
「おはよう」
「あぁ…」
目が覚めて、着替えてから部屋を出ると、すでにクラウドは起きていた。
毎朝この光景が、あぁ、あたしは夢を見ているわけじゃないんだな…といやに実感させるのだ。
今や定位置となっているソファの上に、綺麗に畳まれた毛布が目に止まる。
なんだかんだ言って、律儀というか…ちゃんとしてるというか…
今朝の朝刊を読んで情報収集しているらしいその姿を横目に、洗面所へと入ったあたしは簡単にメイクを施し、髪を束ねる。
身支度を整えてリビングに戻ると、そう言えば…というような顔をしながらクラウドが声をかけてきた。
「今日は、随分ゆっくりなんだな」
「え?」
「時間、大丈夫なのか?」
「あぁ、今日は仕事が休みだから、ゆっくりでいいの」
「そう、なのか」
「だから、今日はクラウドの日用品を買いに行こうと思います!」
突然今日の予定を宣言するあたしに、クラウドは無言のまま。
だけど、少しだけ驚いた表情を見せた。
そして、すぐに首を横に振る。
「そこまで世話になる気は」
「今更それ言う?」
「そこまでしてもらう理由がない」
「だって、他に頼れる人いるの?この数日を見ていたら、クラウドの常識はきっと通じないよ?」
「……………」
返す言葉がないらしい彼に、もう乗り掛かった船だから気にしないで、と伝える。
あたしにとっても、まさにその言葉通り。
本当は…警察だとか、施設だとか、そういう然るべきところに連絡するべきなのかもしれない。そう、何度も思った。
けれど、何の変哲も無い天井から突然落ちてきた…
さらに、その天井は今や何事もなかったかのようにいつもと変わらないただの真っ白な天井へと戻っている。
そんなこと…言っても誰も信じないだろう。
一部始終を目撃していたあたしだって、たまに信じられなくなるくらいなんだから。
そう考えると、今すぐ彼を放り出すことは…どうしても出来なかった。
まずは、クラウドと一緒に何かヒントを探してみよう…どこかに助けを求めるのは、それから。
ふとそんなことを考えながら、自分自身なんだかんだ言いつつも、この状況を何とか飲み込んでいることには少しびっくりする。
それくらい、有り得ないことが起こっていた。
いきなり、何もない天井から降ってきたことももちろんだけど、クラウドの言っていることははっきり言って支離滅裂だった。
神羅?ミッドガル?ソルジャー?
何一つ、あたしが知っていることと一致しない。
見た目や名前からすると日本人ではなさそうだけど、やけに流暢な日本語を話すことにも驚いたし、何より常識的なところが、少し…いや、かなりおかしい…と思う。
だいたい、その剣は一体なんですか?
大きすぎるし、本物なのか偽物なのかはわからないけど、何やら肌身離さず持っているあたりも理解に苦しむ。
「クラウド、まだ1度も外に出たことないでしょ?」
「…アンタが禁止したからな」
「だって、絶対問題起こしそうだもん」
「ふん」
そんな予感がして、クラウドの外出は初日のうちに禁止にさせてもらったけど、ちゃんと守って室内での情報収集に留めてくれているところを見ると…やっぱり、律儀なのかもしれない。
天井から降ってきたことはさておき、言動を見ている限り、記憶喪失とか、そう言うのがぴったりな気がしてきた。
外に出れば、何か思い出すことがあるかもしれない。
「今日は休みだから一緒に外に出てみよう。外の景色から何かヒントが見えてくるかもしれないし」
「……………」
「…何?」
朝のコーヒーの香りが室内に広がっていく中で、返事もせずじっとこちらを見ているクラウドのことがふと気になって声をかけた。
いや…と1度は小さな声が聞こえたけれど、少し考えるような素振りを見せた後、クラウドがまた口を開く。
「…アンタ、相当な物好きだな」
「そういう言い方する?」
まるで皮肉とも取れるような一言に笑いながらそう返した。
この部屋に現れた直後、その大剣背負ったまま外に出て行こうとした姿、あたし今でも忘れていませんからね。
非常識な言動に、大剣まで持ち歩いている彼。
…このまま外に放り出せば、間違いなくすぐに御用となるだろう。
そんなイメージしか湧いてこないだけに、それってあまりにも後味が悪すぎる。
そう思ってのことだった。
悪い人には…見えないし。
「あたしだってお人好しではないからね?とりあえず生活が出来るようになるまでしか面倒みません」
「長居する気はない」
「わかってる」
淹れたてのコーヒーを2つのマグカップに注ぐ。
朝の香りが心地良い。
「とりあえず、外の様子を見がてら、服くらいは買ってこよう」
その服装、目立ちすぎるよ、と続ければクラウドが一瞬眉を寄せたのがわかった。
いやいや、この辺にはノースリーブのニットに、片方だけ謎の肩当てをして歩いている人なんて、いないからね!
はい、とコーヒーの入ったマグカップをテーブルの上に置くと、1度目を伏せたクラウドがゴソゴソと自分のズボンのポケットを漁り始める。
出てきたのは、皮袋…のようなもの。
なかなかの重量がありそうな音をたてて、それがテーブルの上に置かれた。
「…何?これ」
「使ってくれ。そこまで世話になる気にはなれない」
使ってくれ…と言われましても…
キョトンとしたまま動かないあたしに業を煮やしたのか、クラウドが紐を解いた皮袋を逆さにして、テーブルの上に中身を出す。
「いや…本当に、何?これ」
「…何?」
目の前に広がる見たこともない…お金、だとは思うけど…よくわからないもの。
あたしの様子を見て、何やらクラウドも絶句しているようだった。
気を使ってくれたのは嬉しいけれど、これではどうしようもないし、ますます謎が深まっただけ。
服を何着か買うくらい、別にどうってことはない。
大丈夫だから、と言うあたしにクラウドは腑に落ちない様子で顔を背けた。
