16:再び現代へ


  


“大丈夫か?聞こえてるか?”
「…あぁ」

“あの時は、膝を擦りむいただけですんだけど”
「あのとき?」

“今度はどうかな…起きられるか?”
「こんど?」

“気にするな、今は体のことだけ考えるんだ。体、動かせるか?”
「…やってみる」

“どうだ?ゆっくりな、少しずつ少しずつ”
「わかってるさ」

“今度こそ、ちゃんと迎えに行ってやれ”
「迎えに?誰を…?」


「…なぁ、アンタ、誰なんだ…」


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「………ウド……」

名前を呼ばれているのがわかる。
徐々に意識が浮上する感覚。

「…クラウド…」

ゆっくりと瞼を持ち上げて、最初に目に飛び込んできたのは…白の空間だった。ハッとして体を起こすと、そこが室内だということがわかる。見覚えがあった。ここは…

「…名前…?」

ぼんやりとした頭で名前を呼べば、視界に飛び込んできた彼女がホッとした表情を見せた。
…どういうことだ、これは。
さっきの声は、何だったんだ…?
辺りを見回している俺に、名前が声をかけてくる。

「よかった…声をかけても起きないんだもん、焦った」
「名前の部屋、か?」
「うん」

また、来ちゃったね…と肩を竦ませながら名前が笑う。
ふと見ると、窓の外には雨が降っている。あぁ、だから洗濯物を室内に干しているのか…なんて、どうでもいいことを考えたとき、重大な事実が頭をよぎった。

「アンタ、いつからこっちにいるんだ?」
「う〜ん、こっちの時間で半日くらい前かな…あ、でも向こうでクラウドたちが魔晄炉爆破の犯人だって生中継されてたのは、見てたの。だから心配してて」
「…そうか」

名前の話だと、その後すぐにまた床に亀裂が入り、気が付くとこっちの世界に戻っていたらしい。
俺は…名前がそんなことになっていたとは知る由もなく、そのしばらく後にエアバスターとの戦闘になって…
プレートから、落ちたんだ。あの体の浮遊感、今でもはっきりと覚えてる。
それが、何がどうなったのか、そのまま再び名前の世界に来てしまった…ということか。
あの時聞こえた、俺に話しかけてくる声が妙に気になるが、今となっては夢だったのか、現実だったのか、それすら疑わしい。

「そういえば、クラウド」
「何だ?」
「2人で向こうに行っていた間、こっちの時間はあまり進んでないみたい…向こうで少なくとも1泊はしたから、こっちでどれだけ時間が経っているのかちょっと焦ったんだけど…数時間しか進んでなくて」

安心した、と微笑む名前。
休みはこの日1日だけで、明日からは仕事らしい。
とんでもない状況に身を置かれているはずだが、仕事のことを心配するとは案外余裕なんだな、と少し驚く。
いや、もしかしたらこの状況をあえて考えないようにしているのかもしれない…
床に倒れていたらしい体を起こし、背中のバスターソードを壁に立てかける。

「ねぇ、作戦中に何があったの?ティファたちは大丈夫?」
「ああ、あとは脱出するだけだ。ティファとバレットなら、大丈夫だろう」
「そ、か…」

今まで、笑顔を見せていた名前がゆっくりと視線を床へと落とす。

「…なんか、ごめんね」

突然の詫びに、俺は眉を寄せていた。
詫びられる理由が見つからない。

「だってほら、あたしがこっちに戻って来なければ、クラウドはきっとあのまま向こうの世界に」

いられたのに…
おそらく、名前ならそう言うだろう。
たった数日間の付き合い、と言えばそれまでだが…俺にも名前という女の行動パターンがいくらか分かって来た。
言葉を遮るように、口を開く。

「アンタのせいじゃない」
「でも…」
「ちゃんと原因を突き止めるさ。何の前触れもなく、別の世界を行ったり来たりさせられるのはごめんだ…お互いに、な」

俺の言葉に名前はほんの少し瞳を大きくした後で「ありがとう」と微笑んだ。その表情が、ほんの少し泣きそうにも見えて、俺は視線を逸らす。
向こうの世界で輝くような特徴的な金色に変化していた名前の瞳は、元の濃い茶色に戻っていた。
その時、再び口を開いた名前の声色が元の明るいものに戻ったことに、何故か心の奥底で安堵している自分に気付いて、少し驚く。

「そう言えば、セブンスヘブンで留守番中にね、ジェシーにクラウドとの関係を聞かれて困っちゃった…何て言ったらいいか、わからなくて」
「…そうだな」

確かに、こうして訳が分からない事象に身を置いているということを話さなければ、この関係をどう説明していいのか俺にも分からない。
わずかに考えるような素振りを見せていた名前が、再び俺に笑いかける。

「また一緒にこっちに来ちゃったことを考えると、あれだね」
「何だ?」
「運命共同体、みたいな」

何だ、その上手いこと言った、っていう顔は…
普段の俺なら否定していただろう。「俺には興味ない」と一言言ってしまえば終わる話だ。
だが何も言い返そうとは思わなかった。
ただ、「ふ、」と否定もせずに笑っていた俺に、自分自身驚いていた。目の前の名前がよく笑うから…つられたんだろう、きっと。
そうに、決まっている。

  

ラピスラズリ