15:伍番魔晄炉爆破作戦とお留守番。そして…


  

話に付いていけないあたしにティファが教えてくれた。
ここを拠点としているアバランチを名乗る彼らは、星を救う活動をしているということ。
詳しくは知らないけど、かなり危険なことも…しているということ。
ジェシーが怪我をしてしまったから、作戦メンバーが変わりクラウドが加わった。

「アンタはここにいろ」

戦う術のないあたしは、当然ここでお留守番。
カウンターの中に立ち、1つ1つグラスを拭いていた手が止まり、小さく息を吐いた。
何もすることがないのもしんどいから、と言って自分から始めたことだけど…どうしても色々と考えてしまう。
出掛ける前、クラウドには「マテリアは極力使うな」と、念を押された。
さっきのような幽霊の襲撃がもう無いとも限らないから、そういう緊急事態に備えて一応ポケットに入れたままにしているけど…あんな火柱が出るなら、あたしも少しは戦えるのかも!と一瞬期待してしまっただけに、落胆も一塩、だ。

「名前お姉ちゃん」
「ん?」

名前を呼ばれて、視線を落とすとお花の水を替えに行ったマリンがニコニコしながら立っていた。

「見て!お水を替えたら、お花元気になったの!」
「本当だ。お花、嬉しそう」
「でしょ?」

そう言ってとびきりの笑顔を見せてくれるマリンは、心からの癒しだ。
出発前、バレットさんには「マリンに何かあったら承知しねぇからな」と言われて、未だに警戒されている事実に少しショックを受けていたけど、この笑顔の前ではそんなショックも精神的に癒されていくのがわかる。
天使なんじゃないだろうか、本当に…

「バレットのことなら、気にすることないっスよ!」
「…え?」
「馴染みじゃない相手には、いつもああっス」

マリンと一緒に水替えに行っていたウェッジにまでそう言われて、思わずびっくりしてしまう。

「何で…」
「あ、違ったっスか?」
「ううん、大正解…どうして、あたしがバレットさんに言われたことを考えてたって、わかったの?」
「沈んだ顔、してたっス」

穏やかそうに見えても、この洞察力はさすがメンバーの一員…ということなのか。
図星をつかれたあたしは苦笑いで答えるしかない。
ウェッジはそんなあたしにまるでガッツポーズをするかのような動きを見せながら笑いかけた。

「オレは名前を信じてるっスよ。大丈夫、猫ちゃん好きに悪い人はいないっス!」
「あははっ」

さっき、店の前にやってきた3匹の三毛猫兄弟。
散々モフモフさせてもらって、癒されて、ウェッジともその時に仲良くなったのだけど…そんな風に思ってくれているとは思わなかったから、嬉しかった。
「ありがとう」と返すと「ファイトっス」とまたガッツポーズ。

「あ〜!ジェシー、歩いちゃ駄目っスよ」
「トイレよ、トイレ!これくらい大丈夫」
「留守番中に悪化したら、バレットの雷が落ちるっス」
「うわ…それは勘弁」

店の奥で休んでいたジェシーは、壁伝いに店へと入ってきて、怪我をした方の足もわずかに引き摺っているように見える。
表情は明るく見せているけど、やはり痛むのだろう。
あたしは持っていたグラスを置くと、ジェシーが座りやすいようにカウンターの椅子を少し引いて着席を促した。

「ありがとう」
「いいえ」
「あ、甘えついでで申し訳ないんだけど、水、貰ってもいいかな?」
「もちろん」

頷いて、冷たい水を注ぐと彼女に渡す。
店の2階へと続く階段の方では「お部屋から本を取ってくる」というマリンと、「走ると転ぶっスよ」というウェッジの声が聞こえてくる。
ジェシーとは今日が初対面だし、ウェッジのような共通の話題もまだ見つからない。
何を話したらいいのか…2人の間に流れる沈黙に頭を悩ませていると、何故かジェシーがじ〜っとあたしのことを見ている気がして…

「あの…なにか?」
「ん〜?」

じっと見つめてくる視線に耐えられず、思わず瞳を逸らしてしまう。
それでも、変わらず視線を感じて、どうしたらいいのかわからない。

「初対面でこんなこと聞くのも、失礼なのはわかってるんだけどさ」
「うん」
「クラウドと名前って、どんな関係なの?」
「…え…?」

突然の質問だった。
その内容に驚きを隠せず、キョトンとしながら視線を戻すと、ジェシーはカウンターにわずかに身を乗り出すようにしていて、あたしとの距離が近い。

「クラウド、戦いながら名前のこと、やけに気にかけてるし」
「え、と…」
「やっぱさぁ、クラウドの側に可愛い女の子がいると、気になっちゃうじゃない」
「う、う〜ん…」

言い淀んでいると「で、どうなの?」とジェシーがさらに体を乗り出してくる。
その明るい口調と表情は、返答を待ち侘びているような…あたしの反応を気にかけているような…よく、わからない。
この人は、クラウドのことが好きなんだろうか…
だけど、正直あたしは返答に困っていた。
クラウドとの関係…と言われても、どう答えたらいいのかわからないのだ。
2人の間に起こっていることを話す訳にもいかないし…友達、とも違う。あたし自身、本当によくわからなかった。

「ごめんなさい、どう言ったらいいか…」
「そうなの?」
「うん、自分でもよく、わからなくて…」
「ふ〜ん」

そっかぁ…と呟いて、ジェシーがきちんと椅子に座り直した。
どう返答しようか悩んでいる間、ずっと近い距離にいたジェシー。
クラウドとの関係はわからないけど…気が付いてしまった。
あの夜、帰ってきたクラウドから微かに香っていた女性物の香水…あれはこの人のもの、だ。

「……………」

訳がわからない。
胸の奥がモヤモヤする…そんな理由、どこにもないのに。
その時だった。
店の中で何となく流していたテレビの画面が突然切り替わって、臨時ニュースを告げている。
あたしとジェシー…多分、思っていたことは同じだったはず。

『伍番魔晄炉前から中継です』

テレビ画面には信じられないものが映っていた。
淡々と情報を伝えるアナウンサーの声がやけに遠くに聞こえるようで、体じゅうが凍りつく。

『神羅カンパニーは魔晄炉の爆破予告を分析し、爆破対象を伍番と特定。施設内にて実行犯を特定し、現在、追跡及び爆発物の探索を行なっています。それでは、現地の反応です』

画面に映し出される女性リポーターの様子を呆然と眺める。
ジェシーも言葉を失っているようだし、あたしも同じ。
さっき、放送されていた監視カメラか何かの映像にはバレットさんたちの姿がはっきりと映っていた。
何故かここにいるはずのジェシーやウェッジの姿もあったから、あれがいつの映像なのかはわからないけど、犯人と特定されてしまっているのだから、まずい状況に変わりはない。

「嘘でしょ…」

ジェシーが唖然としたまま呟くのが聞こえる。
ふと見れば、ジェシーが痛む足を庇いながら立ち上がろうとしていて、慌てて静止した。

「あたしが呼んでくる。ウェッジでしょ?」
「お願い」

任せて、と頷いて店の2階に続く階段へと急いだ。

「ウェッジ!大変なの!」

階段を数段登りながら、上の部屋にいるであろうウェッジに声をかけた。
瞬間、以前にも感じたことのある感覚が全身を襲ってくる。
遠くから「名前、どうしたっスか?」というウェッジの声が聞こえてくる中、あたしの足元にはまた大きなひび割れが出来ていて…光が強くなったと思った瞬間、声も出せないまま真っ白なその中に飲み込まれていった。

  

ラピスラズリ