず笑顔になる。
ティファとあたし、2人で決して広くて綺麗とは言えない通路を縫うように歩いていく。
転々として暗めの明かりに…その下にたむろしている人たち。
いやに、視線を感じるような気がするのは、あたしの考えすぎなんだろうか…
「ねぇ、ティファは、いつもこんな夜遅くに家まで帰って、その、怖くないの?」
「え?大丈夫よ?夜はスラムの入り口はしっかり閉じられているし、自警団の人たちが見張りもしてくれているし…この辺まではモンスターも来ないから」
「…え、と…そういうことじゃなくて…」
そう言えば、“モンスター”って単語、クラウドからも聞いたことがあったなぁ…
クラウドはあたしの世界にはモンスターがいないと聞いて、ものすごく驚いていたっけ。
モンスターって、あのモンスター…なのかな?
あたしの中でその単語が意味するものといえば、エイリアンとか、そんな感じだろうか。
頭の中でその姿を思い浮かべて、まさかね、と一蹴した。
ティファは少し考えるような素振りを見せたかと思えば、また笑顔で口を開く。
「仮に、何が現れても大丈夫。私、結構強いから」
グッと拳を見せて笑うティファに、あたしはキョトンとするしかなかった。
そういえば、キラキラと光る石のようなものがはめ込まれた、見たこともない形状のグローブを着けている。
この光る石は見たことがある。
クラウドの大剣にも付いていた。
ただの飾りには見えないけど…本当に、知らないことだらけだ。
「そういえば…」
「え?」
ふと顔を上げると、ティファが横を歩きながらあたしの顔を覗き込んでいた。
「バレットのこと、気にしないでね?」
素性明らかでない相手には、いつもああなのよ…とティファが小さく息を吐いたのが伝わってくる。
店を手伝っている途中で現れたマリンのお父さん。
ものすごく強面で驚いたし、見ず知らずのあたしを正直警戒していたようで頭の先から足の先まで睨むように見られた。
その上、ティファが「クラウドが連れてきた」と説明した途端、「てメェも神羅の犬じゃねぇだろうな」と迫力満点に詰め寄られた。
天使のようなマリンの「このお姉ちゃん、優しいし良い人だよ。仲良しになったの!」という一言で態度を軟化させてくれたから…マリンには感謝しかない。
本当に…鶴の一声みたいだった…
「うん、大丈夫。あたし自身、得体が知れないのは正直否定できないし」
そして、ここでも出てきた“神羅”という言葉。
これは一体何なのか…
事情を全て知っているクラウドに、1度ちゃんと聞いておいた方がいいのかもしれない。
何もかもが、あたしが住んでいた世界での常識では測れない。
ほんの些細なことですら、何度もそう実感させられる。
「でも、名前が悪い人じゃないことは私にもちゃんと分かるわ…ここでは、それだけ分かっていれば十分よ」
「ティファ…」
「クラウドだって、そう思っているから名前を店に連れてきたんだろうしね」
…そう、なのかな…
クラウドにも未だに色々怪しまれているような気はするけど…
でも、そう言ってもらえるのは正直嬉しかった。
ありがとう、と素直に返すとティファが微笑んだ。
「ね、アパートに着いたらあたしの部屋で少しお話しない?」
「え…いいの?ティファ疲れてるのに…」
「大丈夫大丈夫!部屋の中、何もなくて恥ずかしいくらいだけど」
そう言って照れたように笑うティファは本当に綺麗だと思った。
そういえば、ティファとクラウドは友達…なのかな…
パッと見、ただの友達には見えなかったけど…クラウドに突っ込んだことを聞くと、何だか嫌がりそう。
自分で考えておきながら、頭の中には静かに眉を寄せる彼の表情が浮かんで、少し笑ってしまいそうになった。
他愛のない話をしながら、スラムを歩く。
やがて前方に見えてきた大きな建物。
そこが、住んでいるアパートだとティファが教えてくれた。
「まずは、クラウドが帰ってきているか、確認しよう」
そう言いながら、階段を登っていくティファ。
その後を頷きながら着いていくけど、ティファがここがクラウドの部屋だ、と教えてくれた一室からは、明かりが漏れているようには見えなかった。
