22:あたしの周りの時間が止まる


  

クラウドのマテリア講座は、楽しかった。
色によって効果が分けられているらしいことも興味深かったけど、中には味方になってくれる“召喚獣”というものを呼び出すためのマテリアもある、と聞いて何だか胸が膨らむ。
珍しいマテリアらしいけど、一度は見てみたいものだ。
あとは、同じマテリアでも育て具合によって使える魔法の強さが違ったりもするらしい。う〜ん、奥が深い…
クラウドが言うには、以前この点が引っかかったらしい。もらったバングルにキラリと収まっているあたしのマテリア。育て具合で言うならば、かなり初期の段階らしく…つまりは、以前あたしの目の前で立ち上ったあんな火柱が出せるようなものではなかったようで…
まぁ、マテリアに関する知識が薄いあたしにとっては「あぁ、そうなんだ…」くらいにしか思っていない訳だけど、クラウドにとってはそうではないらしい。この世界ではマテリアは使えないから、今それを試してみることも出来ないけれど…
そんなことより、あたしは今、手のひらの中で起こっている大問題に顔を引き攣らせていた。

「…どうした?」

そんなあたしの様子に気が付いたのか、クラウドが怪訝そうな表情で声をかけて来た。手の中の携帯から視線を上げつつ、思わず苦笑いを見せる。

「あ、うん…ちょっと、困った…」
「何が?」
「あ〜…申し訳ないんだけど、今夜少し出て来てもいいかなぁ…」

そう言ったら、クラウドがはっきりと眉を寄せたのがわかった。ですよね〜…昨日の今日だし…
もう見てもらった方が早い。そう思ったあたしはクラウドの目の前に携帯をズイッと差し出す。その瞳が携帯に表示されているメッセージ画面に落ちたことを確認してから、補足のために口を開いた。

「これ、メッセージを送れたり、インターネットで色々調べられたりする携帯電話ってものなんだけどね…ほら、メッセージが来てるでしょ?」
「……………」
「彼女、昔からの友達で今職場も同じなの。部署は違うんだけど」

あたしもクラウドの視線を追うように、もう一度メッセージ画面へと視線を落とす。

『ちょっと名前、突然長期の有給取るなんて一体どうしたの!?しかも、昨日超絶イケメンと玄関で話してたって噂になってるよ!なになに、私聞いてないよ!』

思わず頭を抱えたくなるようなメッセージのラストは『今日は定時で上がれそうだから、ご飯行こう!』との文言で締めくくられていた。要約すると、ちゃんと説明しろ、となる。
携帯の画面を覗き込んでいたクラウドは、さらに眉を寄せると小さくため息をつく。

「…あの男のことか」
「いや、違うでしょ」

いやいや、明らかに“超絶イケメン=クラウド”でしょう!
秒でツッコミを入れるものの、どうやら彼はピンと来ていないようで…とにかく、あの取引先の男性の話題が上がっていると思い込み、それが気に食わないらしい。
何度も言うけど、貴方のことですよ〜…いっそ、この友達にも例の取引先の男性のことを聞かれた方が、返答しやすかったと思う。昔馴染みの友達だからわかるけど、誤魔化せるような相手ではないし…クラウドのことを聞かれたところで本当のことを伝える訳にもいかないし…一体どう説明したらいいのか。
う〜ん、と頭を悩ませているあたしのことを、クラウドがじっと見ている。とりあえず、行くしかない。

「…と言う訳で、今夜ちょっと出掛けて来ます」
「わかった」
「あ…今夜は絶対に迎えに来ないでね、話がややこしくなるから」
「……………」
「お願いだから返事して〜…お酒は絶対に飲まない!約束するし、早く帰ってくるから!」
「………わかった」

…今、返事するまでにすんごい間があったけど、大丈夫かなぁ…
友達には何とか弁解することを考えているあたしだけど、その最中当人が登場したんじゃ絶対に話がこじれる。一抹の不安を抱きつつ、予定が入ったことで早々に動き出そうと腰をあげる。出掛ける支度もしつつ、クラウドの夕食を作って、友達へどう弁解するのかも考えないといけない。やることは、多い。




そして、夜。近くのイタリアンレストランで友達と合流。
昔馴染みなこともあって、彼女のテンションは最初から高かった。結局、クラウドのことをどう説明しようか頭を悩ませたものの、都合の良い言い訳なんて思いつかなくて、もう当たって砕けろ、の精神でこの場に座っているあたしとは大違いだ。

「で?超絶イケメンって誰?噂になってるよ、もしかして彼氏できた?」
「いや、違う。そんなんじゃ…」
「じゃあ、何よ〜。写真とかないの?」
「ないよ、そんなもの」

え〜、つまんない、と呟く友達に思わず苦笑い。あたしなんて変に追求をされたらどうしよう、と内心冷や汗の状態で、目の前に運ばれて来た美味しそうなパスタの味もほとんどわからないって言うのに…
友達は同じくパスタをフォークに巻きつけながら、再び瞳を向けてくる。

「じゃあ、噂のイケメンって誰なの?友達?でも、職場にまで来るくらいでしょう?」
「あ〜、それは…う〜ん」

あたしの視線が思わず泳いでしまったその時、ピコンと軽快な音がして、テーブルの上に置かれていた友達の携帯電話の画面に明かりが灯る。ちらっとしか見えなかったけど、待ち受け画面にメッセージが届いたことを知らせる表示が出たようだった。あたしは、友人がメッセージを確認する様子を固まったまま、見つめることしかできない。メッセージの内容に…じゃない。
一瞬しか見えなかったはずの、その待ち受け画面があたしにとっては衝撃すぎた。うまく、言葉が出て来ないくらいに…

「…え…何で…?」
「ん?何が?」
「その待ち受け…」

何とかそう告げると、友達は「あ、これ?」と言いながらあっさりとその待ち受け画面をあたしに見えるように差し出して来た。雷に打たれる感覚って、こういうことを言うんだろうか…その携帯画面から目が離せない。
薄暗い中にそびえ立つ巨大なビル…緑色の照明…その前に立つのは、逆立った金髪の人物…大剣を背負ったその姿には見覚えがある。体が、震えた。

  

ラピスラズリ