
仕事が休みで、特に予定もなかった今日。
あたしとクラウドは、今朝話していた通り、家の外へと繰り出した。
天気は快晴。
これからどんどん暑くなっていくであろう気温も、この時期は心地よさを感じられる爽やかな暖かさ。
頬を撫でていく風も、色づき始めた木々や花たちも、本当に気持ちいい。
外出のシチュエーションは最高だった。
ただ1つ…少し後ろを歩くこの男が不機嫌MAXのオーラをビシビシ感じさせてこなければ、本当に『最高の外出』の一言に尽きただろうに…
チラリ、と後ろを付いてくる彼を見れば、長めの前髪に見え隠れしている眉根は未だ思いっきり寄せられていて…
どうやら、まだ機嫌は治っていないらしいことを理解させられる。
言っておくが、不機嫌になりたいのはむしろこちらの方だ。
まさか、外出直前にあんな押し問答が繰り広げられるとは、思ってもみなかった。
「ほらね…何も起こらないでしょう?」
「…どうだかな」
「だから、街中に野生動物が出ただけで大騒ぎになるくらいなんだよ?イノシシとか、鹿とか、猿とか…」
「俺はアンタに命を預けるつもりはない」
「命って…」
「モンスターが出たら、アンタどう対処するつもりなんだ」
「……………」
モンスターって…一体、何を言っているんだ…
このまま、この会話を続けているとまた押し問答第2ラウンドに突入する気がして、今度は早々と黙ることにした。
思わず漏れたため息くらいは、大目に見てもらいたい…
そう…この男は外出する直前、あの身の丈ほどもありそうな大剣を当たり前のように背負って、部屋から出ていこうとしたのだ。
信じられない光景に、あたしの周囲の時間は間違いなく一瞬止まったと思う。
そういえば、ここに直後も確か同じことをしていたなぁ…と、ひどく他人事のように思った後、すぐにハッとして慌ててクラウドの行く手を阻んだ。
当のクラウドは、何故止められたのかわからない、と言わんばかりの表情を見せていたけど、新聞やテレビから色々と情報を集めた今もまだ同じことをするのか!と色んな意味でびっくりだ。
そして…それからが大変だった。
何が何でもそんな物を持って外出は出来ない、と主張するあたしと、丸腰で外出など命知らずのバカがすることだ、と譲らないクラウドとの押し問答のゴングが鳴った。
疲れた…本当に、疲れた…
「ここは、俺向きじゃない」
「う〜ん…それはよくわからないけど、郷に入れば郷に従えって言うでしょ?」
渋々というか…嫌々というか…
とにかく、あたしの説得を何とか受け入れて、大剣を家に置いてきてくれたクラウドだが、今も到底納得はいっていない様子。
お願いだから、家に帰るまでは我慢してね…と声をかけると、いざという時は拳で何とかするさ、との返事が返って来た。
いや、それもダメだからね!
「駅、着いたよ。ここからは電車で…」
「あぁ」
…あれ?あんまり驚いてない?
クラウドの様子にふと違和感を感じた。
「電車、クラウドの住んでいるところにもあった?」
「あぁ、形もほとんど同じだ」
「そう、なんだ…」
本当に、不思議な事ばかり…
こっちでは有り得ないような生活が垣間見えたと思えば、こんな何て事ないような所で共通点が見つかる。
この人は…本当に、どこから来たんだろう…
クラウドが話すような生活様式が当てはまるような国が、この地球上にあるんだろうか…
「…おい」
「……………」
「おい」
「えっ…」
強めに呼ばれる声が聞こえて、慌てて顔を上げるとクラウドが小さく息を吐くのがわかった。
「電車…乗るんだろ」
「あ、あぁ…うん」
気がつくと、目の前のホームに電車が滑り込んで来た所だった。
思わずぼんやりと考え込んでしまっていた頭をふるふる振って、2人で電車に乗り込む。
休日ともあって、車内はそこそこ混雑していた。
「降りる駅、すぐだから」
座らないで立っていよう、と伝えると、クラウドが無言で頷いた。
特に話すこともなくて、2人の間に流れる沈黙。
隣のクラウドは進行方向に背中を向けるようにして壁で軽く腕組み…そのまま車窓へと視線を向けている。
窓の外の街並み…色とりどりの看板…特徴的な形のビル…どこまでも続く高速道路…
何でもいいから、なにか、彼の記憶にほんの少しでも引っかかるものがあればいいんだけど…
そう思いながら、あたしも同じ景色へと静かに目を向けていた。
