23:貴方は誰…?


  

友達が差し出す携帯の待ち受け画面にいるのは、クラウドだった。あんな特徴的な髪型、それに大きな剣、見間違うはずがない。映っているのは後ろ姿だけど、確信にも近い思いだった。
何で?どうして?
クラウドが外出中にたまたま写真を撮られた?一瞬そう思ったけど、クラウドの目の前にそびえ立つ巨大なビルはどちらかというと、向こうの世界の建物のように思えた。あんなどこか不気味に見えるビル、こっちでは見たことがない。
一体、何がどうなっているのか…携帯を呆然と見つめたままのあたしの耳に、友達の明るい声が届く。

「興味あるの?珍しい〜」
「……え?」
「これ、面白いよ〜。貸すから名前もやってみる?」
「…何の、こと?」

携帯の画面と、友達の言葉が繋がらなくて、ゆっくりと視線を上げたあたしの瞳は間違いなく動揺に揺れていただろう。

「何って、これ。名前はゲームとかに興味なさそうだし、やっぱ知らない?」
「…え……ゲー、ム…なの?」
「そうだよ、映像もすっごい綺麗で映像作品みたいに思うかもしれないけど、思いっきりゲーム。最近リメイクされたんだよね〜、ファイナルファンタジー7っていうゲームで元々好きだったんだけど、リメイクがきっかけでまたどハマりしちゃって」

バクバク、と心臓がうるさいくらいに鼓動を刻んでいるのがわかる。目の前にいる友達の声も、少し遠くに聞こえるような気がした。何も言えないまま、友達の言葉に耳を傾けているあたしに、その子は笑顔で話を続ける。
元々ゲームや漫画が好きな彼女とは違い、そういうものに今まで一切興味を示さなかったあたしが理由はどうあれ、ゲームに興味を持ったのかと思って、友達は嬉しいのかもしれない。
まるで他人事であるかのように、ぼんやりとそんなことを思った。

「これは主人公なんだけど、カッコいいんだよね〜」
「……………」
「このクラウドはもちろんなんだけど、その他のキャラも個性的で魅力いっぱいなの」
「……っ……」

思わず息を飲む。名前まで…同じ…?

「どうする?ホントにやってみる?」
「…う…う〜ん…どうしよ…」
「名前にもやってみて欲しいな〜!語りたいし、ティファ派かエアリス派か、すっごい気になる」
「……え?」
「ゲームをやった人の大半が、このどっちかのヒロインを好きになるんだよ。好みが分かれるみたい」

友達の言葉が衝撃的すぎて、もうダメだ…頭が全然回らない。ティファって、あのティファ…だろうか。
美人で、料理が上手で、面倒見が良くて、セブンスヘブンを切り盛りしてて…
あたしが向こうに行ってしまった時、怪しさ満点だったはずなのに何も詮索することなく暖かく受け入れてくれた…あの、ティファ…?もう1人の女性の名前は、知らない。
知らない、けれど…そう否定しつつも、あたしの頭の中には1つの可能性がすぐに浮かび上がる。向こうの世界に行ったのは前回が初めて。まだあたしが出会っていないだけの可能性だって…ある。
色々考え呆然としている間に、友達の話題はもう他へと移っていたようで「ねぇ聞いてる?」と正面から肩を叩かれて、ハッとする。「ごめん、なんだっけ?」と聞き返した声は明らかに震えていた。

「だから、今回の突然の有給は一体どうしたの?って聞いたの」
「…あ、あぁ…それは…」

思えば、今回友達とこうして会うことになった理由もそれだった。改めてその疑問をぶつけてくる理由もよくわかる。
だけど、あたしは…

「…ごめん、今日はもう帰るね」
「えっ?」

もう、居ても立っても居られなかった。「本当にごめんね」と何度も謝って、結局ほとんど食べなかったパスタの料金をテーブルに置くと、慌ててレストランを後にした。
ちょうど近くの停留所に停まった自宅方面行きのバスに飛び乗る。
今も心臓の鼓動が落ち着くことはなくて、出掛ける時には確かに家にいたクラウドの顔が頭に浮かぶ。家を出る前に彼の分の夕飯を作ると「悪いな、助かる」とお礼を言ってくれた。「皿くらいは洗っておく」と言ってくれたクラウドに「帰ってきたらやるからいいよ〜、ありがとう」と笑って、いつも通り「行ってきます」と声をかけ家を出た。
クラウドがこっちに来てから、何度も交わされたやり取りだけど…途端に恐ろしくなる。そのやり取りが、突然失われてしまうんじゃないか…という恐怖。

ねぇ、クラウド…貴方は、一体誰なの…?
今も家にいるの…??

バスの窓から見える景色は確実に自宅へと近付いている。それなのに、この時間がこんなにも長く、もどかしく感じられたことは、今までに一度もなかった。

  

ラピスラズリ